第39話 村人全員を診断しよう!

 村の前の広場に作った特設診療所で、全ての村人をテリーヌのギフトで診断する。


 聖獣様の長話に疲れ切っていた村長をまず最初に診断することで助け出し、その後の聖獣様の相手はコリトコに任せることにした。

 聖獣様は何故かコリトコには弱いようで、コリトコの前ではいつもの早口な長話は途切れ途切れになるのである。


 途中、村の中からやって来た若い娘たちに周りを囲まれ「良い香り」だとちやほやされていたが、聖獣様が調子に乗ってしゃべり出すと村娘たちは僕たちの診断にかこつけて一人、また一人と彼の元から去って行ったのは流石に自業自得とは言え可哀相ではあったが。


 そんなこんなで聖獣様が何度目かの『反省』をし、コリトコに慰められている頃やっと全ての診断が終わった。

 スレイダ病以外にも、軽度の病気とも言えないような病気や怪我をしていた村人の治療も同時に行ったが、そんな村人の中でスレイダ病の病原菌を保有していたのは約五〇人中の六人。

 年齢や性別はバラバラで共通性は見えなかった。


 その全員に僕がクラフトした特効薬を飲んでもらい、念のため一日ほど家族と別れ男女別で空き家で過ごして貰うことにした。

 元々この村は百人以上もの集落だったらしく、その頃の名残で何軒か空き家がある。

 人が住まなくなった空き家は、村の老人たちが定期的に掃除をしているらしく、直ぐに使うことが出来たのも良かった。


「さて皆さん、もう日が暮れてしまいますし詳しい話は明日にしましょう」


 村長はそう言いながら僕たちを村の中でも一番立派な空き家へと案内してくれる。

 その家は昔は五人家族が住んでいた家なのだそうで、中には部屋が三つほどと台所も完備されていて、僕たち三人が泊まるのには十分な広さがあった。

 三人というのは僕とキエダとテリーヌ。

 コリトコとファルシはもちろん自分の家で眠ることになる。


『我は何処で眠れば良いのだ?』

「あ」


 僕たちの後ろを着いてきて、同じように家の中を覗き込んでいた聖獣様の声に僕は彼のことをすっかり忘れていたことに気がついた。

 なぜなら村に入ってから今まで一言も喋らず無言だったからである。

 どうやら村娘たちに逃げられたのが余程堪えたらしい。


「せ、聖獣様はどのような寝所でいつもお休みに成られるのですか?」


 村長が恐る恐る聖獣様に問いかける。

 見かけはピンクの馬に角が生えただけのように見えるが、まさか聖獣を馬小屋に繋ぐ訳にもいくまい。

 それ以前にこの村には馬小屋というもの自体が見当たらなかったので、多分馬を飼う習慣が無いのだろう。


『そうだな。いつもは泉の畔の芝生上か、森の大樹の上か』


 大樹の上って、まさか聖獣様は空でも飛べるのだろうか。

 あの蹄で木を上ることが出来るとは思えない。


「芝生なら、村の中にある広場がございます。ですがあそこはよく村人も通るのであまり寝所には向きませんが、そこでもよろしければ――」

『我はレストと一緒にこの家でもかまわんぞ』


 村長のその提案に対して、聖獣様は予想外の答えを返してきたのだった。

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