第61話 魔力濃度を調べよう!
洞窟から出ると、そこは一面の砂浜だった。
と言っても外ではない。
周りを見回すと、ぐるっと高い岩壁に覆われている。
その楕円形の中に砂浜と大きな池が存在しているという、なんとも摩訶不思議な景色であった。
「これが秘密の入り江なんだ」
「なんとも不思議な場所ですな。周りだけでなく上も空ではないのでしょう?」
キエダの言葉を聞いて見上げた空は一面真っ白で。
「眩しいっ」
「レスト様、あまり見てはいけません。あれは
「キエダ殿はやはり詳しいな。そう、あれは空ではなく天井一面の光石だ」
光石と言えば、王都でもめったに見かけない鉱石だ。
魔力を送れば光を放つという性質を持っているため、火が使いづらい暗い場所などでの需要がかなり高い。
魔道具と違って魔石が必要ないために、ダンジョン探索などを主に行う冒険者には特に人気がある。
「でも、光石ってたしか纏まって発掘されたことはないんじゃなかった?」
「はい。私の知る限り偶然に他の鉱石の発掘作業の際に稀に見つかる程度のはずです」
しかも、こぶし大の光石が発掘されたからと言って、その場所で他にも光石が見つかることは少ない。
何故か光石は、様々な鉱石の中にごく少量交じるという状態でしか発見されていないのだ。
「それが天井一面にあるなんて」
「しかも輝きを放ち続けているということは、この秘密の入り江とやらの魔力濃度はかなり高いのでしょうな」
魔力というのは人には殆ど感じられない。
なので魔力が濃い場所、薄い場所を確認するには特別な魔道具が必要になる。
拠点の荷物の中にはあるが、もちろんそんなものは今この場所に持ってきているはずはない。
「調べてみよう」
ぽんっ。
僕は手のひらの上に『空間魔力測定器』をクラフトした。
なんせ未開の地に向かうのだ。
その地の魔力の濃さは魔力の回復速度に繋がるので、場合によってはちゃんと確認しておく必要がある。
といっても拠点周りの魔力濃度は既に調査団が調べ済みだったためにすっかり存在を忘れていたのだが。
「測定開始――――っと」
空間魔力測定器を起動させた僕だったが、取り付けられたメーターの針が一気に限界まで上がりきったのを見て思わず絶句する。
確かに調査団の報告で、島の上の魔力濃度はかなり濃いことはわかっていた。
だけど、この秘密の入り江の魔力濃度はそんなものなど目では無いほど異常である。
「壊れているのですかな?」
「今、僕がクラフトしたばかりの新品だよ。壊れるわけが無い」
もちろん作り方を間違えたわけでも無い。
だとするとこの異常な魔力濃度は事実だと言うことである。
僕は黙って目を細め天井を見上げる。
まるで真昼の陽の光のように輝く光石は、陽の光と違い熱こそ感じないが十分な光量で入り江を照らしていた。
「こんな馬鹿げた魔力が満ちてるから、光石もあんなに輝いているのか」
「にわかには信じられませんが、現実としてそうなっている以上は信じるしかありませんな」
僕とキエダは空間魔力測定器を見ながら感嘆の溜息をつく。
「所でお二人。そろそろヴァンを探さないか?」
「あっ」
トアリウトの言葉に僕はこの秘密の入り江にやって来た本来の目的を思い出した。
「砂浜に足跡が残っているから、先に来ているのは間違いないが」
「その足跡は何処に続いているんです?」
僕はヴァンのものらしき足跡を目で追いながら問いかけた。
「あの小型船に向かって続いているようですぞ」
「多分あれがヴァンの乗ってきた船だろう」
「あんな小型船でこの島まで来たっていうの? 無茶だ」
この島の周りは潮の流れが速く、小型船はその流れに逆らえず島に近づけないと聞いている。
それでも無理をして近づこうとすれば最悪波に煽られ沈没してしまうだろうとも。
「とりあえず行ってみましょう」
「そうだね」
「では私が先頭を行く。この辺りは船の残骸が多くて危険だからな」
そうして僕たちは慎重にヴァンの足跡を追い、その小型船に向かったのだった。
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