第9話 領主館、完成!
建物が出来上がってからも大変だった。
僕はキエダとメイドたちを引き連れて中に入ると、それぞれに部屋割りをした。
事前に聞いていた要望に出来るだけ添うように頑張ってクラフトした部屋に、キエダは元よりメイドたちも喜んでくれた……と思う。
キエダの部屋は、元々彼からの要望がほぼ無かったので、立派な書斎風の部屋にしてみた。
壁に備え付けられた本棚と、大きめの執務机は自信作である。
ただし本は貴族家から持ってきたものしか無いために、全部詰め込んでも殆ど開いてしまうが。
「これは見事な造りの部屋で。さすがレスト様、私のためにここまでの物を作っていただけるとは感無量でございます」
キエダは部屋に入って中を見回した後、そう言ってくれた。
だけど、彼は大体いつもこんな感じなので、本当に喜んでくれているのかはいまいちわからない。
次に僕の部屋を挟んだ反対側に作ったテリーヌの部屋だ。
彼女もあまり要望を口にしなかったが、僕は彼女が基本的には質素な部屋が好きなのを知っていた。
なので、キエダの部屋にあるものよりは小さめの執務机と、それほど派手に見えないベッド。
後は普通の鏡台に箪笥を用意した。
「ありがとうございますレスト様。ところでこれは何なのでしょうか?」
ただその普通の部屋の一部。
そこだけが他とは異様を放っていた。
「ああ、そこはウォークインクローゼットだよ」
「ウォークイン……ですか?」
「うん。昔西の国へ旅行に行った時に、そこの屋敷にあったんだ」
彼女は気付かれていないと思っているのだろうけど僕は知っている。
テリーヌはかなりの数の衣装を持っていたことを。
もちろん今回の旅に持ってきた服の数は少ないだろうし、大半は処分してきただろうけど。
「これだけ広ければ、沢山服が仕舞っておけると思ってね」
「……」
「あっ、余計なお世話だったかな?」
「……いいえ。ありがとうございます」
テリーヌはそう言って頭を下げたが、その表情は僅かに緩んでいるように見えた気がする。
次はアグニの部屋だ。
「アグニの部屋はテリーヌの部屋の正面で良かったかな?」
「はい。問題ありません」
僕は荷物を馬車に取りに向かうキエダとテリーヌが玄関に向かうのを見送ってからアグニの部屋の扉を開く。
その瞬間だった。
「!!」
扉の前の僕を押しのけるように中に飛び込んだアグニは、そのままバタンと扉を閉じてしまったのである。
突然のそんな行動に、僕は一瞬あっけにとられたけれど、続いて中から聞こえてきた声で、何故彼女がこんなことをしたのか理解した。
「れ、レスト様。どうしてこんな部屋に……もしかして私の部屋を」
「あ、ごめん。もしかして隠してた?」
「い、いえ……ですがいったいいつの間に」
今回アグニの部屋を作るに当たって、特に要望が無かったので僕は一度だけ見たことがある彼女の部屋を思い出しながら作ることにした。
屋敷で、偶然彼女が何やら慌てて部屋の扉を閉め忘れて自分の部屋を出て行くのを見かけた僕は、親切心でその扉を閉じて上げようと部屋の前まで行ったのだが。
その時に自然と目に入った彼女の部屋の中は――
「アグニがあんなに可愛いものが大好きだなんて思わなかったよ」
そう。
彼女の部屋の中には沢山のぬいぐるみが、所狭しと置かれていて。
しかもベッドなどもフリフリのピンクで可愛らしい装飾がされていたのであった。
なので僕は今回、今ある材料で出来る限りそれを再現してみたのだが。
「ぬいぐるみをクラフトするのには苦労したよ」
「……」
なんせ僕はぬいぐるみを作ったことも、貰ったことも無いのである。
町中や彼女の部屋。
あとは学園で女子生徒が何故か鞄にぶら下げているのを見たことがある程度である。
「始めて作ったから、ちょっと不格好かもしれないけど……もしあれだったら作り直すからさ」
「……いいです……」
「え?」
「これでいいです。レスト様が一生懸命私のことを思って作って下さったものですから」
扉の向こうの声は、それだけ告げると沈黙した。
一応喜んでもらえているようで良かった。
「じゃあ僕は行くよ」
「……」
返事は無い。
なので僕は仕方なく次の部屋へ向かおうと思ったが、その部屋の住人は僕たちを置いてさっさと向かったようで、その姿はどこにも無い。
「フェイル……はいないか。勝手に先に行ったんだな。まぁそれなら一々僕が行くことも無いか」
フェイルの部屋は、他と違い本人からの要望が多かったので、出来る限りそれを再現したものとなった。
天蓋付きのベッドなど、作るのは面倒だったけれど。
「さて、僕も自分の部屋に荷物を運び込むとするかな」
この館には他にもキッチンや応接室、食堂など基本的な部屋は作られていた。
客室もそれなりの数あるが、その内装はまだ作っていない。
必要になったら、すぐに内装くらいはクラフト出来るからだ。
それに今は持ってきた材料は補給の目処が付くまであまり使いたくは無いというのもある。
木材や石材は簡単に手に入るが、布や綿はそう簡単に手に入るものでは無いからだ。
「そこらへんの材料になりそうなものを栽培する場所も作らなきゃいけないし、思ったより大変だな」
僕はこれからのことを思って、少しげんなりする。
辺境の地でのんびりスローライフを送るつもりだったのに、まさか領地開拓から始めなきゃ行けなくなるなんて。
それでも、数年後にはきっとのんびりと暮らせるようになるはずだ。
それに……。
「もしかしたらこの島にはもう別の誰かがいるかもしれないし。そうなったら交易とかも出来るかもね」
僕はズボンのポケットに仕舞ったままの手帳を叩きながら、そんなことを呟いた。
まさかこの時、その
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