第8話 領主館をクラフトしよう!
元の調査団本部らしき建物を解体した結果。
素材として使えそうな木材や鉄。
ガラスの破片などもあった。
陶器のかけらは、多分食器か何かだろう。
あとは朽ちた木材もあるが、これは後で燃料として使ってしまうつもりだ。
「さて、とりあえずこれだけの素材だと木材が足りないな。石で作ってもいいけど木製の建物にしたいんだよな」
僕は素材の中から、先ほどこの場所までやってくる間に素材化を使って手に入れていた丸太をクラフトスキルを使って木材に加工する。
「もう全部木材に変えておこうか。丸太が必要になったら、周りの森を素材化すればいいし」
手持ちの丸太を素材化して広場に山積みしていく。
次に収集したガラス片をガラスの塊にして、木材の山の横に置く。
同じように鉄をクラフトで延べ棒に初期化してしまう。
小さな物をクラフトする時は、この課程は省略してもクラフトは可能だけど、今回はなるべくちゃんとした建物を建てたい。
なので、素材をクラフトで加工しやすい状態に変化させているのである。
「あとは基礎用の石を、空っぽの跡地に並べてっと」
ぽんぽんぽんっと突然現れた石が、綺麗に建物の土台の形に並んでいく。
設計図は頭の中にあるし、後で変更や修正が必要になっても僕のクラフトスキルなら一瞬で出来てしまう。
「やっぱり貴族のどうでも良い勉強より、建物とか農業の勉強を優先しておいて良かったよ」
僕はダイン家を出ると決めた時から、貴族のお勉強はそこそこ落第しない程度にして、辺境の領地でのんびり暮らすために必要そうな知識をこっそり勉強していたのである。
建物に関してもその時に学んだ。
「レスト様、右奥の方が少し地盤が緩い様ですので大きめのものを打ち込むようにクラフト成された方がよろしいかと」
「そうなの? 気がつかなかった。ありがとうキエダ」
「レスト様の補助をするのが我々の役目ですから」
貴族家の中で、こっそりとその手の勉強をする。
そのために一番協力してくれたのは執事のキエダだった。
彼がどうしてそこまで僕なんかのために動いてくれるのかは、僕にもわからない。
確かにキエダを僕が助けた事があるのは確かだけど、それだけでこんな所まで……。
「いつもありがとうキエダ。助かる」
僕がそう口にすると、彼は少し微笑んで小さく頭を下げた。
この島にやってくる前、彼にどうしてそこまで僕に尽くしてくれるのか聞いたことがある。
だけど彼はその時も、今と同じように優しい笑顔を浮かべただけで。
「それではレスト様、私はメイドたちの手伝いに行ってまいります。あの残骸は彼女たちだけでは大変でしょうし」
キエダはそう告げると「では、失礼します」と一言だけ言い残し、大きな残骸を地面から引きずり出そうとしているフェイルの元に早足で向かって行ってしまった。
僕はその背中を見送ってから、もう一度建物の建築に戻ることにする。
「この領地の領主館になるわけだから、見かけだけでもそれなりにしたいな」
といっても、今はまだ僕たち以外は領民は皆無の領地である。
出来上がった領主館を見るのはここに居る僕らだけだけども。
それでもある程度開拓を進めたら、どこか近くの町や村から移民を募る予定だ。
「その時、見学に来てくれた領民候補にがっかりされたくないからね」
僕は左手を積み上げた『素材』に向け、右手を基礎が並んだ領主館建設予定地へ向け、精神を集中させる。
簡単な物ならぽんぽん作れば良いが、今回は適当な仕事は出来ない。
そのためにここまで手間を掛けているのだ。
「よし、行ける」
僕の脳内に領主館『設計図』が浮かび、それを完成させるだけの十分な『素材』が揃っていることが伝わってきた。
この感覚は人に説明するのは難しいけれど、一気に脳内で全てが繋がる感覚というのだろうか。
それはとても爽快で。
「じゃあ行きますか。【クリエイト】発動っ!!」
左手に何かが吸い込まれる感覚。
右手からは何かが流れ出す感覚が同時に伝わってくる。
そして脳内では次々と設計図にそって建物が出来上がっていくイメージが変化していく。
「良い感じだ」
そう、それは僕の脳内だけじゃない。
実際に山積みだった『素材』が、僕の左手に吸い込まれ、右手からは必要な形に加工された建材が次々と現れては領主館を形作っていくのだ。
自分で使っていても不思議なその光景を見ながら思い出すのは、このギフトを手に入れたばかりの頃のこと。
その日僕はこのギフトを得て、こっそり使った時に何故か思ったのだ。
『これは人には見せてはいけない力だ』
と。
なぜそう思ったのかはわからない。
だけどその後、継母の暗躍で僕を失脚させようとする計画に巻き込まれた時に、僕はこの力を隠しておいて良かったと心底思ったものだ。
「もしかしたらこのギフトをくれた神様が、こっそりと教えてくれたのかも」
僕はどんどん完成していく、木造二階建ての立派な領主館を見上げながらそんなことを考えていたのだった。
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