第84話

仕事にも無事復帰出来る事になり、松葉杖を点いた状態で会社に出社した。


ロビーの受付の前を松葉杖でえっちらおっちらと通過しようとしたら


「丹羽さん。おはようございます。今日から出勤なんですね。無理をせず頑張って下さいね」


と受付にいた受付嬢さんが心配した様な顔をして俺に声を掛けてくれた。


「ありがとうございます。まぁぼちぼちやりますので。 あっ、それと、遅くなりましたがおはようございます」


受付嬢さんに朝の挨拶をして営業1課へ向かった。 やっぱり松葉杖を使って移動するのは何時もより時間が掛かるし疲れるなぁ……。


営業1課に着いた途端、同僚の皆が声を掛けてきた。


「丹羽、大丈夫なのか? お前も不運だったな事故に遭うなんて。無理はするなよ?」


「おう。ぼちぼち負担が掛からない様に頑張るよ」


「先輩! あの時はすみませんでした! 僕がミスをしなかったら先輩があんな事故に遭わなかったかも知れないのに」


「別にお前のせいじゃ無いさ。俺のあの日の運がすこぶる悪かっただけだから。気にするな。でも、これからは気をつけてくれよ? 取引先を怒らせたら会社の不利益になるんだからな?」


「はい! 頑張ります!」


そんな会話を交わしながら自分の席についた。 するといきなりパシッという音と共に後頭部に軽い痛みが。 後頭部を押さえながら後を振り向くと、赤坂がニヤニヤしながら


「よう。おはようさん。お勤めご苦労さん。どうだシャバの空気は? 旨いだろ?」


赤坂、俺は刑務所に入っていた訳じゃ無いんだぜ?


「おはようさん。お前も行ってみたらどうだ? 人生観が変わるかも知れないぜ?」


「遠慮しとくよ。俺、痛いの嫌だし」


「まぁそう言わず。1回行っとけ。お前の好きな惰眠も貪れるぜ? それに」


「それに?」


俺はニヤリと笑いながら赤坂に


「看護師さんにめっちゃ可愛い人が居た。物腰も柔らかくて入院中の癒しだったぜ?」


「マジで!? 丹羽、俺、今から即効足の骨折ってくる!」


赤坂はくるりと後を向いて何処かに行こうとする。


「待て待て。何処に行くつもりだ?」


「いや、だから足の骨を折りに」


「止めろ。馬鹿かお前は」


「だって……可愛い看護師さんにめっちゃ会いたい。もしかしたら恋愛に繋がるチャンスかも知れないのに」


……どんだけ彼女欲しいんだよお前は。めっちゃイケメンで社内でモテまくっているのに。彼女欲しいなら社内で探せよ。


「なぁ丹羽、その看護師さんだけど、刹那さんを10点としたら何点位のビジュアル?」


まだその話引き摺る?  刹那以外には興味無いからその看護師さん可愛かったけどあまり印象に残って無いんだよな。 う~ん。


「8点位かな?」


記憶を絞り出してその看護師さんの印象(顔のビジュアルとスタイル)を赤坂に伝える。


「マジで!? めっちゃ可愛いじゃん!? 丹羽が8点って言うなら俺からしたら100点じゃん! 刹那さんを間近で見ているお前が言うんだ! 間違いない!」


……10点満点じゃ無かったのかよ?


「やっぱり俺足の骨1本折ってくる! そしてその看護師さんに看護して貰う!」


……馬鹿だこいつ。 そう思ったが、とりあえず赤坂を止める事にした。




今日はずっとデスクワークをする事となった。 当然だろうな。松葉杖を点いた奴が営業なんかに行ける訳が無いからな。 それに部長からもデスクワークをする様にって言われたし。


営業でずっと外回りしていた俺としてはデスクワークは苦行だ。 だって滅茶苦茶睡魔が襲ってくるんだもん。 眠たくて眠たくてしょうがない。 何本エナジードリンク(会社内の自販機で売っていた。何で?)を飲んだ事やら。


そして終業時間となり帰ろうと荷物を纏めていると、赤坂が俺の元にやって来て


「丹羽、今から飲みに行かないか? 仕事の復帰祝いに奢ってやるから」


……久しぶりに行きつけの居酒屋に行くのも良いなぁ。 ブドウ酎ハイが飲みたい。若鶏の唐揚げも食べたい。


「よっしゃ行くか。本当に奢りなんだな?」


「任せろ。じゃあ行こうぜ。丹羽、ちゃんと飲みに行く事を刹那さんに連絡しとけよ?」


「ああ。1本連絡入れとく」


そうして俺と赤坂は行きつけの居酒屋に飲みに行く事にした。


……此処で俺はミスを犯した。 居酒屋に飲みに行くのが楽しみ過ぎて、刹那に連絡を入れる事をすっかり忘れていたのだ。












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