第105話

皆様こんにちわ。 刹那の弟の彼方です。


姉ちゃんが久遠と瞬を出産してから1年後。俺は大学を辞める事になってしまいました。


理由は2つ。


1つは姉ちゃんが所属している芸能プロダクションから熱烈なスカウトを受けて、何と俺がモデル兼俳優としてデビューする事になってしまったんです。


初めは " 自分には出来ない。相応しくない。芸能界でやっていく自信が全くない。 まだ大学が忙しい " と断っていたんだけど、プロダクションの社長さんが再三(本当にしつこい程に。挙句の果てには姉ちゃんを通して言って来る程)熱烈な勧誘をしてきた。


ある日、俺は姉ちゃんに呼ばれて丹羽さんのマンションに行く。マンションについて早々に


「 " 彼方君、モデルのバイトをやってみる気はない?って聞いてみて " ってうちの社長がしつこいの。 彼方、あんた1回だけモデルのバイトしてもらえんかな? ウチの顔を立てると思って。お願い!」


と頭を下げ手を合わせて俺にお願いしてくる姉ちゃん。 そして援護射撃の様に


「良い人生経験になると思うんだ。俺からもお願いするよ」


と丹羽さんも頭を下げてきたんだ。


あの姉ちゃんが俺に頭を下げてお願いしてくるなんて。今まで生きてきた中で初めての事じゃないだろうか? しかも丹羽さんも俺にお願いしてくる。


……困ったなぁ。 姉ちゃんはともかく、丹羽さんには色々お世話になっているからなぁ。


少し考えた結果


「分かったよ。モデルのバイトだね。やるよ。でも1回だけだから。後はしないよ。それで良い?」


俺はモデルのバイトを引き受ける事にしたんだ。


「ありがとう彼方♪ これで社長のしつこい " 言ってくれアピール " から解放されるよ。 ウチやりましたよ圭介さん♥️ これで圭介さんと子供達との平穏な日々が戻ってくる♥️」


……姉ちゃん。本音が駄々漏れだから。 自分の横を見てみなよ。 丹羽さんが姉ちゃんを見ながら苦笑いをしているから。


そうして俺はモデルのバイトをする事になったんだ。


バイト当日。 俺は姉ちゃんに連れられて某所にあるスタジオに行き、写真撮影をする。 かなりの長時間の撮影だったから滅茶苦茶疲れた~💧 そして写真撮影が終了した後、撮影の責任者さんから


「彼方君。彼方君の写真が出る雑誌だけど、来月発売だから。楽しみにしててね。 じゃあ今日は本当にお疲れ様でした」


と言われた。 俺は責任者さんに " お疲れ様でした " と頭を下げる。


そして月日は流れて俺の写真が掲載されている雑誌の発売日になったんだ。


俺は本屋さんに行き、俺が載っている雑誌を探した……んだけど、その雑誌が一冊も置いていない。


何で? 俺は都内の本屋さんを梯子してみたんだけど、やっぱり何処にも雑誌が一冊も置いていない。


確か今日発売って言ってたよな? もしかして間違って憶えてた? 不思議に思った俺は店員さんを捕まえて


「あの~。すみません。今日発売の○○っていう雑誌なんですが、置いてありますか?」


と聞いてみると、店員さんはニコニコした顔で


「お客様惜しかったですね。お探しの○○って雑誌は開店したら直ぐに全冊売り切れたんですよ。なんでも あの有名な女優兼アーティストの由井刹那さんの弟さんがモデルとして掲載されているのが話題になっていて。 私も雑誌を観ましたが、彼方君滅茶苦茶イケメンですね。身長も高いしスタイルも抜群で。私、一瞬でファンになっちゃいましたよ。 私が店員じゃなかったら私も雑誌を買ってましたね♪」


と言ってきたんだ。


……信じられない。 


いくら姉ちゃんのネームバリューがあるとはいえ、そんなに人気が出るなんて。 俺が呆然としていると


「あれ? お客様…もしかして由井彼方君?」


興奮した様子で俺にそう聞いてくる店員さん。 ……これってヤバくね?


「人違いです! すみませんありがとうございました! また来ます!」


身の危険を感じた俺は直ぐに本屋さんを脱出し、落ち着ける場所に移動した。 そして慌てて電話を掛ける。


「栞ちゃん? 俺。彼方。大変な事になったよ!」


電話の相手は俺の最愛の彼女の栞ちゃんである。 栞ちゃんは俺がそこまで言うと


『うん。知ってる。彼方君が置かれている状況がどんな事になっているか。 彼方君が載っている雑誌が滅茶苦茶売れてて、店頭に一冊も無い。 そして彼方君が滅茶苦茶人気者になっているとの事でしょ?』


何故その事を知っているんだ栞ちゃん!?


