第27話 泉のほとりを見てみよう!

「計算に寄るとそろそろ例の泉だな」

「そうですな。ここからは道を下げて、泉の少し手前に出入り口を開きましょう」

「たしか泉の周りは凶暴な魔物は聖獣様のおかげでいないんだったなコリトコ」

「うん。泉の近くから村の周りまでは話の通じない怖い魔物は見たこと無いよ」


 といっても、この先にあるのがその『聖なる泉』なのかどうかは判明していない。

 なので手前で道を下ろすとしても、警戒は怠らないほうが良いだろう。


「それじゃあ下り坂をクラフトするよ」

「なるべく緩やかにお願いしますぞ」

「わかってるよ。馬車が転がり落ちたら困るからね」


 一応馬車には下り坂で速度が出すぎないような仕組みはあるけれど、あまりに急な坂の場合はそれも効かなくなってしまう。

 その場合は後ろ向きに降りる羽目になってしまう。


「クラフト!」


 僕は慎重に頭の中に作り上げた設計通りに道をクラフトしていく。

 ゆったりとした下り坂で、一定距離を降りた所に水平な場所を設ける。

 そこからくるりと一回転して今度は反対に向けて坂道をクラフトする。

 このジグザグな下り坂は、何かあった時一気に転がり落ちるのを防ぐように考えて設計したものである。

 下り坂というのは馬車操作にかなり神経を使うので手を抜けないので、水平な場所で休憩出来るのはありがたいとキエダも言っていた。

 それでもブレーキが壊れたり馬が暴走したら壁に激突しかねないが、流石にそこまではケア出来ない。


「よっしゃ完成だ!!」


 横から見ると多分ジグザグに木の上から降りていくような形になっているだろう道をつくり終えた僕は、馬車が追いついてくるのを待って道路と外を安全のために塞いでいたガラスの壁を素材化で消す。

 途端に森の濃厚な緑と土の匂いがトンネルの中に流れ込んでくる。


「水の匂いがしますな」

「少し歩いた所に泉があるはずだ。流石に馬車は通れそうにないからリナロンテはここで待ってて」


 僕は道路の中に二つの箱をクラフトすると、片方に水、もう片方に飼葉をたっぷりと入れてやる。

 その間にキエダが馬車からリナロンテを解放し、テリーヌとコリトコはファルシの背中に乗って僕のものとまでやってきた。


「それじゃあ皆一旦道の外に出てくれる?」

「うん」

「はい」

「リナロンテ、おとなしく待っているのだぞ」


 僕はリナロンテと馬車以外の全員が外に出ると、もう一度道の入口をガラスで蓋をする。

 もしここが聖なる泉でなかったら、最悪魔物がリナロンテを襲うかも知れないからだ。


「これでよし。じゃあ行くよ」

「では私が先頭に立ちましょう」

「たのむ」


 キエダの過去を僕は知らないけれど、彼はかつて王国中を旅して回った冒険者だという話を父から聞いたことがあった。

 なので、こういった森の中を進むのにも慣れているらしく、油断するとあっという間に置いていかれそうになる。

 後ろからついてくるファルシは元々森の獣なので、もちろんその足取りも軽快だ。


「僕が一番足手まといになろうとは……こんな所、道をクラフトして進めば楽勝なのに」

「だめだよ。聖なる泉の周りを勝手に開拓したら聖獣様に怒られちゃうからね!」


 僕のぼやきを聞いたコリトコが、少し慌てた口調でそう言ってくる。


「わかってるよ。だからこうやって頑張って歩いてるんじゃないか」

「レスト様はもう少しギフトに頼らない方が体に良いかとおもいます」

『ワフッ』

「僕だってちゃんと朝と夜には少しくらい訓練してるよ」


 僕とコリトコたちがそんな無駄口をたたいていると、少し先行していたキエダが慌てたように戻って来た。

 どうやら何かを見つけたらしい。


「レスト様。この先に確かに泉が有りましたぞ」

「それは知ってるけど。何かおかしなところでもあった?」

「はい。実は木々の隙間から様子を疑った所、対岸に桟橋のようなものがありまして」

「桟橋? コリトコ知ってるか?」

「うん。皆がそこで水をくんだりする場所だよ。船もひとつだけ浮かんでて、よく村のお姉ちゃんたちとかお父さんに乗せてもらったんだ」


 僕がキエダに目配せすると「たしかに船の姿もありましたぞ」という答えが返ってきた。

 どうやらこの先にあるのは『生命の泉』に間違いない。


「それでですな。その桟橋の上に二人の若い女性の姿が見えました。ですので慌てて報告に戻った次第です」

「多分それはコリトコの村のレッサーエルフだろうな」

「間違いないかと」


 僕は不安そうな顔をするコリトコの頭をクシャクシャに撫でる。


「なにすんだよ領主様ぁ」


 突然そんな事をされて、慌てて僕の手を払いのけたコリトコに僕は宣言した。


「そんな暗い顔しなくても大丈夫だ。全部僕たちに任せておけばいい」


 そう出来る限りの笑顔を浮かべながら。


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