第5話 元調査団本部を調べよう!
「さて、これで安心して拠点の中を調べることが出来る」
「そうでございますな」
キエダが調べた過去の調査団の報告書によると、この島の魔物や獣は他の土地で見られる同系統のものより凶悪で凶暴なのだという。
外界から隔離された状態で進化したため、特殊な進化をしたのではないか。
調査団に同行した専門家はそう推測したそうだ。
非常に興味深い場所であるため、長期間の調査を王国上層部に求めた彼らであったが、しかしその調査団の願いは早々に頓挫することとなった。
「ガルド帝国との戦争のせいだね」
当時、王国はこの島のある南の地とは反対側に存在していたガルド帝国という中規模の国と一触即発の状況であった。
そして運悪く調査団がこの島の本格的な調査を上申した直後、二国間の戦争が始まってしまったのである。
ガルド帝国側の奇襲にも近い形で始まったこの戦争は、当初王国側は守勢に回らざるを得なく、とてもではないが南の孤島の研究などその大事の前に吹き飛ばされてしまった。
調査団はそれでも、この興味深い島の研究調査を進めるべく動いたものの、王国にとっては特に重要でもない場所の島の調査になど予算は回されることもなく、やがて戦争の激化とともに忘れ去られ。
「残ったのがこの廃墟と」
「かなり獣どもに荒らされておりますな。中もさぞ酷いことになっていそうですな」
「とりあえず素材化するまえに一応なかを確認しておくよ。何か残ってるかもしれないし」
僕は足下を注意しながら、ボロボロになっている建物の中に入る。
予想通り、中はそこら中床板も壊れ、上を見上げると二階建ての建物だというのに空が見えていた。
外から見た時からわかっていたことだけど、二階はほぼ壊れきっていて、調べる事は出来なさそうだ。
「階段……も完全に壊れちゃってるな」
雨風のせいでボロボロになった階段に足を掛ける。
パキッ。
力を入れたわけでもないのに、階段の板に亀裂が走った。
「これでは流石に上るのは無理でしょうな」
「階段をクリエイトすれば上ることはできるだろうけど、どうみてももう上には何もなさそうだしね」
キエダとそんな会話をしながら奥へ進む。
多分だけど二階が団員たちの宿舎になっていて、一階は事務所やキッチン兼食堂など共有の部屋という造りみたいだ。
「個人の部屋よりも、団長室とか会議室の方を調べましょう」
「そうだね。何か残っているかもしれない」
「記録によると、戦争のせいで急にこの地を離れることになったようですし、あの崖を何度も往復できないでしょうから」
「色々なものは置きっぱなしかもしれないってことだね」
二人で手分けしてそれらしき部屋を探す。
二階の床は穴だらけで、空も見える状況だけど、一階部分はまだなんとか形を保っている。
おかげでその部屋は思ったより簡単に見つかった。
「団長室。ここだね」
部屋の扉にはうっすらと消え賭けの文字で『団長室』と書かれた木の板が打ち付けられていた。
この扉はまだ壊れていないようで、ノブをまわしても開く様子がない。
「鍵が掛かってる」
「壊しますか?」
「いや、あまりこの建物に衝撃を与えるのは良くないから、鍵をクリエイトするよ」
僕は鍵穴を覗き込みながらキエダにそう答える。
このノブに使われている鍵自体は、王国で今でもよく使われているものだ。
「よし。この形の鍵なら作ったことがあるからいけるな」
「レスト様。いつの間にそんな盗賊のようなことが出来るようになったのでございますか?」
「ちょっと学校でね。あそこでも同じ仕組みの鍵が使われてたからさ」
「詳しく教えていただけますか? いったい何のためにそのようなことを……」
「あ、後にしてよ。今はここを開けることが先」
僕はキエダの問いかけを遮って鍵穴の奥をもう一度確認してから顔を離す。
そして鍵穴に手をかざすと「クリエイト」と小さく呟くと、同時に手から何かが伸びていく感覚が伝わってくる。
「これは興味深い」
キエダが僕の手に現れた鍵を見て声を上げた。
あっという間に出来上がった鍵は、特に装飾もなくて。
一本の棒の先に複雑な形が形成されているだけの物だ。
「開けるよ」
僕はそう言いながら、その鍵を鍵穴に差し込んで回しす。
少し錆び付いているのか、抵抗を感じたけれど、すぐにがちゃりという小さな音と共に鍵が開いた感覚が伝わってきた。
「成功ですな」
「じゃあ中を拝見っと」
ゆっくりと扉を開くと中を覗く。
その部屋は外とは違い、殆ど荒れていない状態のままで、そこだけまるで時が止まったかのように思えた。
それでも、一歩中に足を踏み入れると、足下の床板はきしみを上げ、埃が舞い上がる。
「僕がこっちを調べるから、キエダはそっちを調べて」
「わかりました」
僕たちは、なるべく埃を巻き上げないように気をつけながら部屋の中を調べていく。
元は色々なものが並んでいたかもしれない棚は空っぽで、一通り調べても何か隠されているようには思えない。
「外れかな?」
「あとはこの机くらいですな」
残ったのは窓際に置かれた団長が使っていたと思われる執務机だけで。
だが、その机の引き出しを全て開けては見たものの――
「何にも入ってないですね」
「まぁ、なければ無いでかまわないけど。それじゃあ外に出ますか」
「そうですな……おや?」
何の収穫もなく部屋を出ようとした僕の耳に、キエダのそんな声が聞こえて振り返る。
するとキエダが先ほど調べた机の下に手を突っ込んでいるのが目に入った。
「何をしてるの?」
「いえ、部屋を出る前に机の引き出しを戻しておこうとしたのですが。なにやら下にものが落ちた音がしましたので……これですな」
キエダが机の下から手を引き抜くと、その手には一冊の手帳らしきものが握られていて。
「手帳」
「どうやら撤退の時に、引き出しの奥にでも引っかかってしまっていたせいで見つからなかったのかもしれませんな」
「何が書いてあるんだろう」
僕はキエダからその手帳を受け取ると、ホリ舞う部屋の中でゆっくりと開いたのだった。
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