『兄ちゃんから雑誌の事は教えてもらったんだ。 だから私、朝イチで書店に行って雑誌購入しちゃった♪ しかも5冊♪ 鑑賞用でしょ。 そして保存用。 そして布教用に三冊。 布教用に買った三冊は友達に配るつもり♪ 私の彼氏はこんなにも格好良いんだよって自慢するんだ♥️』


……栞ちゃん。 俺は栞ちゃんの言葉を聞いて顔が真っ赤になるのを感じた。 そんなにも俺の事を思ってくれているなんて。 滅茶苦茶嬉しい。


「あのさ栞ちゃん……」


俺は栞ちゃんに芸能プロダクションから熱烈なスカウトを受けている事を相談したんだ。 すると栞ちゃんは


『わぁ♥️ 凄い凄い♥️ 彼方君、芸能人になっちゃうんだ♥️ 私の最愛の彼氏が芸能界デビューだなんて❤️』


……何だろう。栞ちゃんが手放しで喜んでくれている。何だか滅茶苦茶嬉しい気持ちになる。 しかし、直ぐに栞ちゃんの声のトーンが低くなった。 どうしたんだろう?


「ど、どうしたの栞ちゃん💦」


『……御免なさい。嬉しい筈なのに……。 ふと思っちゃったの。 彼方君が私の手の届かない所に行っちゃう。私、捨てられるんじゃないかって』


泣きそうな声でそう言う栞ちゃん。


「……無いよ」


『……え?』


「そんな事絶対にあり得ない! 俺は栞ちゃんの事を心から愛しているんだ! 離れるなんて天地がひっくり返ってもあり得ない! 絶対に別れない! 栞ちゃんから " もう嫌いになった " と言われても、絶対に栞ちゃんの事を離しはしない!」


『か、彼方君……💧 私も絶対に彼方君と別れたりしないよ💧 彼方君が私の事を必要としなくなったとしても、絶対に離れたりしない💧』


栞ちゃんのその言葉を聞いて決心した。 必ず栞ちゃんを世界中の誰よりも幸せにする事を。


その為にも先ず必要不可欠なのは、いやらしい話だがお金だ。 そのお金を稼ぐ為にも


「栞ちゃん。俺、決めたよ。 俺、芸能界に入る」


『えっ? 彼方君?』


「君を……栞を必ず幸せにする為に」


『……彼方君♥️』



そうして俺は芸能界デビューする事になったんだ。


でもまだ大学を辞めるまでは行かないよね。 でも大学を辞めて芸能界一本でやっていくきっかけになった出来事が。 それが2つの理由の1つ。 それは……。



ある日、栞とのデートの日に、栞から衝撃的は話を切り出されたんだ。


「彼方君。今から真剣な話をしても良いかな?」


「どうしたの栞? 滅茶苦茶緊張してるみたいだけど?」


「……彼方君。あのね」


「うん」


「……私ね」


「う、うん (まさか別れ話!? そんなの絶対に嫌だ! 断固拒否する!) 」


「……赤ちゃんが出来たみたい」


「……へ?」


「だからね……私のお腹の中に彼方君との赤ちゃんがいるの」


ま、マジか! お、俺と栞の間に赤ちゃんが!


すると栞が泣きそうな顔をして


「ごめんなさい。迷惑だよね……」


その言葉を聞いて俺は栞の両肩を掴んで


「迷惑な事あるか! 滅茶苦茶嬉しい! 俺と栞の子供が出来たんだ! こんなにも嬉しい事はないよ!」


「ほ、本心で言ってる?」


「大真面目だよ! こうしちゃ居られない! 早速覚悟を決めて死んでくる!」


「な、何で死ぬの!?」


「あっ、間違えた。今から栞のお父さんとお母さんに栞と結婚させて下さいって言ってくる!」


「そ、そういう事💦 びっくりした~💦」


「ゴメンゴメン。善は急げだ!」


俺は栞のお父さんとお母さんに連絡を取り、直ぐに直談判に向かった。


結果的に言うと、栞との結婚は許してもらったんだ。 でも、俺が言った通り、俺は物理的に死ぬ目にあった。 そう、お父さんに殴られたんだ。 意識が一瞬飛んだね。


それから姉ちゃんと丹羽さんにも報告を入れて、あれよあれよという間に俺達は結婚した。


これからは栞とお腹の中の子供を全力で守っていかないと。


俺は大学を辞め、芸能界一本に絞っていく事になったんだ。


後悔は全然していない。 むしろやる気満々だ。


目指せ姉ちゃん達みたいな幸せな家庭!




















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