第44話 レッサーエルフの秘密を聞こう!

「え?」

「私の年齢です。何歳ぐらいに見えますでしょうか?」

「そうですね……」


 普通の人間だとすると、村長の見かけは六十歳以上にみえる。

 キエダが確か六十歳だったはずなので、それよりは上だろう。

 なので七十歳くらいか。

 だけど彼はエルフ族である。


 エルフ族と言えば人間の数倍もの寿命を持ち、その人生のうちの長い期間を成人したころと変わらぬ姿で過ごすと聞く。

 なので、もしそれが本当であるなら目の前の老人はすでに寿命が尽きる頃のはずだ。

 だとすると二百……いや三百歳か……。


「人間で言えば六十歳から七十歳程に見えますけど、エルフ族の皆さんは非常に長寿らしいのでどれくらいなのかはわからないですね」

「はははっ。そんなに長寿なのは純エルフだけです」

「そうなんですか?」

「ええ、ちなみに私の年齢はレスト様の予想通り六十六歳です」


 好々爺のように小さく笑いながらそう言った村長の言葉に僕は少しだけ驚く。


『驚いた様だな? レッサーエルフ族の寿命は人間と変わらんのだ。ちなみに我の年齢は――』

「聖獣様、今村長と話をしてるんで後で良いですか?」

『……うむ……』


 聖獣様が余計な口を挟んでくれたおかげで少し冷静になれた僕たちは、椅子に座り直しながら村長の顔を見る。

 悪戯が成功したかのような嬉しそうな表情を浮かべた老人の顔の横にはエルフ族であることを示す長くとがった耳が付いていて。

 彼が確かにエルフ族であることを示している。

 なのに僕たちと同じ寿命しか無いというのだ。


「それは本当なんですか?」

「ええ、もちろん」

「もしかして何か老化が早まるような病にでも掛かっていらっしゃるとか?」

「病……いいえ、これは病ではありません」


 そして村長は語り出す。

 レッサーエルフのレッサーより劣るの意味を。


「もちろん我々も昔はエルフ族と同じ長い寿命を持っていたと聞いています。と言うより我々の先祖は純エルフでしたので」


 そして村長は歴代の村長から引き継いできたレッサーエルフの歴史を語り出す。


 エルフの国があるのはルアート大陸と言って、ここの島からかなり離れた所にあり、海岸沿いを除けばほぼ森か山しかない地なのだとか。

 ある時その大陸の奥地にあるエルフの国で問題が起こった。

 それは猛烈な少子化だった。

 長い寿命を持つエルフ族にとって、子供が少ないことはそれほど問題視されてなかった。

 そのために種が存続出来ないほど子供が生まれないという事実に気がつくまでにかなりの年月を要したという。


 エルフという種族はこのままでは滅んでしまう。

 それを察した一部の者たちが推し進めたのが他種族との婚姻であった。


 エルフ同士ではなかなか生まれない子供も、他種族との間であれば比較的容易に生まれる。

 推進派のエルフたちはそれに種族の存続を掛けるべきだと主張をした。


 しかし今までそういう子供のことをレッサーエルフだと迫害し、追い出してきた純エルフたちにはとても受け入れることが出来ない話であり、推進派はエルフの世界と呼ばれるエルフの森から追放されるに至ったらしい。

 そして純エルフたちは他種族との間に生まれたエルフの子を『エルフの劣化種レッサーエルフ』と呼ぶようになった。


 結果を見るとどちらが良かったとは言えない。

 最初は他種族との交配でもエルフの力はそれほど衰えなかったが、やがてその血は徐々に薄まっていき、今では『初級魔法』程度しか使えない物が殆どという状態になってしまっている。

 そしてその寿命もどんどん短くなり、今では人間族と同じ程度になってしまったのだという。


「不思議なことに人よりも寿命が長いドワーフ族やハーフリング族との間に生まれた子孫も、同じように人間族と同じ程度の寿命なのです」

「どういうことなんだろうか」

「わかりません。もしかしたらエルフの血の魔力があまりに強すぎるため、体がバランスを取ろうとした結果では無いかと」


 やがてエルフの森を追われた彼らは子孫を増やすため、ルアート大陸を彷徨った。

 純エルフは基本的に森の中にあるエルフの国と森から出てこないため、推進派は彼らのいない平原で子孫を残そうとしたわけである。


 結果としてエルフの血を持つ者たちはそれなりの数になったのだが、それを知った純エルフ族が動き出した。

 純粋なエルフ族以外を認めない彼らは、その強力な魔力による魔法でルアート大陸とその周辺の国々に『威力外交』を行ったのである。


「純エルフでないレッサーエルフを増やしてはいけない。なので各国に住んでいたレッサーエルフたちを純エルフの管理下に置くために引き渡せと」


 レッサーエルフたちは、そんな純エルフからの迫害から逃れるためにルアート大陸を捨て散り散りに世界各地に旅立った。

 その旅立ったうちの一組がこの島にたどり着いたのは偶然だったらしい。


「もしかして僕が昔王都で見た純エルフの外交官の来訪目的も……」

「間違いなくそれが目的でしょう。ルアート大陸の近隣は既に掌握し、次に世界へ手を伸ばし始めた」

「……」

「と、言っても私たちは一度も純エルフというものを見たことは無いのですが」


 村長はそう言うと「先祖の話を聞いた今では見たくも無いですがね」と小さく呟いたのだった。



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