第7話 領主館の設計をしよう!

「さてみんな。この後のことだけど」


 今は食後のティータイム。

 あの後、外からメイドのフェイルに呼ばれ外に出ると、既に食事の用意がされていた。

 そして手帳のことを切り出す暇も無く、フェイルに手を引かれ無理やり椅子に座らされ、気がつけば紅茶をたしなんでいたというわけである。


 皆それぞれリラックスした顔でゆっくりとした時間を過ごしているが、そろそろ仕事に戻る時間だろう。

 そう思った僕はティーカップを置くと、テーブルセットを囲んで座る家臣たちの顔を見渡す。


 本来貴族の主と家臣が同じテーブルについて一緒に食事をすることはない。

 だけど、今の僕たちはたったの五人。

 

 なので、今は一々家臣だ主だという垣根はなるべく取り払って協力していこうと僕は思ったのだ。

 もちろん執事のキエダやメイド長のテリーヌは当初それには反対した。

 だけど、この島までの長い航海の間になんとか二人を説得し、今に至るというわけである。


 貴族と言っても、この王国が扱うことも出来ずに放置していた、島ひとつを領地とする男爵家に過ぎない。

 しかも、僕がこの島を開拓してある程度の功績でも立てなければ、もしかすると一代限りで爵位を返さないといけなくなる可能性すらある。


 そしてその一歩として、まずはこの拠点を人が住める場所にしなくてはいけない。

 僕の呼びかけにこちらを向いた家臣たちに、僕は話を続ける。


「船で話したように、これからは皆で一緒に頑張っていこうと思っている」


 キエダやメイドたちは、僕の言葉に小さく頷く。


「それで今から僕たちの領主館をクリエイトする予定なんだけど」


 僕は背後にある崩れたての建物に目を一度向けてから続ける。


「とりあえず調査団の本部を素材化して、今出来る限りのものを建てようと思ってる」

「僕たちの……ということは、我々もそこに住むということでよろしいでしょうか?」

「当たり前じゃ無いか。今の君たちは僕にとっては家族も同然だしね」


 僕は続けて「それに、もう日も暮れてきそうだし。慌てて何個も建物を建てても碌なことにならないでしょ?」と言った


「そうですね。まずはこれから住む所を作らねばどうしようもありませんし」

「ですです。あと少しで木の陰に日が落ちてしまいますですし」


 フェイルの言葉に僕は空を見上げる。

 森の中にぽっかり開けたこの拠点。

 太陽はその周りにそびえる木々に今にもその姿を隠れてしまいそうなほど落ちていた。


「それでだ。みんなの部屋を作ろうと思うんだが、なにかこうしてほしいとか意見はあるかな? あまり難しいものは無理だけど、できるだけ聞くつもりだ」


 僕がそう話すと、一番最初に手を上げたのは、やはりフェイルだった。


「はいはい! 私は二階の端っこがいいです! それとベッドは大きめで。それと窓にはかわいいカーテンとぉ――」


 次から次へとフェイルの口から出てくる要望を、僕は愛用の手帳にメモをしていく。

 やがて流石に一枚目が一杯になるあたりで僕は彼女の口を塞ぐ。


「フェイルはそれまでにしてくれ。時間もないしそこまで要望通りには出来ないから」

「わかりましたぁ」

「それじゃあ次は、キエダは何か要望はある?」


 僕はちょっとだけ不満そうな表情を見せて黙ったフェイルから視線をキエダに移す。


「そうですね、私はレスト様の部屋の隣りにしていただけますとありがたいですな」

「どうして?」

「レスト様がお呼びになられた時に直ぐに駆けつけられるようにですな。あとはこれと言って臨むことはありません」

「では、私はその挟んで反対側の部屋をおねがいできますか?」


 レストの言葉に続けて、テリーヌがそう口にする。

 テリーヌはキエダの忠実な部下でありながら、何故かキエダに対抗意識があるのか、良く僕のことでキエダと同じことを要求してきたりする。


「ああ、わかった。それでアグニはどうする?」

「私はどこでもいい」


 少し無口な彼女は、それだけ告げるとまた口を閉ざす。

 メイドとしての腕前は一流だけど、こういった部分が偶に扱い難く思えてしまう。


「うん、まぁ後は船の中で準備した設計図を元にして、まずは建物から建てるか」


 内装はその後で、船から運び出した材料を素材にして作れば良い。

 僕はティーカップの中の紅茶を飲み干すと椅子から立ち上がる。


「それじゃあ作ってくるよ。その間みんなは片付けたあと、そこら辺に転がってる器具を集めて置いてくれるかな?」

「わかったです」

「はい。お任せ下さい」

「レスト様、私はレスト様と共に建築したもののチェックを行わせていただきますぞ」

「……まかせて」


 それぞれがそれぞれ返事をすると、テキパキと動き出す。

 一部、フェイルだけがまた食器を落としそうになってふらついていたが、概ね問題はなさそうだ。


「じゃあいこうか」

「はいレスト様」


 僕はそんな皆に背を向けて、ボロボロになってしまっている調査団の元拠点の前に立つと廃墟を見上げる。

 中はあれ以上調べてもたいしたものは出てこないだろう。

 それでも手帳を素材化の前に入手できて良かった。


「それにしてもエルフか……」

「エルフがどうかいたしましたか?」

「いや、ちょっとね。夜にでも話すよ。それより今は領主館を作る方が先だ」


 そう答えつつ、僕は廃墟となった調査団の本部に左の手のひらを向ける。

 僕が意識を集中し、廃墟に向けて素材化の力を発動させると、一瞬にして廃墟が消え去り、素材リストに様々な素材が収納されたことを確認した。


「さて、領主館の【クリエイト】を始めますか!」


 すっかりただの空き地になったその場所を見ながら、僕はそう大きな声で気合いを入れると、さっそく領主館の【クリエイト】を開始するのであった。

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