第54話

今日の業務も無事終了したので、俺は帰社しマンションに向かって歩いていた。


最寄りの駅近くに差し掛かった時、改札口の方から


「どうしよ~💧 場所が分からん💧 もう直ぐ暗くなるのに~💧」


と声が聞こえてきた。


改札口の方を見ると、結構な荷物を自分の足元に置き、スマホを真剣な顔で見ている男性(多分栞と同じ位の年齢だろうな)がいた。 その男性は滅茶苦茶困った顔をしていて、少し涙目になっている。


……見かけた以上、困っている人をそのままにはして置けないな。


他者が無視して男性の隣を通り過ぎて行く中、俺はその困っている男性に声を掛けた。


「何かお困り事でも? 俺で良ければ話を聞きますが?」


そう言うと、男性はパッと此方を見て


「あっ、えっと、この場所が分からなくて……。この地図だけじゃ何処に行けば良いか分からないんです。すっかり辺りが暗くなって来てるし……どうしたらいいんやろ」


本当に今にも泣きそうだ。


「もし良かったらその地図を見せて貰えますか?」


「あっ、はい!」


男性は自分が今まで見ていたスマホを俺に差し出してきた。


画面には確かに地図が写し出されていたが……その地図は手書きの地図で、かなり大雑把に書いてある地図だった。 確かにこの地図だと目的地が分からないだろう。 駅の名前が書いてあって、大雑把に道を書き入れ、目的地に★マークが記されているだけの地図なのだから。


「確かにこの地図じゃ分からないな。あの、もし良かったらその場所の住所を教えて貰えますか? もしかしたら分かるかも知れませんので」


「あっ、はい! ○○町○○ ○○マンションです」


そこって俺のマンションの住所じゃないか。


「奇遇ですね。俺のマンションそこなんです。良かったら一緒に行きませんか?」


「えっ、良いんですか!?」


「ええ。俺も丁度マンションに帰る所だったし、構いませんよ」


「ありがとうございます! それじゃあ御言葉に甘えます!」


……何かこんなシチュエーション前にもあった気がするんだが? 気のせいか?



男性は足元に置いていた荷物を " よいしょ! " と気合いを入れて背中に背負い、両手に紙袋を持って


「じゃあお願いします!」


と爽やかな笑顔で俺に言ってきた。


「随分と重そうな荷物ですね。俺も持ちますよ?」


俺は彼が持っている紙袋を指差し提案してみる。


「本当ですか!? ありがとうございます! 実は本当に重かったんですよこの紙袋」


彼から紙袋を受け取る。


" ズシッ!! "


うおっ!? 本当に重たいな!? 何が入っているんだ!?


彼の見た目だが、背丈は180cmオーバーで綺麗なブロンドの短髪。目の色は青。滅茶苦茶イケメンでモデルと言われても信じる位だ。 ん? 何処と無く刹那に似ている様な気がするのは気のせいか?


それはそうと、俺が荷物の中身を気にしているのに気付いた彼が


「ああ中身俺も知らないんですよね。割れ物っては書いてありましたが。 母から急に俺の所に荷物が届いて。その荷物を姉に持っていけ! と言われたので運んでいるだけなんで。全く母ちゃんも直接姉ちゃんに送れば良いのに、何で俺経由で送って来るかなぁ……ブツブツ」


と言ってきた。


「じゃあその背中に背負っている荷物もお姉さんの荷物なんですか?」


「あっ、お兄さん俺より年上みたいだから敬語は不要です。年上に敬語使われると何だかむず痒くて……。 えっと、そうみたいです。何でも、姉に初の彼氏が出来たみたいで、この荷物はその彼氏さんに見せたら喜ぶと母が言ってました。しかしあの姉ちゃんに彼氏が出来たとは。どんな人なんか見てみたいですね」


「君から見てお姉さんはどんな人?」


興味本位で聞いてみた。


「姉ちゃんですか? う~んそうだなぁ。一言で言えば " 暴君 " ですかね。 昔から俺、姉ちゃんのパシりをさせられてたんですよ。断るとめっちゃ怒られたし。姉ちゃん怖いから逆らえないんです。 見た目は美人? だから、昔からすっげえ男子にモテてたんですよ。 でも1度も付き合った事は無いみたいなんですよね。不思議な事に。 だから姉ちゃんに彼氏が出来たと聞いた時はめっちゃ驚きましたね」


へぇ、彼の姉はそんな感じの人なんだ。自分の弟をパシりにする様な感じの怖そうな女性。そんな人マンションに居たかな?


俺達は話をしながら駅からマンションへ移動した。


「ここだよ」


「ご親切にありがとうございました。お陰で助かりました。俺、方向音痴だから本当に感謝です」


彼は俺に向かって頭を深々と下げてきた。


「困った時はお互い様……だろ?」


俺は彼に笑顔でそう言うと


「そうですね♪ 本当にありがとうございました」


「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったね。俺は丹羽圭介。 君のお姉さんがここのマンションに住んでいるならまた会う事があるだろう」


「俺の名前は」


彼が自分の名前を言おうとした時


「圭介さん♥️」


俺の背中に誰かが抱き付いてきた。


「お。お帰り刹那」


「ただいま帰りました❤️ 圭介さんも今帰りですか?」


抱き付いてきたのは仕事帰りの刹那だった。


すると彼は物凄くびっくりした様子で刹那に向かって


「ね、姉ちゃん! 何してんのさ!?」


「ん? あれ? 彼方かなたじゃない。どうして此処に居るの?」


何と、彼の姉とは刹那の事だった。 道理でどこか刹那に似ていると思った訳だ。


















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