第116話

お盆も終わり、8月も終盤に差し掛かったある日の夜。


仕事から帰ってきた俺にリビングでテレビを観ていた瞬が


「お父さん、俺、キャンプに行きたい」


とテレビの画面を指差しながら突然そう言ってきた。


テレビの画面にはキャンプ場で家族皆で楽しそうに夕食の準備をしている姿が映し出されていた。


「キャンプ? 何故いきなりキャンプに行きたいと?」


「俺の記憶の中には家族でキャンプに行った記憶が無いんだよね。テレビに映っている家族みたいに俺もキャンプをして、野外で夕飯を家族で食べたいんだ」


そう言えばそうだな。我が丹羽家はキャンプをした事無かったな。 そもそもキャンプ用品自体が無い。


……家族の絆を深める為にもキャンプ。 ……結構良いかも知れないな。


「よし、じゃあキャンプに行こうか。何時にしようかな? お父さんは日曜日休みだから、土曜日の午後から休みを取って行けるとして、問題はお母さんと久遠だな」


「? 何で姉ちゃんとお母さんが問題なんだ?」


「お母さんは行きたい日に休みが取れるか分からない。久遠は…ほら、女の子だからキャンプは嫌かも知れないだろ?」


「……あ~。確かに」


俺の言葉を聞いて瞬が項垂れる。


「まぁ一応お母さんと久遠にキャンプに行くか聞いてみないとな。 もし2人が駄目な時は瞬とお父さんだけでキャンプに行こうか」


「……男だけでキャンプも良いかもね。俺はそれでOKだよ。 俺、とりあえず姉ちゃんに聞いてみる。お母さんの方はお父さんに任せた」


「了解だ。それはそうと瞬、夏休みの課題の進み具合はどうなんだ?」


「ご心配なく。もう8月頭に終わったよ。やっぱり夏休み最後位はゆっくりしたいからね」


と瞬は白い歯並びの良い歯をニカッと見せながらそう言ってきた。 瞬がそれなら久遠は大丈夫だろう。 あの娘もその辺は抜かり無いだろうから。


瞬は久遠の部屋に向かって行き、久遠の部屋の扉をノックした後、部屋の中に入っていった。


さて、俺は刹那に話をしないとな。



「ただいま~。疲れたよぅ。あのディレクター、絶対変人だよぅ。 出演者を2時間も立ちっぱなしにさせるなんて鬼畜の所業だよぅ。あ~。足が痛いよぅ」


刹那が文句をたらたら言いながら仕事から帰ってきてソファーに座った。 確かに2時間立ちっぱなしはキツいな。 営業の俺でさえちょこちょこ休憩入れるもん。


「お疲れ様刹那。アイスコーヒーでも飲むか?」


「圭介さんありがとう~♡ ウチめっちゃ喉渇いてたんだぁ♡ 我が儘を言えばチョコアイスが良いんだけどな♡」


深めのコップに氷をたっぷりと入れて、市販のアイスコーヒーを冷蔵庫から取り出してコップに注ぎ刹那に差し出した。勿論コーヒークリームとガムシロップも忘れずに。


「アイスを食べるのはお風呂上がりって決めてたんじゃ無かったのか?」


「そうでした…てへっ♪」


刹那は自分の頭をコツンと軽く叩いて可愛らしく舌をだした。 刹那のそんな仕草はいつ見ても癒されるなぁ。


「刹那、足のマッサージをしてあげるよ」


「本当? わ~い♪ 嬉しいな♪」


俺は自慢じゃ無いが昔からマッサージには自信があるんだよな。 両親にも " 圭介はマッサージが上手い " とよく褒められたもんだ。


刹那の前にかがみ込み、刹那の足のマッサージを始める。


「…んっ♡ …あっ♡ …そ、そこっ♡ …気持ちいい♡ 圭介さんもっと♡」


……足のマッサージをしているだけですよ?  でも何故か刹那の声が…そんな感じに聞こえてしまう。


マッサージをしながら刹那に


「あのさ刹那、瞬がキャンプに行きたいって言ってるんだよ。 だから連れていってやろうかな?と思ってるんだけど、刹那はどうする?」


「んっ♡ け、圭介さんがっ♡ 行くならっ♡ ウチもっ♡ 絶対にっ♡ 行きますっ♡ あっ♡ そこはっ♡ 良いっ♡」


ああ、滅茶苦茶足疲れてるな。足の筋肉張りまくりだわ。 足の付け根の方を重点的にほぐしておかないといけないなこりゃ。


「じゃあ後でスケジュールを見ておいてくれな。 出来れば土曜日の午後からがベストなんだよな」


「り、了解っ♡ しましたっ♡ ど、土曜日のっ♡ 午後からですねっ♡」


「宜しくねっ。よしっ! マッサージ終わり! って刹那? どうしたんだ?」


足のマッサージが終わってから刹那を見ると、刹那は全身の力が抜けたみたいにだら~んとソファーに座っていた。


「も、物凄く気持ち良かった…です♡ け、圭介さん」


刹那に手招きされた。 刹那に近付いて


「ん? 何?」


と聞くと、刹那が俺の耳元で


「…寝る前にもう一度マッサージをお願いしたいんですが良いですか? 出来れば足の付け根のもっと内側をじっくりゆっくりと……♡」


「お、おう。了解」


そんな事を話していると、リビングに久遠と瞬がやって来て


「お父さんキャンプに行くの!? クーも行きたい! ねぇねぇ! 劉ちゃんも誘ってもいいかな?」


「勿論。 あっ、そうだ。折角だから赤坂家全員誘ってキャンプに行こうか」


「「「賛成!」」」


俺の思い付きの提案に皆ノリノリで賛成してくれた。


早速刹那が雪菜さんのスマホにLINEを入れてキャンプに誘う。 すると数十分後刹那のスマホに雪菜さんから返事が届いた。


返事は " OK " との事。


じゃあ早速皆と話し合ってキャンプに行くとしますか。
























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