第19話
今日は午前中から外回りの営業に出ている。
11月に入り、秋から冬になってきたのを感じる様になってきたな。
俺は営業の途中でコンビニに寄り、缶コーヒーを購入しようとすると、俺の後から
「よう。丹羽もここら辺の営業だったのか」
と赤坂に声を掛けられた。
「ああ。奇遇だな。 少し休憩しようと思ってな」
「俺もだよ」
赤坂は手に同じ缶コーヒーを持っていた。
同じ同期の中でも、やっぱりこいつとは妙に馬が合う。 アルコールの好みはバラバラだが、こういった嗜好品等はほぼ同じ好みだ。
俺達はレジで会計を済ませ、コンビニの外に出た。
近くの公園のベンチに座りコーヒーで一服する。
「どうよ? 丹羽は契約取れたか?」
「1件だけだけどな」
「良いなぁ~。俺はまだ取れてないぜ」
「大丈夫だ。赤坂なら取れるって」
「そうか~? 丹羽がそう言うならそうなんだろうな。 サンキューな」
「おう。お互いに頑張ろうぜ」
「おう。任せろ!」
俺達はニヤリと笑いながら拳を合わせる。
「赤坂、今からどうするんだ?」
「1回会社に帰ろうと思ってるけど?」
「そうか。俺も会社に帰ろうと思ってたから、一緒に帰らないか? 俺、社用車に乗ってきてるし」
「おっ♪ 助かるぜ。じゃあ御言葉に甘えて」
俺達は社用車を駐車してある○○ビルの地下駐車場に向かって歩きだした。
「丹羽、今日は刹那さんは何してるんだ?」
「刹那か? 今日は確かドラマの撮影で○○町に来ている筈だな」
「はぁ~。やっぱり多忙だな刹那さんは。 ○○町ってここら辺じゃないか?」
「そう言えばそうだな。もしかしたら刹那の撮影にバッタリ出くわすかもな」
「もし出くわしたら撮影見ていくか?」
「それも良いな♪」
しかし撮影現場には出くわす事無く、俺達は○○ビルの地下駐車場にたどり着いた。
「刹那さんの撮影現場見たかったな~」
赤坂がぼやく。
「そう出くわす物じゃないさ。運が良かったら見れるって位だと思うぜ?」
「だよな~」
そんな会話をしながら社用車近く迄来ると、何やら声が聞こえてきた。 男女の声だ。多分 一対一だ。
「お? 何か揉めてるっぽい声だな?」
「赤坂もそう思うか? 俺にもそう聞こえる」
俺達は声のする方を見てみると、そこには見た事がある人達が居た。
男の方は、今売り出し中のイケメン俳優の 長井 達也だ。 こいつにはあまり良い噂は聞かない。 泣かせた女は数知れず。噂では無理やりヤって妊娠させた女もいるとの事だ。しかも、認知はせずに子供を無理やり降ろさせたらしい。 ……鬼畜だなこの男。 こいつ、かなりのイケメンなのでファンが多いし、事務所の社長がスキャンダルを揉み消しているらしい。
どうやら長井が誰かに言い寄っているみたいだな。
俺達は長井達の会話に聞き耳を立ててみた。
「なぁ、そろそろいい加減に俺の女になれよ。良い思いさせてやるからさ~」
「しつこいです! 私は貴方の事が嫌いです! 私には心に決めた人が居るって何度言ったら分かるんですか!」
ん? 女性の方は何処かで聞いた事のある声だな?
「でもさ~、そいつ一般人だろ? そいつより俺の方が絶対イケメンだって~」
「はっ! 何を自惚れた事を! 一回死になさい! あの人の悪口は決して許さない!」
おお、女性は言いきったぞ! 女性も芸能人みたいだな。その一般人の男は幸せだな。
「いい加減にしろよ刹那! 俺の女にしてやるって言ってるんだ! 俺の物になりやがれ!」
「絶対に嫌! あんたの女になる位ならのら猫の女になる方がマシ!」
なんと、言い寄られていた女性は刹那だった。
刹那の言葉を聞いた長井は逆上し、刹那を壁に押し付けた。
「嫌! 離して! 大声だすよ!?」
「出してみろよ! どうせ此処には誰も来ないさ! もう面倒くさいから無理やりヤって俺の女にしてやるよ!」
長井は刹那の服に手を掛けようとした。 俺はその姿を見て、自分でも信じられない位のスピードで刹那達に走りよった。
「お、おい丹羽! って聞こえてないか……まぁ良い。これで何とかなるからなぁ。 頑張れよ " 王子様 " 」
赤坂が何か言っていたが聞こえる訳がなかった。
刹那は必死に抵抗を試みるが、長井の押さえつける力には勝てなかった。
「い、嫌! 助けて!」
「いい加減に諦めろよ! さぁいくぜ!」
「誰か! 誰か助けて!」
「あいよ!」
俺は長井の肩を掴み無理矢理引き寄せこちらを向かせる。 そして渾身のストレートを長井の顎に入れた。
いきなりの出来事に刹那は涙目でキョトンとしていた。
「テメェ……俺の女に何してやがる! 殺すぞ!」
俺は長井に向かって怒鳴り散らした。
「け、圭介さん……?」
「刹那! 大丈夫か!? 怪我は!? 酷い事されてないか!?」
俺は刹那にそう捲し立てた。
「圭介さん落ち着いて! 大丈夫だから! 酷い事されかけたけど、圭介さんのお陰で何もされなかったよ。 ありがとう圭介さん♥️」
そう言って刹那は俺に抱き付いてきた。
……良かった~。刹那が無事で本当に良かった~。
よし! こいつやっぱり殺そう!
