第42話 村長の魔法の話を聞こう!

「それはまさか炎の……」


 村長が薪に火をつけるのを見て、僕は彼が『炎のギフト』の持ち主だと思い問いかけようとした。

 だけどその問を口にする前に思い出したのだ。

 彼らが劣化レッサーと自らを称してはいるがエルフなのだということを。


「いやはや、レスト様の魔法ちからに比べればまったくお恥ずかしい限りの力ですが」

「やはりあなた達もエルフと同じように魔法が使えるのですね」

「純粋なエルフ族の魔法に比べれば些細なものですが――」


 村長はそう答えるとシンクに手を向けて「水よ!」と口にする。

 すると今度は彼の手のひらにこぶし大の水が形成されたかと思うと、そのままシンクの中に飛んで行き小さな水音を立てた。


「我々が使えるのは火水風土の四大元素魔法です。ですが使えると言っても、純エルフどもが言う『初級魔法』程度でしかありませんし、成人するまではその魔法も殆ど使えるものは居ないほど魔力も弱いのです。希に先祖返りをおこすものもおりますが、自分は先ほどの様なものが限界です」

「謙遜することはないですぞ。我々人間族は『ギフト』という力はありますが、それは一人に一つだけの力。貴方様の様に何種類もの属性を使いこなせる者はほぼ居ないのですぞ」

「僕もクラフトスキル以外は使えないし、火を熾すことも風を吹かせることも出来ないからね。水は出せるけど操作できるわけじゃないし」


 四大元素魔法を全て使えるのは、僕が知る限りエルフ族だけである。

 村長が口にした純エルフは、その四大元素魔法を操る力を持っていて、王国ですら彼らの住む地を攻めることはせずに、使者を送り合い共存関係の道を探していると聞いている。

 といっても純エルフは自らを気高い種族だと言って、他種族のことを下に見ているという。

 なので対等な関係を結ぶのはかなり大変だと父がぼやいていたのを記憶している。


 しかし、それに比べコリトコたちレッサーエルフはどうだ。

 エルフと同じように四大元素魔法を使えるらしいのに偉ぶったところが一切見られない。

 自らのことを劣化レッサーと呼ぶことと何か関係があるのだろうか。


「レスト様。お茶の準備が出来ましたので皆さん席にお着き下さい」


 村長から魔法についての話を聞いていると、テリーヌが振り返ってそう告げた。

 その手に持ったトレイの上には全員分のティーセットとアグニのお菓子が用意されていて。


『我は馬舌ゆえ熱いものは苦手なのだが』


 テーブルの横まで歩いてきた聖獣様が、置かれた聖獣用容器に注がれる熱々のお茶を見ながら呟く。

 馬舌って初めて聞く言葉だが、多分猫舌と同じ意味なのだろう。


『テリーヌ、悪いのだがこのお茶を冷ますためにフーフーしてくれまいか?』

「フーフーですか?」

『うむ。お主のその美しい吐息で冷ましてもらえれば、我はそれだけで――』

「それなら僕がやるよ。テリーヌはお茶の準備を続けてて」


 自らの性癖に素直になりかけている聖獣様の言葉を遮り、彼の容器に注がれたお茶に向けて僕は思いっきり息を吹きかけた。


「フーッ!!」

『ウグワーッ!! 何をするのだーっ!!』

「馬舌なのでしょう? だったら僕が冷ましてあげようかなって」

『違うそうじゃないっっ!!』

「違うって何がです? これで冷めたはずですよ。さぁ飲んでくださ……ん?」


 そんな騒がしい騒動の中だった。

 どこからともなく冷たい風が僕の頬を突然撫でるように流れていった。


 それは家の真ん中にぽっかり開いた穴からの招待状だったのである。

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