第4話 拠点の壁を修復強化!

「やっとたどり着いた」

「さすがですレスト様」


 もう何度発動したかわからない素材化能力で、やっと僕は島の上層部にたどり着いた。

 そこは調査団の報告通り全く人の手が入っていない深い森で。

 廻りからは様々な生き物の鳴き声が聞こえてくる。


 王都という都会でずっと生まれ育ってきた僕は、これほど深い森の奥は初めての体験で、あまりに濃い自然の香りに目眩がするようだった。


「とりあえず廻りを片付けて、調査団の拠点までの道をクラフトするか」

「ですな。このままではさすがに馬車では進めません」


 僕はキエダから調査団の拠点があった場所の方向を聞いてその方向に向けて簡単な道を作るためにスキルを発動する。

 まず直線上にある木々や草、岩など邪魔になりそうなものを全て『素材化』する。


「お見事ですレスト様」


 キエダが拍手をしてそう僕を褒める。


「自分でもそう思うよ」

「しかしいつ見ても不思議な光景ですね」


 一直線に地面以外、その場所だけごっそりとものが消え去った跡地には、虫や動物だけがその場に取り残されたかのように存在していた。

 そして一瞬後、突然起こった出来事に驚き走り去っていく。


「大体の生き物は素材化出来ないんだよな。まぁ生き物を素材化出来たらそれはそれで僕も怖いんだけど」

「たしかにその通りですな」

「さて、次は道を作るよ。石は一杯あるんだ」


 続けて僕は今度はクラフトスキルを使って、ここまで大量に仕入れてきた岩を素材として道路を一気にクラフトした。

 その行為を何度か続けた先、突然目の前が開けた。


「ここが拠点か」

「間違いなさそうですな」


 そこには草に沈みかけてはいるが、確実に人の手によって切り開かれたであろう広場と、数軒の朽ちかけた建物が存在していた。

 一軒は調査団の住居で、二件は倉庫のよう。

 後の一つは完全に崩れ去っていて原型をとどめていないため何かはわからない。


「ボロボロだね」

「思ったより酷い有様ですな。周りを囲んでいた柵もかなり破損してますし」


 広場をグルッと囲むように丸太を打ち込んで作られていた壁というより柵は、所々なにかに破壊されたように崩れ去っている。

 多分この地の動物たちの仕業だろう。


「とりあえず簡単に整地だけして、柵を治そうか」

「でしたらいっそ、岩の壁にしてみてはいかがでしょう?」

「いいね。それなら動物くらいには壊されないだろうし」


 僕は一歩踏み出すと素材化範囲にある草と柵をすべて素材化する。

 一瞬で草で生い茂っていた地面が現れると、たしかに人の手が入っていた痕跡を感じられた。


「そりゃっ」


 そのまま歩きながらどんどん拠点の中を『掃除』していくと、色々なところに当時使われて、退却時に放置されたであろう器具が何個か草むらの中から現れた。

 そういったものに関しては、素材化はせずに後で確認してから修理するか素材にしてしまうかを決めることにする。


「こんなもんか」


 拠点中を歩いて、柵の内側と柵自体をすべて素材化した僕は、続いて拠点の縁を歩きながら自分の身長より少し高めの壁を建てていく。

 トンネルを掘ったおかげで、素材だけは捨てるほどある。


 ぽん。

 ぽぽん。

 ぽんぽん。


 四方には出入り可能な門を作っておく。

 門扉は木製で、必要なところだけ鉄の部品を使った立派なものを作っておいた。

 とりあえず上に引き上げるタイプのものを、今歩いてきた方向を正面とした正門にして、あとの三箇所は内開きの扉タイプにした。

 僕のスキルを使えば、必要になればその時にまた作り直すことも簡単なので、今は特に深く考えず作る。


「出来た!」


 到着した時はあれほど荒れまくっていた拠点跡が、少しの間にあっという間に見違えるほどきれいになった。

 ただ、まだ建物の修復や、転がる器具のチェックは終わっていないが。


「お疲れさまですレスト様。休憩にしませんか?」


 額に浮いた汗をハンカチで拭いていると、テリーヌから声がかかる。

 その方向を見ると、拠点の中央にいつの間にか簡易的なテーブルセットが用意されていた。

 メイドたちが馬車からおろして準備してくれたのだろう。


 そしてその近くでは、魔導コンロを使ってお湯を沸かしているメイドのアグニの姿が見える。

 アグニは三人のメイドの中では中堅で、フェイルのようなミスをしている所を僕は一度も見たことがない。

 というよりも、彼女がなにか失敗をしたという話すら聞かない。

 完璧なメイド。それが僕の彼女に対する評価である。


 テリーヌ、アグニ、フェイル。

 そして執事のキエダ。

 この四人が、今の僕の臣下の全てだ。

 いくらキエダの部下と言っても、よくこの三人はこんな場所まで付いてきてくれたと思う。


「ありがとう。今いくよ!」


 僕はテリーヌに手をふるとハンカチを仕舞って歩き出す。


 これから僕はこの四人の期待に答えるためにも、将来皆とゆったりまったり過ごすためにも、今はもっと頑張らないといけないな。

 そんな思いを抱きながら。

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