第127話
~刹那side~
「「…………」」
ウチと楓ちゃんは今楓ちゃんが泊まる予定のお部屋の前に居ます。
「……開けるよ楓ちゃん」
「……はい」
ウチはドアノブに手を掛けてお部屋のドアを開けました。 ……どうか何も出ません様に!
ぎいいいいいっ。 ゆっくりとお部屋のドアが開きます。
お部屋の中は電気を消している為か真っ暗です。
ウチは入り口近くにあるスイッチに手をやり、スイッチを操作して電気を着けました。
……見た目普通のシングルルームですね。 特に怪しい所は見当たりません。 ウチと楓ちゃんはお部屋の中に入り辺りをキョロキョロと見渡しました。 やっぱり特に変わった所はありません。
「……特に変わった所は見当たりませんね。 楓ちゃん、大きな音がしたのは?」
「……お風呂場の方からしました」
「……よし。見に行きましょう」
ウチは勇気を振り絞ってお風呂場に向かいました。 ……圭介さん、ウチに力を貸して下さい!
お風呂場の扉を開けて中を確認しましたが、特に変わった所はありませんでした。
「楓ちゃん、見た感じですが、普通のバスルームですね」
「でも!! 確かにドンッ!!って何かを思いっきり叩く音が聞こえてきたんですよ!!」
楓ちゃんは怯えた様子でウチにそう訴えてきました。
……う~ん。何かを思いっきり叩く音がしたのなら、何か痕跡が残っていると思うのですが……。
「……分かりました。楓ちゃん。ウチも少しの間一緒にこのお部屋に居て様子を見ますね。 そしてもし何かあれば、直ぐにフロントにお願いしてお部屋を代えて貰いましょう」
「……分かりました。由井さん、お手数をお掛け致します。宜しくお願い致します」
ウチと楓ちゃんはお部屋の中で少しの間様子を見る事にしました。
ベッドサイドに座った楓ちゃんは小刻みに身体を震わせています。 物凄く怖いんですね。分かりますよ。 だって……ウチも今めっちゃ怖いもん! 本当なら此処から速攻逃げ出したいんだもん!!
でも、折角ウチを頼って来てくれた楓ちゃんの為にもウチは逃げ出す訳にはいかないんだから! 怖いのを我慢しなくちゃ!
「「…………」」
テレビを着ける訳でも無く、ただ無言で静かなお部屋に設置してあるベッドサイドに座るウチと楓ちゃん。 ……ううっ。沈黙が辛い。何かお話をしようよぅ。
……あっ、そうだ! 前に圭介さんから聞いた事があります! もしお部屋の中がおかしい時は、お部屋の額縁の裏やベッドの下に御札があるって。 多分無いとは思いますが、一応念の為……。
ウチはベッドサイドから立ち上がって、お部屋の奥にあるお花の絵が入っている額縁を手に取り、ひっくり返してみました。
……嘘でしょ?
額縁の裏に長方形の半紙みたいな紙が貼ってあるのを発見してしまったんです。 しかも、半紙には赤いインク(?)で文字が書いてありますよ!?
「? 由井さん? どうかしましたか? いきなり額縁なんか持って?」
楓ちゃんが不思議そうにウチに話し掛けてきました。……が、ウチはプチパニックになっていてそれ処じゃありませんでした。
「あばばばばばばっ!?」
「由井さん!? どうしたんですか!? 何故いきなり壊れたラジオみたいな声を出しているんですか!?」
ま、まさか!?
ウチは額縁を持ったまま急いでベッドに駆け寄り、勢い良くしゃがみ、ベッドの裏を覗き込みました。
ぴゃあああああああっ!?
ウチの予感は的中しました。 なんとベッドの裏にも長方形の半紙みたいな紙がびっしりと貼り積めていたんです! しかも赤いインクで文字が書いてありますよ! こ、これは確定じゃないですか!?
「ゆ、由井さん?」
ベッドの裏を覗き込んだまま全身バイブレーションかましているウチに話し掛けて来た楓ちゃんに
「楓ちゃん!! 直ぐにこの部屋から逃げるよ!!」
「ええっ!? 何かあったんですか!?」
ウチは額縁の裏を楓ちゃんに見せて、その後楓ちゃんに無理矢理ベッドの裏を覗き込ませました。
「……逃げましょう! 今直ぐに!!」
楓ちゃんは真っ青な顔をしてウチにそう言ってきました。 大賛成!! ウチと楓ちゃんは脱兎の如くお部屋から飛び出しウチのお部屋に逃げ帰り、お布団を頭から被って2人で抱き合いガタガタと震えて一睡もせずに朝が来るのを待ちました。
そして朝になり、それから直ぐにフロントにダッシュで向かい、フロントの職員さんに昨夜あった事を伝えました。 びっくりしたフロントの職員さんは直ぐに楓ちゃんのお部屋に向かっていき、問題の額縁とベッドの裏を確認してくれました。
暫くしてからフロントの職員さんが戻ってきて
「申し訳御座いませんでした!! あの御札みたいな物は、前回宿泊されましたお客様が悪戯で貼っていった物みたいです。 由井様と樋口様を驚かせ、怖い思いをさせてしまい大変申し訳ありませんでした!!」
フロントの職員さんは手に持った長方形の半紙みたいな紙をウチと楓ちゃんに見せてきました。 半紙みたいな物には赤いインクで " 俺、参上(笑)!! " と書いてありました。
そういえばあの時、恐怖から冷静な判断が出来ず、ちゃんと文字を読んで居なかった気がします。
……幽霊の正体見たり枯れ尾花って奴ですか……。 真実を知ったウチと楓ちゃんはその場にへたり込んでしまいました。 そして楓ちゃんが聞いた大きな音の正体も判明。 音の正体は、隣のお部屋のお客様の寝相が悪く、寝返りで壁を蹴った時の音が楓ちゃんのお部屋に響いただけだったみたい。 ……壁を蹴った音がお隣のお部屋に響くなんて……どれだけ壁薄いんですかこのホテル?
フロントの職員さんは平謝りしながら迷惑を掛けたとの事で、提携しているレストランの無料チケットをウチと楓ちゃんに手渡してくれました。
うん。これはある意味ラッキーだよね。1食分のお金浮いちゃった♪
ウチと楓ちゃんはそのチケットを使って美味しい朝食を食べに行く事にしました。
あっ、それと、嫌な思いをしたお部屋に宿泊させれないとの事で、このホテルに滞在中は楓ちゃんもウチと同じスイートルームにお部屋の移動をさせて貰ったみたいです。シングルルームと同じお値段で。 滅多に無いよそんな事。超ラッキーじゃん楓ちゃん♪
ウチと楓ちゃんがレストランに向かう途中、楓ちゃんがポソッと
「……でもおかしいなぁ? 私があの部屋を飛び出した時、部屋の電気は着けたままだった気がするんだけどなぁ……。何で部屋の電気消えてたんだろ? それに、私が泊まる予定だった部屋って角部屋だった様な……まっ、いっか。 由井さ~ん♪ 何食べます~?」
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