第23話 聖なる泉を探そう!

「これで良いかな」


 展望室の床に座りながら、僕はクラフトした二本の棒を手に取って中を覗き込みながら呟く。


「うん。良い感じだ。あとはこれを組み込んだ台座をクラフトすれば完成だな」

「領主様。それって何?」


 今日は朝から昨日作った塔の最上階にファルシの背に乗ってコリトコとやって来ていた。

 他の皆も来たがっていたが、畑や鶏舎の世話もあるのでそれが終わってから来る予定である。

 ちなみにファルシは昨日僕が眠っていたソファーを占領して、すでに気持ちよさそうに眠っていた。


「後で教えてあげるよ」


 僕はそう答えると床から立ち上がり、二本の棒を持って展望室の端まで移動する。

 今日は少し風があるせいで少し怖いが、落下防止に周りをぐるっと人が通れないほどの幅で格子を組んであるので落ちる心配は無い。


「遠くはやっぱり見難いな」


 昨日は気がついたら眠ってしまっていたせいで、せっかく塔を作ったのに景色を見ることが出来なかった。

 なので今日は目が覚めて顔を洗い、朝食を食べて直ぐにコリトコにお願いしてここまで上がってきたわけだけど。


「思ったより遠くが見えないのは予想外だったな」


 島は周りを高い山にぐるりと囲まれたような形になっている。

 わかりやすく言うと火山の噴火口を大きくしたような形だ。

 そして周りが海に囲まれている上に気温も暖かめなせいか、原因は不明だが水蒸気でも溜まっているのか島の上空はうっすらと薄い雲に包まれていて。

 特に中央部に行くほどそれが濃く、遠くを見ようにもなかなか見渡せなかった。


「正直、この状態じゃ焼け石に水かもしれないけど、あの雲よりこっち側は細かく観察できるようになるはずだ」


 僕は二本の筒を水平に肩の辺りまで持ち上げると「クラフト」と呟く。

 すると床から突然一本の石の棒が伸び上がってくると、僕の持つ筒を包み込んだ。


「これは何?」

「これは双眼鏡っていう道具さ」

「そうがんきょう?」


 興味津々といった風に、クラフトした双眼鏡の周りをくるくると回るコリトコに僕は言う。


「覗いてみるか?」

「覗くって何を? もしかしてフェイルが言ってたお風呂ってやつ?」

「……あいつ、コリトコに何を教えてるんだ」


 僕はあとでフェイルを捕まえて叱ってやると心に決める。


 といってもこの拠点にはまだ僕はお風呂は作っていない。

 あるのはシャワーだけで、それも温水じゃない。

 温水を作り出す魔道具をクラフトすることは可能だけど、今は魔道具の動力源になる魔石の手持ちがほとんど無いため、魔道具のクラフトはなるべく控えていたりする。

 この島が暖かい気候で本当に良かったと思う。


「お風呂じゃなくて、この筒に目を当ててこっち側から覗き込んでごらん」


 僕は双眼鏡の手前にコリトコ用の足場をクラフトして、その上にコリトコを抱き上げて乗せてやる。


「これを覗き込めば良いんだね?」


 そう言いながらコリトコは双眼鏡に恐る恐る顔を近づける。


「わーっ。どうなってるのこれ! 魔法なの? やっぱり領主様は魔……」


 双眼鏡を覗き込んだコリトコが驚いたような嬉しそうな声を上げた。

 多分彼は今まで双眼鏡というものを見たことが無いはずだ。

 だとすれば、始めて目にするその光景は驚くべきものだろう。


「それは魔法じゃ無い。詳しい構造とかは後で教えてあげるけど、これは魔石も何も使わないで遠くを見ることが出来る道具なんだ」

「そうなんだ。不思議ぃ」

「一応横にも上下にも動くように作ってあるから好きなところを見ると良い」

「わっ、本当だ。ぐるぐる動くよ! でもあんまり上には動かないね。空とか見たいのに」


 がっちゃがっちゃと音を立てながら双眼鏡を動かすコリトコは、空を見るため上に向けようとした。

 だけど、双眼鏡の可動域は上には一切動かないようにしてある。


「双眼鏡で空を見るのは危険だから出来ないようにしてあるのさ」

「危険?」

「ああ、特に間違って日の光なんて見てしまったら、眩しすぎて目が潰れちゃうからね。そんなの嫌だろ?」


 僕はどうして双眼鏡で空を見てはいけないのかを簡単にコリトコに説明する。

 すると目が見えなくなるという言葉を聞いて怖くなったのか、コリトコが慌てて双眼鏡から顔を離した。


「目が見えなくなったらやだ!」

「だからそうならないように空は見られないように作っておいたのさ」


 少し脅かしすぎたのか、少し涙目になってファルシの元に逃げていくコリトコ。

 その背を見送った僕は「それじゃあ今度は僕が使わせて貰うよ」と双眼鏡を覗き込む。

 この拠点から一面に広がる深い森はかなりの範囲に及んでいる。

 調査団の報告書によれば、森の中を半日ほど進んだ場所に川があるらしいのだけど、双眼鏡で見てもその姿は木々に埋もれて見えない。

 だが僕が今探しているのはその川の更に向こう側。

 コリトコから聞いた聖なる泉だ。


「泉の周りはそれなりに開けているらしいから見つかるはずなんだが」


 森の中を、とにかく村から遠くを目指して進んできたらしいコリトコは、特に何か方位がわかるものも何も無くファルシとともに歩いてきた。

 なので、村が何処にあるのかはコリトコの話ではさっぱりわからなかったのだ。

 話の中で村の目印になるものと言えば、彼が最初に目指したという『聖なる泉』だけで、後は川を二本ほど渡ってきたというものだけ。


「けっこう大きい泉というか湖らしいから、森の中でもわかると思ったんだけど」


 僕は双眼鏡をぐりぐりと動かしながらそれらしき場所を探した。

 すると。

 一瞬森の中から光が見えた気がして、僕はゆっくりと双眼鏡を戻す。


「あれか?」


 かなり奥の方の森の中、木と木の間の僅かな隙間から日の光が反射して輝く湖面らしきものが見えた。

 今の双眼鏡の倍率では確実にそうだと判断は出来ないが、多分間違いないだろう。


「まぁ、間違っていてもまた別の場所に塔を建てて探せば良いだけだけど」


 これで一応次に目指す場所はわかった。

 後は一直線に・・・・あの場所を目指すだけだ。


「よし。やるか」


 僕は双眼鏡から顔を離すと、計測機器と文房具をクラフトする。

 上から確認出来たとしても、下に降りれば方向なんてわかるわけがない。

 なのでこの塔の上でちゃんと計測して泉までの道筋を地図に書き込まなければいけない。


 僕は床に展望室から見た景色を元に地図をクラフトすると、計測器で正確な方向を図りながら線を引き始める。

 その先にきっとコリトコの、レッサーエルフの村があると信じて。




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