第133話 決着

「クラフト超増幅機能ハイパーブーストっっ!!!!」


 そう叫んでスキルを発動させたと同時に一瞬視界が暗転するほどの力が握りしめた腕から杖に向かって流れ込む。

 そして大量の何かが僕の中から失われていくのがわかった。


「ぐううっ」

「レスト様!」

『レスト!』


 杖の先に渦巻く魔素の奔流が僕の中から吸い出した大量の何かを巻き込む様に膨れ上がる。

 そしてその奔流が一気に放出された。


「うわっ」

「きゃあっ」

『ぐぬぅ』


 余りの衝撃に僕は後ろに弾き飛ばされ、エストリアに抱き止められながら転がった。

 と次の瞬間だった。


 耳をつんざく激しい音と振動が同時に僕らに襲いかかってきたのである。

 それは僕が造り出したそれに魔物の大群が衝突した音だった。


「あっ」


 僕は思わず閉じてしまっていた目をゆっくりと開ける。

 そして目の前の光景を見て絶句してしまった。


「凄いです……」

『なんじゃこれは』


 エストリアと聖獣様が見上げるその先には、遙か天高く不思議な色に輝く巨大な壁がそびえ立っていた。

 その高さは軽く二百メル以上はあるだろうか。

 星見の塔よりも更に高い、この島で一番の建造物が一瞬で渓谷を塞いでしまったのだ。


「……成功……したんだ」


 僕は自分の中から大量の魔力と溜め込んでいた資材の殆どが失われたことを感じながら、ふらりと体が傾ぐのを感じた。

 しかしそれを止める力は既になく。


「レスト様っ」


 ふわりとエストリアが倒れかけた僕を抱きかかえてくれた。

 助かった。


「ははっ、やったよエストリア」

「はいっ、やりましたねレスト様」


 そのまま膝枕をされた僕は、涙を浮かべて見下ろすエストリアに笑いかける。

 そしてゆっくりと手を伸ばしその柔らかな頬を撫でた。


『まったく無茶をしよる』


 声と共に僕ら二人の上に影が落ちた。

 見上げると聖獣様が陽の光を背にして僕らを見下ろしている。


「聖獣様……? 傷は?」


 不思議なことに先ほどまで今にも死にそうだったはずの聖獣様の体から傷が全て消え去り、神々しい聖獣ユリコーンの姿を取り戻していた。

 もしかして怪我をしたふりでもしていたのだろうか。

 だとしたらとてもでは無いが笑って許せる気はしない。


『お主がさっき放った力の余波を受けて全て治ってしまったわ』

「えっ」

『あれほどの魔素を間近で浴びれば大抵の魔物の体は治る。当たり前のことじゃろう?』

「えええええっ。そんなの知りませんよ!」


 僕は思わずエストリアの膝から頭を上げようとする。

 だけど。


「レスト様は暫く休んでいてください」


 エストリアに無理矢理頭を押さえつけられてはどうしようも出来ず。

 僕は大人しく彼女の柔らかく暖かな太ももに頭を乗せたままにするしかなくなってしまった。


『しかしあの壁は一体何じゃ? 魔物どもの魔法すら防ぐとは、ただの岩壁ではないだろう? それに変な色に光っておるしな』

「えっとですね……あれは石材にミスリルを混ぜ込んで作った壁なんですよ。まぁ、今回は他にも色々と混じってしまったんであんな色になってますけど」

『ミスリルとな? しかしそれでは魔法は更に強まってしまうのでは無いのか?』

「たしかにミスリルはその魔力伝導率の高さで色々な魔道具に使われてますけど、ミスリル自体には魔力を電導するという性質しか無いんですよ」

『言われて見ればたしかにな』

「なのでミスリルによって伝達された魔力はそのままでは何の意味も無くて、そのままだと自然に空気中へ放出されて仕舞うんです。なので動力か光か熱か何かに変換する媒体に繋げないとミスリルを使う意味は無くて」

『ということはあの壁には……』

「もちろん何も着けないつもりだったんですけどね。どうやら素材として持っていた光石がまじっちゃったみたいで、魔物の魔法が壁に当たる度にああやって光る変な壁になってしまったと」


 壁の仕組みは簡単だ。

 ミスリルを含んだ壁に魔物の魔法が衝突すると、魔法を形作っていた魔力が伝導率の高いミスリルによって純粋な魔力へ戻されてしまう。

 そしてその魔力はこれまた壁の中に混じっている光石を光らせ、余った余剰魔力はそのまま空気中へ放出されて消えるというわけだ。


「実はミスリルを盾の素材に使うことで魔法攻撃を無効化することが可能だってことはよく知られてるんです。だけどミスリルって本来ならかなり希少鉱物じゃないですか。しかも柔らかすぎて魔法は防げても物理攻撃には一切無力で」

『確かに鎧や盾の一部にミスリルをはめ込んでいる冒険者は見たことはあるが、全身をミスリルで覆った者は見たことが無いな』

「だから実戦ではなかなか使いにくいから実用化はされてなかったんですが」


 僕は一旦言葉を止め、息を整えてから話を続ける。


「でもね学生時代に図書室で読んだ本に書いてあったんですよ。物理攻撃に強い鋼に少量のミスリルを一緒に融解させて混ぜ込んだ合金を作れば実用的な武器屋防具が作れるんじゃ無いかって」


 しかし超高温でしか融解しないミスリルと鋼の融解温度はかなりかけ離れている。

 ミスリルが融解する温度まで熱を上げれば鋼は蒸発してしまうのである。

 なのでこの二つを混ぜ合わせた合金は作成不可能だと本の著者は結論づけていた。


「だけど僕なら出来るんですよ」


 そう、僕にはそれが可能な力があった。


「その二つの物質を混ぜ込んだものをクラフトスキルで造り出すことがね」


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