第24話 真っ直ぐな道をクラフトしよう!

「本当に大丈夫だろうね?」

「……まーかせて。自分優秀なメイド。信じるべき……」

「あたしも優秀なメイドですぅ。安心して欲しいですぅ」

「……フェイルはまだ見習い。安心できない……」

「そんなぁ!」


 今日僕たちは昨日見つけた『聖なる泉』らしき場所に向けて出発する予定である。

 同行するのはキエダとコリトコ。

 コリトコの世話としてテリーヌ。


『ワンッ!』

『ヒヒーン!』


 そしてファルシと馬車を曳く馬のリナロンテである。

 リナロンテはこの拠点に来た後は馬車から解き放たれ、領主館の横に作った厩舎の中で過ごしていた。

 そして時々トンネルへ採掘に行く時に乗せて貰っていたのだ。


「絶対にコーカ鳥を怒らせるんじゃ無いぞ」

「……大丈夫。自分ともふもふはもうマブダチ……」

「いや、最初ほど嫌がられてはないみたいだけど、アグニが抱きついてくると、あいつら面倒くさそうな顔してるぞ」

「……コリトコ。自分ともふもふはマブダチだよね?……」


 アグニは、馬車に乗り込んで僕がクリエイトしたクッションの座り心地を楽しんでいたコリトコにそう尋ねた。

 コリトコは話をあまり聞いていなかったようで、少し目をそらしながら「そ、そうだね」とだけ答えて馬車の奥に消えていく。


「……ほら、言った通り……」


 両手を腰に当て、何やら自慢げにそう言い切るアグニに、僕はもう何を言うのも諦めてフェイルを手招きする。

 そして彼女の耳元に口を寄せると「フェイル、アグニのことは頼んだぞ」と小さな声で言った。

 正直キエダを置いていくのが一番安心できるのだが、森の奥に進むには彼の『戦闘力』が必要になる可能性もある以上置いていけない。

 テリーヌも病み上がりのコリトコをしっかり診ていてもらうためには彼女しかいない。

 なので消去法でアグニとフェイルという不安な二人を残して行かざるをえないのだ。

 まぁ、アグニの場合はコーカ鳥さえ関わらなければ有能なのだけれど。


「さて、それじゃあいってくるよ」

「……はい、お気を付けて……」

「行ってらっしゃーい! お土産期待して待ってるですぅ」


 僕は心配な二人から無理やり視線を剥がすと御者台に向かう。


「レスト様。準備は整っておりますぞ」


 三人が並んで座れる御者台の中央ではキエダがリナロンテと繋がった手綱を握って待っていた。

 僕はキエダに手を引いてもらい御者台に飛びのると前を向く。


 目の前には鬱蒼と茂る森が行く手を遮り、その奥は暗くて何も見通せない状態だ。


 今回の予定では、この森の中を半日で進めるだけ進み、そこに簡易拠点をクラフトしてから一旦戻る予定になっている。

 なので馬車の中には拠点に置いてくる保存食や着替え等が積んであったりする。


 調査団の報告書には森の中はかなり歩きにくく、凶暴な獣や魔物が徘徊していて最初の川辺までたどり着くだけでもかなりの労力が必要だったという。

 それはそうだ。

 道なき道を進むとなれば、獣と違い人の足では限界がある。

 コリトコもファルシの背中に乗ってこなければここまでやってくる事は出来なかったろう。

 もちろん今僕たちが乗っている馬車がそのまま通れる道なんてあるわけが無いのだけれど――


「まぁ、道なんて無ければ作れば良いだけなんだよね」


 僕はキエダから昨日作った地図を受け取り、クラフトした方位磁石で方向を確認すると、その方向に向け両手を前に突き出す。

 そう、僕はこれから目的地まで一直線に・・・・道をクラフトしていくつもりなのだ。


「それじゃあやりますか。素材化! それからクラフト!!」


 僕は目の前に広がる森に向けて素材化を発動させ更地に変える。

 そして裸になった直線上の森の跡から慌てて生き物たちが逃げ出すのを確認してからクラフトスキルで道を組み上げていった。


 素材はトンネル出口から拠点までの道と同じように石だ。

 だけど今回は平坦な道だけをクラフトするわけでは無い。

 馬車が通れるほどの道幅の左右には、魔物や獣が容易に侵入してこないように馬車の二倍ほどの高さがある壁も一緒に作っていく。


「さて、最後に屋根をクラフトすれば」


 凹状の道が真っ直ぐ出来上がった後、僕は仕上げに上を見上げて手のひらを向ける。


「クラフト!」


 道の上に次々と蓋がされていく。

 これでこの石を破壊できる魔物でも無い限りこの道の中に入ってくるのは不可能になる。

 所々に明かり取り用に分厚いガラスで作った天窓が左右中央の三列に並んでいるおかげで道自体は通行する分には問題ないほど明るい。

 ガラスは石を更に素材化で分解した素材からどれだけでもクリエイトしたものを使っている。


「よし、進もう」

「わかりました。リナロンテ進め」


 僕は目の前に一直線に作った道の前方を指さしキエダに発車を告げた。

 綺麗に敷き詰められた石の上を馬車は滑るように進み出す。

 本来舗装されてない道を走る場合、馬車というものはかなり揺れるので、慣れてない人が乗るとすぐに酔ってしまったりお尻がとんでもなく痛くなってしまう。

 だけど僕がクラフトした道はほぼ平らに作り上げられている。

 なので、動き出した馬車の中からひょこっと顔を出したコリトコも、出来上がった道を見てはしゃぐ余裕もあるのだ。


「何これ、一体どうやったの?」

「いつも通り僕のクラフトでちょちょいっとね」

「見たかったのに」


 コリトコは僕のクラフトしたクッションを、馬車の中でファルシと取り合いして遊んでいたらしい。

 死にそうだったあの子供がこんなに元気になったのかと思うと僕は嬉しくなる。


「僕の力はこんな子供たちを助けるために神様が与えてくれたものなのかな」


 そんならしくない事をつい考えてしまい僕は苦笑する。

 僕はこの力で人助けをしようと思ってここに来たわけじゃない。

 貴族のしがらみから逃れて、この力を使ってゆっくりと静かに暮らすためにやって来たはずだ。


「本当に、こんなことするために家をわざと追放されたわけじゃ無かったはずなのになぁ」


 僕は誰にも聞こえない声でそう呟くと、ゆっくり進む馬車の御者台で楽しそうにはしゃぐコリトコに目を向ける。

 初めての馬車と、僕が作り上げた通路に凄い凄いとはしゃぎながら隣に座るキエダに興奮気味に話しかけている彼の姿を見て――


『でもまぁ、こういうのも悪くないな』


 と、僕は思ったのだった。



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