第36話

今日は日曜日……なのだが、刹那が仕事で居ない為、物凄く暇だ。


さて何をしようかな? レンタルDVDは全部観てしまったし、面白いテレビ番組もしていない。


……そうだ。DVDを返しに行って、新しい物を借りてこよう。 そして、あのカフェに行ってコーヒーでも飲みながらまったりするのも良いな♪


そうと決まれば即行動だ。 借りてきたDVDを纏めて袋に入れる。 袋を持ち、財布をショルダーバッグの中に入れて部屋を出た。


DVDを返却し、新しい物を物色。 そう言えば、新作のアクション映画とホラー映画が出ていたな。それを借りて帰ろう。 俺はホラー映画が好きなのだが、刹那はホラーが大の苦手だ。 ちなみに刹那が好きなジャンルは、意外な事にアクション映画が大好きなのだ。 この前ホラー映画を一緒に見ようと誘った時はもう大変だった。


「け、圭介さんが望むなら……死ぬ気で観ます! ま、任せて下さい!」


と顔を青ざめさせて俺に合わせてきた。 ……刹那さんや、嫌なら嫌で良いんだよ? そんな顔色悪くして脂汗を流しながら俺に合わさなくても。


「だ、大丈夫です! いけます!」


……結果は全然駄目でした。 物語前半の女性が高所から落ちてアスファルトに叩きつけられるシーンを観た刹那は大絶叫。 それ以降は震えながら俺にしがみついたまま一切テレビ画面を観ようとしなかった。


それ以来俺の好きなホラー映画は刹那が仕事等で部屋に居ない時に観る様にしている。


今回は刹那の好きなアクション映画も借りてるし、刹那も楽しめると思う。


レンタルDVDショップを出て、この前行ったカフェに立ち寄る。


やっぱり此処のカフェは落ち着くなぁ。コーヒーも美味しいし。


俺はコーヒーを飲みながらゆったりとした時間を過ごした。 


ある程度の時間が過ぎて、俺はカフェを後にする。 もう少ししたら刹那が仕事から帰ってくるみたいだから、早めに部屋に帰ってホラー映画を観てしまわないと。


カフェから出て少し早歩きでマンションに向かっていると、駅の改札付近でおろおろしている女性を発見した。


ブロンドの長い髪の毛で白い肌。目の色は青でとても綺麗な女性だ。 ……ん? 何処かで見たような気がするんだが? 気のせいかな?


道行く人達は相手が外国人なので、困っていても躊躇して誰も助けようとしない。


……ええぃ! ままよ!


俺は女性に近付き


「May I help?」


と問いかけた。するとその女性はパッと明るい顔をして


「助かった~。ウチ、娘に会いに来たんやけど、道に迷ってしもーて。なぁ兄さん、もし良かったらこの地図の見方教えてくれんかな?」


……バリバリ日本語でした。 


「ええ。良いですよ。見せて下さい。 フムフム……ああ、此処なら分かりますよ。もし良かったらご案内しましょうか?」


「本当に!? 助かる~♪ お願いしても良いかな?」


「勿論です」


俺がそう言うと、女性が申し訳無さそうに


「あ、あのね、お兄さんにお礼出来る様な物を今は持ってないんよ。手元にあるといえば、娘に持ってきたタルトとみかんジュース位しか無くて」


「お礼なんていいですよ! そんなつもりで案内する訳じゃありませんし。只、貴女が困っていたから声を掛けただけですので。気にしないで下さい」


すると女性は感動した様子で


「凄いな貴方は。損得勘定無しで人助け出来る人をウチは尊敬するよ。……決めた!悪いんやけど、先ずはその場所は後回しにして、ケーキが買える場所に連れて行ってくれんかな?」


と興奮気味で俺に詰め寄ってきた。 えっ? 訳が分からない。 いきなりケーキが買える場所に連れていけって言い出したぞ!?


……何だろう このテンションは? 何処かで見たことがあるテンションなんだけど?


それに詰め寄ってきた女性から知っている香りがフワッと漂ってきた。 嗅いだことのある俺の大好きな香りが。 弁解しておくが、俺は決して変態では無い! 知らない女性の香りを嗅いで ハァハァする趣味や性癖は無い! だからお願いだからお巡りさんは呼ばないで!


かなりテンション高めの女性の勢いに負けた俺は、さっき迄居たカフェまで女性を連れて戻った。


カフェの中に入り


「此処でケーキが買えますよ。此処のケーキは美味しいですよ」


と伝えると


「じゃあ貴方、好きなケーキを選んでな。奢るから。遠慮は無しね」


と言ってきた。 ますます意味が分からない。


「いやいや、それは流石に悪いですよ! 自分は道案内をかって出ただけなので。だから遠慮いたします!」


「益々気に入った! 是が非でも奢るから! 貴方に拒否権は無いよ!」


俺と彼女は店の中で押し問答を始めてしまった。


暫くして店の中のお客様からの視線が痛くなり、俺が仕方なく折れて


「分かりました。じゃあお言葉に甘えます。 それじゃあ、このショートケーキをお願いします」


「うんうん♪ それで良いんだよ♪ こういう時は遠慮した方が失礼になるから憶えておく様にね♪」


……その理論、本当なんだろうか? もしかしたら貴女だけのマイルールなのでは?


俺はショートケーキを奢って貰い、箱に入れてもらい(刹那へのお土産にした)女性と一緒にカフェを出た。


今度こそ女性が行きたいと言っていた場所まで案内する。


そこは俺のマンションがある場所だった。


「ありがとうね~♪ 助かったよ~♪ じゃあウチ行くね」


そう言って女性はマンションのエントランスに入っていった。 マンションに娘さんが居たのか。世の中狭いもんだな。


俺もマンションのエントランスに入り、カードキーをかざして部屋番号をプッシュする。


「あれ? お兄さんもこのマンションだったんだ。偶然だねぇ?」


「そうですね。偶然ですね」


女性とそんな話をした時、仕事から帰ってきた刹那がエントランスに入ってきた。


「あっ、圭介さん♥️ 出掛けられていたんですか?」


「DVDを返して、新しい物を借りてきたよ」


「……また怖い話ですか?」


「それもあるけど。アクション映画も借りてきたから」


「それなら観ます。怖い話は観ませんから!」


そんな話をした時


「せっちゃん! そろそろお母さんに気付いて欲しいんやけど……」


と声がした。 あの女性からだった。


「えっ!? お母さん!? いつの間に居たの!?」


「……さっきからずっと居たけど?」


俺が此処まで案内してきた女性は刹那のお母さんだった。














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