第131話 最後まで貴方と一緒に……_
「くっ」
「一体何が起こったというの!」
渓谷は途中から大きく右側に曲がっている。
なので僕たちが居る場所からその音の原因は見えない。
だけど、その方向からもうもうとした土煙と共に激しい雄叫びと地を揺らすほどの足音が幾つも渓谷を溢れさすほど響いてきた。
これは間違いない。
あの曲がった先から山脈の向こうにいるという魔獣たちが大量にこちらに向けて押し寄せてきたのだ。
『足止めが……破壊されたかっ……もういいっ! とにかくお前たちだけでも逃げてくれっ』
「そんな訳にはいきませんよ! エストリア! 聖獣様をクロアシに乗せて――」
「レスト様! それはさすがに無理ですっ。いくらクロアシでも聖獣様と私たち二人を乗せては動けませんっ!」
「でも……だったらどうすれば」
ドドドドド。
数百メルほど先から土煙が噴き上がる。
もうすぐそこまで魔物の群れが迫ってきているのは明らかだ。
「しかたない。僕がクラフトスキルで出来る限りの壁を作る! だからその間にエストリアは――」
「嫌です!! レスト様を置いて私だけにげるなんて絶対に嫌ですっ!!」
今まで見たことが無いほどの強い瞳に大粒の涙を浮かべ、エストリアが叫ぶ。
だけど現状僕に出来ることはそれしかない。
僕のクラフトスキルは色々なものを作れる。
コーカ鳥の様な魔物ですら壊せない檻も造ることが出来る。
だけど今目の前に迫ってきているのはそれよりも遙かに巨大で遙かに強力な魔物たちだ。
島の東は西に比べ途轍もなく濃い魔素が渦巻いているという。
その魔素を糧に育った魔物たちは見えるだけでも僕が今まで見た魔物の数倍、いや十倍以上もの大きさだった。
『無駄だレスト。お主がいくら……全力で壁を作ろうとも、あの魔物どもは力だけで無く魔法も強力なものをもって……いる。石の壁なぞ足止めにもならんっ』
「でも僕にはそれしか」
『だから逃げろと言っておるのだっ! がはっ』
口から血を吐き出し叫ぶ聖獣様の顔からはドンドンと血の気が失せて行く。
「危ないっ!」
ゴウッ。
激しい熱波と共に僕の頭上を巨大な火球が通り過ぎ、遠く後方で渓谷の側面に大きな穴をうがつ。
あんなのが当たったら一瞬で僕らは蒸発してしまうだろう。
そして僕が作れるような壁も。
「もう……逃げるのも間に合わないか……」
僕は迫り来る魔物の群れを前に立ち尽くす。
いまさら全ての力を使って防壁をクラフトしたところで先ほどの火球を見た後では何の意味も無いことは明らかだ。
「ごめんエストリア……巻き込んでしまって」
「良いのです。私が好きで付いてきたのですから。それに」
背後からエストリアの両手が優しく僕を包み込む。
「私は最後まで貴方と一緒にいたいと思ってましたから」
「エストリア……」
僕は抱きつかれたまま振りかえる。
そして彼女をを抱きしめようと挙げた手が何かにあたり――。
からん。
何かが地面に落ちた音がした。
=============おしらせとか
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