魔王の塔と天空回廊

第21話 巨大な塔をクラフトしよう!

「さて、資材もまたトンネル拡張と、周りの森を素材化してたっぷり集めてきたし、始めますか」


 今日の午前中一杯を掛けて素材集めに走った僕は、そのついでに森側に作った広場の前に立っていた。

 今日は午後一杯を掛けてここに出来るだけ高い塔を建てるつもりだ。

 設計図は昨日の段階で既に僕の頭の中にくみ上げられている。

 そしてそれに必要な資材も全て揃った。


「それじゃあ始めるよ」

「うん! 領主様頑張って!!」

『ワォーン』

「休憩の準備はしておきますから、疲れたらお休み下さいね」


 今日のお供はコリトコとファルシ、そしてテリーヌだ。

 キエダは僕の代わりに、今日は井戸を探してくれている。

 フェイルはコーカ鳥の世話、アグニがやりたがっていたが任せると碌なことにならないので彼女にはキエダと共に井戸探しの手伝いをして貰うことにした。


「とりあえず設計図通りに素材を加工して建築資材にしてっと」


 僕はコリトコたちから離れた場所に手のひらを向けて、塔の部品を次々とクラフトしては積み上げていく。

 大型の建築物は領主館と鶏舎に続いて三つ目なので、かなり手際が良くなっている実感がある。


「領主様のギフトってまるで魔法みたいだね」

『わふん』

「そうですね。私も王都で色々なギフトを見てきましたが、レスト様のクラフトはそのどれよりも不思議ですわね」


 三人の言葉を背に、僕は手際よく資材を積み上げ終わると、広場を埋め尽くしたその部品の多さに少しめまいがする。

 決して魔力切れとかでは無いけど、今からこれをくみ上げるのかと思うとげんなりしてしまう位は多かったからだ。


「この森の一番高そうな木より更に倍くらいの高さで設計しちゃったから仕方ないけどさ」


 かなり大きめに準備していた資材置き場が埋まるほどの山を実物として見てしまうと、頭の中のイメージだけとちがって圧倒的に押しつぶされそうな迫力を感じる。

 流石に資材化する時も倒れてこないようには計算して積み上げてはいるものの、今地震でも起こったらと思うとぞっとする。


「さっさと仕舞っちゃうか」


 だけど今回は今までの二棟のクラフトとは違う事がある。

 それは作り出した資材を一旦僕の素材収納に仕舞い込んでから組み立てると言うことだ。

 何故そうするのかは簡単な話で、地面に資材を置いたままでは僕の力が上に行くと離れすぎて届かなくなってしまうからである。


 僕のクラフトスキルは、大雑把に周囲僕の身長十個分ほどの範囲しか届かないのだ。

 だから今までも道を作ったりする時に一気に作らず、少し作っては歩いてまた作るということを繰り返していたわけである。


「よし収納完了」


 次々と僕の手に吸い込まれていく建築資材の山と、それをポカーンと口を開けたまま見ているコリトコ。

 その横で同じように口を開け、だらしなく舌を垂らしたファルシの顔はなかなかの見物で。


「どうだ、凄いだろ?」


 僕はついいつもは言わないようなことを口にしてしまった。

 ダイン家に居た時、この力をなんど見せびらかしたくなったことだろう。

 だけどダイン家を追放されるためには、絶対に自分の力は見せられなかった。

 人目の無い所で、当時唯一信用できる使用人だったキエダの前でしか王都を出るまで使うことが無かったのだ。

 だからそれを披露して純粋に誉められるという経験があまりに少なかったために、コリトコの尊敬のまなざしがくすぐったくて。


「うん! 凄い!! コーカ鳥のお家を作ってくれた時も凄いと思ったけど、今日は魔王様みたいだった!」

「魔王って。僕はどっちかっていうと魔王を倒す魔法使いの勇者の方がいいんだけどな」


 コリトコは最近、眠る前にテリーヌが読んで聞かせている『魔法使いの物語』に嵌まっているらしい。

 テリーヌが一体どんな目的でそんな本を持ってきていたのかはわからないが、かなり年季の入ったそれは、彼女にとって何か大事なものなのかもしれないと思っている。


「だって魔法使いの勇者は壊すだけなんだもん。魔王様は壊すだけじゃ無くお城を作ったり町を作ったりするでしょ?」

「ま、まぁ魔王だって王様だからな。でも勇者もきっと、魔王を倒した後に王様になってから町を復興させたりしたんだよ」


 英雄譚というものは大抵英雄が悪を倒したところで終わる。

 その後の復興などは、あっても『皆幸せに暮らしました』程度のものだ。


 それでも物語によっては英雄が指揮を執って陣地を作ったり、武器や防具をつくったりもするのだが、テリーヌが持つ『魔法使いの物語』の英雄は攻撃力に特化していて、そういった場面がほとんど無かった。

 その代わり魔王側が防壁を作ったり、様々な罠を仕掛けたりという描写が豊富で、正直初めて読んだ時は僕も魔王の方に感情移入してしまったのを思い出しす。

 一体テリーヌはどういうつもりでその本を語り聞かせているのだろうかと少し疑問に思ったが、多分それしか彼女は本を持ってきていないからに違いないと、そう思うことにした。


「領主様のこと、魔王様って呼んでも良い?」

「絶対嫌だ!」


 僕は冗談めいた声で笑いながらそう言ったコリトコに、わざと子供っぽく即答すると塔の建設予定地に向き直る。

 そして両手を突き出していつもよりも大きな声で、世界を救う勇者を意識した声で「クラフト!!」と叫んだのだった。


※本日は夕方にもう一話更新いたします

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る