第93話 衝撃の事実を受け止めよう!

「それでエルからは何と?」


 執務室でキエダと二人になった僕は、早速話を切り出した。


「エルにはこの領地への移住者と信用できる商人の選別を任せていたはずだけど、何か問題でもあったのか?」

「そのことに関しては順調だと言っておりました」

「それじゃあ何があったというんだ」


 尋ねる僕にキエダは二枚の書類を机の上に並べて置いた。


「これは?」

「レスト様に出された辞令書の写しでございます」


 たしかにそれは、僕がこの島への赴任を言い渡された時に渡された書類のようだった。

 しかしそれを二枚並べてキエダは何が言いたいのだろうか。


「ここをよく見て下さい」


 キエダは二つの書類のある部分を両手の人差し指で刺してそう言った。

 そこに書かれていたのは、片方は僕の赴任先であるエルドバ島の名前だが、もう一枚の方は――


「ハイネス領だって!?」


 そこにはエルドバ島とは全く反対方向である北方の地方領の名前が記されていた。

慌てて僕は両方の書類をしっかりと確認する。


 ハイネス領は数代前に前領主の散財によって廃領となり、その後はダイン家が代理統治している土地のはずだ。

 その書類によれば本来なら僕はそのハイネス領の領主として就任するはずだったらしい。

 それが何者かの手によって改ざんされ、僕はすっかりそれを信じ込んでこの島にやって来てしまったということらしい。


 つまり今の僕は正式にはこの島の領主などでは無いということで。


 僕は執務机の椅子に倒れ込むように座り込むとキエダを見上げ「いったい誰が、どうしてこんな改ざんを……」と問いかけた。


 いや、犯人など一人しかいないではないか。


「レリーザ様の仕業で間違いないでしょうな」


 レリーザ=ダイン。

 それは僕を追放して自らの血を分けた息子であるバーグスをダイン家の跡取りとするために暗躍していた継母の名だ。


 僕が貴族社会を……特に上流貴族の社会を嫌うようになったのは彼女のような人間を何人も見て来たからに他ならない。


「レスト様が本来赴任するはずだった地は、この地に比べれば王都に近い土地でございます。彼女は不安だったのでしょう」

「不安? 僕はダイン家の家名も奪われたというのに何が不安なんだ?」

「レスト様がハイネス領を立て直し、功績を挙げ、ダイン家の跡取りとして返り咲くことを……でしょうな」


 そんなことは不可能だ。

 一度でも貴族家を追放された者が返り咲くなんて話は聞いたことが無い。


 だけれど事実レリーザはそれを恐れたのだろう。

 もしかすると彼女は僕が隠していたギフトのことも知っていたのかもしれない。


 僕はすっかりレリーザを騙せていると思っていたけれど、彼女は僕がわざと追放されたことに気が付いていたとしたら。

 それは僕が彼女たちをいつか排除するための作戦の一つだと勘違いしたとしてもおかしくは無いのかもしれない。


「でも今さらこの島を捨ててはいけないよ」

「さようでございますな。レッサーエルフやドワーフたちを見捨てることになりますからな」

「でも僕がこの島に赴任してきたことが間違い立ったとするなら、いつか王国から『本当の領主』がやってくるんじゃ無いか?」


 帝国との戦争から何十年も放置していたこの島に新しい領主が赴任してくるとは考えられないが、万が一と言うこともある。

 王国の拡大路線が一息つけば、彼らは王国領内にある未開の地での資源発掘に乗り出す可能性は大きいだろう。

 そしてその未開の地の中にこの島も含まれている。


「そのことなのですが朗報……と言って良いのかわかりませんが今のところは心配は要りませんぞ」


 頭を抱える僕にキエダが歯切れ悪く告げる。


 朗報なのか朗報で無いのか。

 キエダは先ほど僕の赴任地が改ざんされていたことを告げた時よりも複雑な表情を浮かべ、何度か口を開き賭けては閉じるを繰り返し。


「エルはこの改ざん書類を入手した後、さらに調査を続けたそうでして。特にこのエルドバ島のことについて私たちが知らない何かがあるのではないかと」


 僕が手に入れた調査団の資料は公に公開されているものだ。

 しかしその他に非公開になっている資料が存在してもおかしくは無い。


「それで資料は見つかったのか?」

「……はい。五十年ほど前の王国会議の決議書をエルは見つけ出したそうで」


 そう言って差し出された書類を僕は受け取った。

 そしてそこに書かれている内容に目を通し固まってしまう。


「そんな……五十年も前にこの島はもう……」


 その決議書に書かれていた内容はただ一つ。

 王国によるエルドバ島の領有を放棄するという内容が記載されていたのだった。



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