第43話 秘密の入り江の話を聞こう!
突然頬に感じた風に僕は口ごもる。
家をクラフトしたばかりで窓も開けてないから隙間風なんて入ってくるはずもない。
しかも今感じた風は冷たく、外の暖かなものではなかった。
『どうしたのだ?』
「いや、どこからか風がながれてきたような……しかも少し不思議な匂いがするような」
『ふむ……』
「あっ、まただ」
僕は風が流れてきた方を振り返る。
そこはだだっ広い大きな部屋があるだけだったが、その真中には例の穴がポッカリと口を開けている。
そして、風はその中から家の中に流れ込んできているようなのだ。
「やっぱりあの穴から風が吹いてきてる」
ずっとではないが、時々穴から風は吹き出しているようで、そのたびに僕の顔を少し冷たく撫でていく。
『ということは今夜は満月か』
「何か知ってるんですか?」
天井を見上げた聖獣様のつぶやきに僕が質問を返すと、聖獣様は顔を下げて答える。
『うむ。満月の夜はこの島の周りの潮位が少し下がるらしくてな……その時だけあの穴の先にある入り江の口が開くのだ』
入り江?
あの穴の中にそんなものが?
「レスト様」
「キエダも感じただろ? あの穴から来る風を」
「はい。私もあの穴の方から風が来るのを感じますな。ですが」
キエダはテリーヌから受け取ったお菓子の乗った皿を机の真ん中に置くと「とりあえず先にお二人から話を聞きましょう」と言った。
確かに今から僕たちはその話をするために準備をしていた事を思い出す。
「確かにそうだ」
僕は穴からテーブルに視線を戻すと、テリーヌが席に座るのを待って口を開いた。
「それでは皆さん。お茶とお菓子を食べながら話をしましょうか」
◆◆◆◆◆◆◆
「さて、何からお話ししましょうか」
『まず最初にあの穴の先にある入り江についてからで良いのでは無いか?』
「ですな。それでは私が話しますので、何か補足があればお願いします聖獣様」
『うむ任せるが良い。むしろ我が語っても良いのだが?』
「いえいえ、聖獣様のお手を煩わせるわけにはいきませんので。ここは私めが」
『……そうか。そこまで言うなら仕方が無い』
絶対に聖獣様に喋らせると無駄に長くなるからに違いない。
聖獣様以外の皆の心が一つになった瞬間だった。
「それではまずあの穴の先にある場所なのですが――」
村長は自らが前の村長から聞かされたという話を語り出す。
あの穴の先には、聖獣様が言ったようにいつもは隠されている入り江があるのだという。
その入り江に続く道は、僕が上陸のためにクラフトしたような綺麗なトンネルでは無く、何らかの自然現象か何かで作られた穴で、かなり曲がりくねって途中で登ったり下ったりもあるかなり大変な道らしい。
そしてその入り江に島の外からの風が流れ込むのは満月の夜だけなのだという。
なぜならその日以外は、入り江への入り口は海の中に沈んで見えないかららしい。
『といっても我のような実力者であれば海の中に潜れば侵入は可能だ』
「潜って来たんですか?」
『……我がどうしてこの島に来たのかは言いたくは無い』
「そうですか。じゃあ仕方ないですね」
どうせ碌な理由ではないと思うし、無理に聞き出そうとしてやぶ蛇になっても困る。
それに聖獣様がこの島に来た理由なんて知っても意味はなさそうなので、変に追求せずに僕は村長に話の続きをお願いした。
「先の話……ですか? あの穴の先にあるものについてはそれだけですが」
「いえ、せっかくなので貴方たちがこの島にやって来た理由を教えてもらえないかと思いまして」
最初コリトコがやって来た時は、この島に先住民がいたことに驚いた。
だけど彼らの言葉や村の様子からすると、彼らがこの島に移住してきてそれほど年月が経っているように思えない。
何より言葉が普通に通じるのも不思議だった。
「そうですか。といってもこちらの事情も聖獣様と同じようにあまり話したくは無い類いのものなのですが……」
「無理にとは言わないけど」
「……いいでしょう。これから私たちは貴方たちに協力していただきたいこともありますし、話を聞いて貰うのにはよい機会かもしれません」
そうして村長はお茶で唇を湿らせてから僕たちを見回して、まず最初にこう尋ねたのである。
「私は今、何歳くらいに見えますか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます