第41話 謎の穴の話を聞く準備をしよう!

 元々空き家ということもあって、素材化前に中を整理する必要もないだろうと気軽に素材化した僕だったが、目の前に現れたものを見て首を傾げた。

 家が建っていた場所の中央だろうか、そこに大人が手を広げたくらいの大きさの真四角の穴が現れたのである。


「えっと……あれって何?」

「井戸にしては大きいですし、家の中というか下に井戸を作るとは思えませんな」

「村長様に聞いて見てはどうでしょう?」


 村のことは村長に聞くのが一番だ。

 僕は振り返ると、村長に声をかける。

 当の村長は僕が家をまるごと消し去ったことに驚いたのか、腰を抜かした所を聖獣様に引き起こされている最中だった。


「大丈夫ですか村長」

「い、いや大丈夫です。すこし驚いてしまいましてな」


 僕は聖獣様を手伝って村長を立ち上がらせると、その尻に着いた埃をテリーヌが優しくはたいてあげていた。

 どうやら完全に腰が抜けていた訳ではないようで「もう大丈夫」と村長は言うと自らの足で建物の跡地まで歩いて行く。


「それで村長。この穴は一体なんなのか知ってます?」

「……これはもしや……」

「何か知ってるんですね?」

「確かではありませんが、先代の村長から聞いたことがあるのです」


そして村長は長い話を語りだそうとして――


『おお、これはあの入り江に繋がっている穴では無いか!』


 突然後ろから割り込んできた聖獣様の声に驚いて振り返る。


「聖獣様もご存じなのですか?」

『うむ。なんせ我もお主らと同じようにその穴からこの島にやって来たのだからな』

「そうでしたか。と言うことはやはり前村長から聞かされた話は本当だったのですね」


 聖獣様と村長の二人だけわかり合っているようだったが、僕たちにはさっぱりわからない。

 そして何やら二人で話をし始めたのだが、このままでは僕たちだけ蚊帳の外だ。

 なので僕は二人の間に「その話を詳しく僕たちにも教えて下さい」と進み出ることにした。


「ややっ、これは失礼しました」

『そうだな。その穴とその先にある場所・・についてはお主には話しておいた方が良いだろう』

「是非お願いします」

『うむ、少々長い話になるが――』

手短に・・・お願いできます? あと出来れば村長も一緒に話に加わってもらえるとありがたいんですけど」


 この聖獣様に好き放題喋らせては明日の朝まで話が続きかねない。


「わかりました。しかしこんな所で立ち話もなんですな」

「そうですね。それじゃあ」


 僕は全員に一度穴から離れるように告げる。

 そして十分皆が離れたところで頭の中で設計図を組み上げ。


「クラフト!」


 手持ちの資材と先ほど手に入れた建材を使ってとりあえず全員が入れるだけの大きさの家をクラフトする。


「それじゃあこの中で話を聞かせて下さい。それと一応穴の周りは木の柵で覆っておきましたので」


 僕は後ろで見ていた一同にそう告げると、聖獣様が立ったまま入れるように作った大きめの引き戸を開け先に中に入る。

 中は簡単な台所と大きめの部屋が一つ。

 他には小さめの部屋とトイレだけという簡素な造りだ。

 その大部屋の天井がかなり高く作られているのと、ど真ん中に大きな四角い穴が開いている以外は特に特殊な家ではない。


「さて、後は小物類をクラフトしてっと」


 僕は皆が座って話せるように椅子とテーブルをクラフトし、ついでに大部屋と小部屋にベッドや寝具、箪笥など家具をクラフトする。

 大部屋は僕とキエダと聖獣様の寝室。そして小部屋はテリーヌの寝室にする予定だ。


『これなら我でも十分入れるな』

「天井も高いですね」

「レスト様、馬車から持ってきた食材は何処に置けば良いですかな?」

「本当にとんでもない魔法力ですな……このような魔法は長く生きてきましたが初めて見ました」


 後から入ってきた全員が口々に感想を述べる。

 僕はキエダが持ってきた食材を置く場所をクラフトして、台所用品もクラフトしていく。

 この辺はこの領地に来てからかなり手慣れてきたと思う。


 テリーヌがキエダの荷物からお茶と、アグニ特製のお菓子を取り出し準備を始める。

 お湯を沸かすために作ったかまどには、燃えやすいように加工した薪と炭と着火剤をセットしておいたので簡単に火起こしはできるはずだ。


「火を点ければいいのですかな?」


 テリーヌが竈に火を入れようとマッチを荷物から取り出すと、それを見ていた村長が彼女にそう声をかけた。


「ええ、今からお湯を沸かしますので」

「なるほど、それでは私がやりましょう」


 何だろうと見ていると、村長はそのまま竈の前まで歩き薪に指先を向ける。


「炎よ」


 そして村長がそう呟くと彼の指先に小さな炎が生まれ、次の瞬間その炎が薪に向けて飛んで行ったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る