第6話 手帳に隠された言葉を見つけよう!
キエダが見つけたのは、調査団の隊長が調査の内容を書き記していた手帳のようだった。
綺麗に清書されたものでは無く、手に入れた情報を一時的にメモするために使っていたのだろう。
「字が雑だな」
「これを元に報告書等を書いていたのでしょう。なので自分が読めれば良かったのでしょうな」
僕はキエダと二人がかりで、手帳の内容の解読に掛かった。
その結果わかったのは、内容の大半は既に報告書にまとめられている内容と同じものだったということと。
残りは報告書にまとめるには情報不足だったり、報告する必要が無いと切り捨てられただろうものであった。
「さて、あとは最後のページだけど……その前のページは千切られてるな」
最後の一ページ。
その前のページが無造作に引きちぎられていた。
「書きミスでもしたのかな?」
「かもしれませんね」
僕はそれを気にしないことにして、手帳の残った最後の一ページを開く。
ここまでの内容は、期待したものからかけ離れた内容ばかりで、僕は既にこの手帳に興味を無くしていた。
だけど――
「ん?」
最後のページを開いた僕は、その見開きに書かれていた内容を目にして、興味を取り戻した。
なぜならそこには、今まで僕が知る限り調査団の報告書には書かれていなかった内容が記されていたからである。
「キエダ。これは報告書にもどこにも書かれてなかったよね?」
「私の記憶にもありませんな。レスト様も知らないとなると、確実に報告書には書かれていないものに違いないでしょう」
それに……。
キエダは手帳を覗き込みながら、その声音に僅かの驚きを乗せて呟く。
「これが本当であれば、調査はもう少し続けられたかもしれませんな」
手帳の最後の一ページ。
そこにはたった一文だけ、こう記されていた。
『報告によれば、この島には先住民がいる可能性があるとのこと。調査の延長が必要か?』
しかし、その一文の上には一本線が引かれていて。
「この島には僕ら以外にも人がいるってことかな」
「ですが、線で消されている上に、報告書に書かれていないということは結局この話は何かの見間違い。もしくは誤報なのかもしれませんぞ」
確かにその報告の内容がこの手帳だけではわからないのでなんとも言えない。
団員の一人が、獣の影を人と見間違えたとか、もしくは別の団員の姿を誤認したという可能性もある。
だけど僕は何故かその一文を一笑に付すことが出来なかった。
「でも、この島だって周りが断崖絶壁だといっても人が入れないわけじゃ無いでしょ。現に調査団も僕らも上陸できてるわけだし」
「それはそうですが」
「もしかしたら僕のようにこの島に上陸できる何かギフトを持った人が居たかもしれない。他にも王国以外の国が過去にこの島に来ていた可能性もあるじゃない」
あくまでも可能性の話だ。
キエダや調査隊の報告書によれば、この島の周囲には今まで誰かが上陸したような痕跡は当時からまったく無かったらしい。
そしてしらみつぶしに調べ、やっと見つけたのがあの桟橋があった場所だけだったという。
「では我々以外にもこの地には誰か居るという前提で行動すると言うことでよろしいでしょうか?」
「そうだね。こんな所だから慎重に行動した方が良いと思う」
それに、もし先住民がいたとしても、話が通じる相手とは限らない。
場合によっては突然襲われる可能性もあるのだ。
でも、出来れば友好的な相手であって欲しいと願っている。
「ではメイドたちには警戒するようにその旨を伝えておきましょう」
「ああ。お願いするよ」
僕は埃舞う部屋を出て行くキエダを見送ってから、手帳を机の上に置いてもう一度最後のページを開いた。
窓から差し込む光が手帳を明るく照らす。
「ん?」
僕はその瞬間、何かが『見えた』気がして慌てて手帳を取り上げるとその紙面に目をこらす。
「まさか」
僕は懐から一本の鉛筆を取り出すと、先ほどの一文から少し離れた端の部分をそれでこすってみた。
すると、鉛筆でこすった部分にうっすらと文字が浮かんできたのである。
「これって、まさか千切られたページに書かれていた文字が写ってのこっていた? だとすると他の所も」
僕は日の光にかざし、凸凹がある場所を探してその部分を鉛筆でこすり続けた。
「これが破り取られたページの内容……」
最後のページの数カ所に並んだ言葉。
それは一言ずつ短い言葉の羅列で。
多分、報告が上がってきたものを書き殴ったものだったようで、簡単な言葉ばかりで。
『森の奥の泉』『魔物に乗った人影』『子供』
浮かび上がった四つの文章のうちの三つは、先ほどキエダと話していたこの地に居る者の特徴や出会った場所のことだろう。
だけど、最後の一つの言葉に僕の目は釘付けになってしまった。
「まさか、こんな所に?」
僕が見つめる手帳の端。
そこには荒い文字で『エルフ』と、たった一言だけ書かれていたのであった。
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