第45話

桜舞い散る4月。 徐々に気温も暖かくなり、かなり過ごしやすい季節になった。


4月は出会いと別れの季節でもある。 俺の会社でも新しい出会いがあった。 そう、新入社員が入社してきた。 緊張でガチガチになっている新入社員達を見て、俺も4年前はこんな感じだったのかな?と思わず苦笑してしまった。


それはさておき、4月8日に会社の歓迎会と称した飲み会がある。 仕事が終わってから都内の○○ホテルの大宴会場を貸し切りにして行うらしい。 何せ人数が多いから広い場所を貸し切りにしないと入らないのだ。


そしてうちの会社の良い所は、社員の家族や友人も参加OKという所である。 普通の会社なら社員のみなのだが、社長が人との繋がりを最も大切にする人であり、普段から頑張ってくれている社員の家族や友人を呼ぶのは当然の事らしい。ご家族友人の慰労会も兼ねているみたいだ。


だから参加人数は100人を超える。 まぁ中には遠慮して参加されないご家族や友人もいるのだが。


俺は会社の飲み会の日にちが決定したので、刹那に


「4月8日に会社で飲み会があるんだけど」


と話し掛けてみた。 刹那は綺麗なブロンドの髪を後で1つに纏め、お気に入りの猫のエプロンを着けてキッチンで鼻歌を歌いながら調理をしていた。


「良いですね。行ってらっしゃい♪ お帰りはいつ頃になりそうですか?」


「あのさ、もし嫌じゃなかったらなんだけど」


「圭介さん?」


「その日の飲み会、刹那も来ないか?」


「へ~っ。ウチもですか………って え~~~っ!? ウチも参加しても良いんですか!?」


「うちの会社の社長が人との繋がりを最も大切にする人で、社員の家族や友人も参加OKっていう人なんだよ。 なんでも家族や友人の慰労会も兼ねているみたいなんだよね。 で、刹那もどうかな~って思ってさ。どうかな?」


「ち、ちょお~っと待って下さいね!」


刹那は急いで鞄からスケジュール帳を取り出し


「4月8日…4月8日っと……よし! その日は都内でのMVだけ! 頑張れば行ける!」


真剣な顔をしてスケジュール帳とにらめっこをした後


「大丈夫です! 頑張って仕事終わらせて、必ず参加します! 何時からですか?」


「PM7:00から開始だな。場所は○○ホテルの大宴会場ね。そうだ刹那、ちゃんと篠宮さんに許可を貰ってくれよ? 勝手な事したらまた怒られるぞ?」


「了解です! あっ、今から篠宮さんに電話します!」


とりあえず調理を中断し、刹那は嬉しそうにスマホを操作し篠宮さんに電話を掛けだした。


……そうだ。 どうせなら篠宮さんも誘うか。


「刹那、篠宮さんも誘おう。篠宮さんに予定を聞いてみてくれるか?」


俺が刹那にそう言うと、刹那は笑顔でOKサインを出してきた。


……トゥルルル 


『はい篠宮です。どうしたの刹那?』


「篠宮さん? あのですね、4月8日のPM7:00から○○ホテルの大宴会場で圭介さんの会社の飲み会があるんですよ」


『ふ~ん。歓迎会かしら?』


「その飲み会に私も参加しないかって圭介さんに誘われたんです。だから、私も参加しても良いですか?」


『……え? 刹那、貴女行くの? 自分の立場分かってる?』


「え? 立場ですか? 圭介さんの彼女(結婚を前提にお付き合いしている)ですけど、それが何か?」


『……貴女芸能人でしょうに? 一般企業の飲み会に芸能人が参加って聞いた事無いわよ?』


「……駄目…ですか?」


刹那は篠宮さんに反対されたと思い、少し泣き声で聞いてみている。


『……どうせ駄目って言っても行くんでしょ? ちゃんと分からない様にしてから行きなさいよ? まったく貴女って人は……ブツブツ』


「篠宮さんありがとう! で、もう1つあるんだけど」


『まだあるの!? 何か怖いんだけれど……』


「心外だな! まぁ良いか。 圭介さんがですね、篠宮さんも一緒にどうですか?って言ってくれています。 一緒に行きませんか?」


『へ? 私も!? そ、それは丹羽さんに御迷惑が掛かるのでは!?』


2人の会話が聞こえていた俺は、刹那に電話を代わる様にジェスチャーし電話を代わって貰う。


「篠宮さん? 丹羽です。すみません突然」


『丹羽さん? 刹那の話では私も丹羽さんの会社の飲み会に参加して欲しいって事だったんですが、本当ですか?』


「はい。本当です。俺の会社の社長が人との繋がりを最も大切にする人で、会社が飲み会をする時には必ず社員の家族や友人を呼んでも良いと言われるんですよ。実際社員の家族や友人が参加して皆で楽しく飲んでますから。 で、今回俺は恋人の刹那と、いつも御世話になっている篠宮さんを招待しようと考えた訳です。 篠宮さん、一緒に行きませんか?」


篠宮さんは一時考えた後


『丹羽さんが御迷惑じゃ無いのなら是非参加させて戴きます』


「良かった♪ それじゃあ会社には俺と後2人参加しますと伝えて良いですね?」


『はい。宜しくお願いします』


よし決まりだな! 明日にでも総務に伝えなくっちゃな。


俺は刹那にスマホを返す。


「篠宮さん、4月8日楽しみですね♪」


『刹那……PM7:00に間に合う様に仕事終わらせるわよ! 万が一遅れたりしたら丹羽さんに恥をかかせる事になるからね!』


「当然! 絶対に圭介さんの顔に泥を塗る事はしないから! その日のMVは気合い入れて一発OK狙うよ!」


『その意気よ刹那! 頑張りましょう! 8日の日はどんな服装で行こうかしら? 時間のある時にショップ行かなくちゃ♪』


篠宮さんも楽しみにしてくれているみたいだな。 喜んでくれて良かった♪


電話の後刹那はハイスピードで調理を済ませ、料理を食卓に並べた後、俺と一緒に食事を摂り(かなり早いペースで)


「圭介さん、終わったらシンクの中に食器入れて置いて下さいね! 後で洗いますので! ウチは少しだけ失礼しますね!」


刹那はそう言い残してウォークインクローゼットに消えていった。


俺はテレビを観ながらゆっくりと食事を摂っている。


時々クローゼットの方から


" この服は違う。 これは駄目。 やっぱりウチも新しく新調しようかな? "


等の声が聞こえてきた。 刹那……まだ日はあるから、今から服を選ばなくても……。


相当気合い入ってるなぁ。




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