俺は勢い良く振り返り、長井に向かって拳を当ててやろうとするが、長井の姿は地面に倒れていて、ピクリとも動いていなかった。 どうやら俺のストレートが長井の顎にクリーンヒットし、脳を揺らして失神させていたらしい。
よし!今がチャンス! 止めだ!
俺は拳を振り上げ奴の顔目掛けて振り下ろそうとした。 すると、俺の拳は赤坂に捕まれ止められた。
「赤坂! 何故止める! こいつに止めを差すチャンスなんだぞ!」
俺は赤坂を振りほどき、もう一度拳を振り下ろそうとしたが、今度は刹那に羽交い締めにされ止められる。
「圭介さん! もう良いから!」
「でも、こいつは刹那に酷い事をしようとした! 報いは受けるべきだ! 俺の大事な女に手を出そうとしたんだぞ!」
「だ、大事な女……////// 俺の女//////」
刹那は真っ赤な顔になり俯いてしまう。でも、俺を捕まえる力は緩めなかった。
「丹羽、落ち着け。 こいつなんか殴る価値もないから。 お前が殺らなくても世間が殺ってくれるから」
「どういう事だ?」
意味が分からず、俺は赤坂に聞いた。
すると赤坂はニヤニヤしながら
「これだよこれ♪ こんな事もあろうかと動画を撮ってたんだ♪ さて、送信っと」
赤坂は満面の笑みを浮かべスマホの画面をタップした。
しばらくして
「よし、送信完了! これでこいつは社会的に死んだ♪」
赤坂は送信した動画を俺達に見せてきた。 その動画には、長井が刹那を襲うシーンがバッチリ写し出されていた。 勿論モザイク等は無しで。
……確かにこれならもみ消す事は絶対に不可能だ。声も本人の声がバッチリ入ってるしな。
ざまぁみろ長井! 人の女に手を出すからこうなるんだ! 死ね!
「で、何故刹那は此処に居たんだ?長井に呼び出されたのか?」
「ううん。違うよ。ウチ車に忘れ物しちゃって、取りに来ただけだったんだよ。そうしたら、アイツがやってきて」
成る程。 刹那が1人になる時を狙っていたって訳か……この屑が!
「騒ぎになるといけないから、刹那は早く現場に戻って。後は何とかしとくから」
「分かった。ウチ戻るね。 あっ、圭介さん」
刹那に呼ばれた俺は、長井の方から目を離して刹那の方を見た。
……チュッ♥️
刹那が、俺の頬にキスをしてきた。
「圭介さんがウチの事 俺の女って言ってくれた事めっちゃ嬉しかった♥️ 後、守ってくれてありがとう❤️」
そう言って刹那は現場に戻っていった。
「…………」
キスをされた頬を押さえて立ちすくむ俺。
「よっ! 熱いね王子様!」
と囃し立ててくる赤坂。
……な、何はともあれ、刹那が無事で本当に良かった。
でも、こいつだけは絶対許せない! そう思った俺は、丹羽家に伝わる必殺技(男子限定)の " ゴールデンクラッシュ " を長井の股関目掛けて食らわせてやった。 " クチュッ! " これでもう奴は悪さ出来ないだろう。
俺達は長井をその場に放置して社用車に乗って会社に帰った。
その後、SNSに載せた動画は瞬く間に拡散され大炎上する。 顔がバッチリ出ていた為、揉み消す事が出来なかった。 あっという間にマスコミの餌食になり、長井達也は芸能界から姿を消した。
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