第128話 クラフトブースター
「レスト様! いらっしゃいますかレスト様ぁ!」
僕がオミナから帰ってきて五日ほど経った頃。
館に突然ウデラウ村からの使者が飛び込んで来た。
「いったい何事ですかな?」
僕よりも先に玄関に出ていたキエダが若い使者に問い掛ける。
その後ろからやって来たテリーヌが差し出した水を使者は一気に飲み干すと「聖獣様が急ぎレスト様に相談したいことがあるとのことでやってきた次第」と答えた。
「聖獣様が?」
ここ暫くウデラウ村に行くことが無かったせいで、村の守護神である聖獣様ことユリコーンとも会っていない。
テリーヌの薬のおかげで悩みが無くなった聖獣様は、そのあとは森の奥に隠れることもなく村の近くで日々楽しく暮らしていたはずだが、いったい何の用なのだろう。
「はい。島のことで話したいことがあるとのことで」
「詳しい内容は聞いてないのかい?」
「いえ、全く」
「そうか。じゃあ準備して急いでウデラウ村に行くよ。といっても今日すぐってわけにもいかないけど」
「聖獣様も急用とまでは仰ってませんでしたから大丈夫だと思います」
「それまで君はこの館で過ごしてくれ。テリーヌ、何か食べ物でも用意してあげて」
「はいわかりました」
僕は手早く指示を出すと早速出かける準備を始めた。
留守の間のことはキエダに任せて今回ウデラウ村へはコリトコとファルシ、そしてエストリアと向かうことに決めた。
コリトコは拠点でのレッサーエルフたちについてウデラウ村の村長たちへの報告と里帰りも兼ねてで、エストリアはクロアシで僕を乗せて村まで駆けて貰う騎手としてである。
聖獣様は急がなくて良いと言っていたらしいのだが、いちいち呼び出しの使者まで送ってきたくらいだ。
なるべく急いだ方が良いだろうという考えの基、馬車では無く一番速度が出るコーカ鳥とファルシという移動手段を選択した。
これで普通なら数日かかる距離が一日半もかからずたどり着ける。
そんな計画を立てて、いよいよ昼には出発するという日の朝だった。
「レスト様、少しいいか?」
オミナから帰ってきてからずっと鍛冶場に籠もって食事の時しか顔を出さなかったギルガスが、手に何やら布で包んだ棒状のものを持ってやって来た。
「いいですよ。出発は昼ご飯を食べてからですから、まだ余裕はあるので」
「そうか。実はこれなんだが」
ギルガスは手に持ったそれを巻いていた布を取り去って僕に見せる。
一見すると金属製の棒にしか見えないが、先端に何やら黒い宝石の様なものが取り付けられている。
「これは一体何ですか?」
「この杖は『クラフト
「補助ですか」
「そうだ。先端に黒魔晶石が付いておるだろ?」
どうやら杖の先に付いている宝石は黒魔晶石を加工したものだったようだ。
「その力を杖の中に仕込んだ制魔石で制御して魔力に変換し、お主がスキルを使うときに魔力の肩代わりをしてくれるというわけじゃ」
「僕の魔力を使わなくてもクラフトスキルが使えるってことですか?」
「起動には魔力が昼用だがな。しかしこの杖で出来ることはそれだけでは無い」
ギルガスはそう言いながら杖の握りの部分をくるりと回して僕の方へ向ける。
「この機能はまだ試作段階で十分なテストは出来てないのだがな。スキルを使うときにここにあるボタンを押しながら使うと使用者本来の力を黒魔晶石の力で増幅させることが出来るのだ。見ておれ」
ギルガスが誰もいない広場の端に杖を向ける。
「土よ!」
ボコッ。
その言葉と共に地面から縦横二メルほどの土壁が突然生えた。
ギルガスの土を操るスキルだ。
「次にこの
ボゴッ。
先ほどよりも大きな音を立てて、今度は縦横四メル以上はある土壁が現れる。
「二回ともワシは同じ程度の力しか使っておらん。だが見ての通り効果は倍増しておるだろ?」
「凄いですね。これがあれば今まで何回にも分けてクラフトしなきゃならなかったものでも、その半分の回数で出来るってことですよね」
「そういうことだ。そして更にこの
キュイイーン。
突然に杖の先端の黒魔晶石が輝きだし、辺りに異様な気配が流れ出す。
「っと、危ない危ない。この昨日はまだ不安定すぎて使うのは危険だな」
「今のは一体?」
ギルガスが慌てて杖のボタンをもう一度押すと、異様な気配が消え黒魔晶石の光も消えた。
「今のは黒魔晶石の力を一気に引き出して使用者の力を十倍以上に
杖をコンコンと叩きながらギルガスは苦笑いを浮かべる。
「だがどうもまだ制御が不安定でな。この
「そんなに危ないなら、その機能は外しておいてくださいよ」
「そう言うな。思いついたら全て詰め込みたいと思うのが技術者の性ってもんでな。とりあえず普通のブーストと魔力補助は今の状態でも完成しておるからとりあえず持っていけ」
そう言ってギルガスは僕に杖を握った手を突き出す。
どうやら受け取れということらしい。
「貰って良いの?」
「あの聖獣から呼び出されたのだろう? もしかすると必要になるかもしれんからな。ただし――」
「
「そういうことだ」
手にすると見かけとは違ってかなり軽い。
重そうな金属部分はミスリルで出来ているらしく、握りしめると魔力の流れをゆったりと感じる。
「帰ってきたらその杖の最終調整に付き合って貰うからな」
「いいですよ。この杖が完成したら凄く便利そうですし。ありがとうございます」
僕はギルガスにお礼を言うとその杖を腰の帯に刺してみた。
握りの部分が少し凸凹しているおかげで引っかかり、意外としっくりくる。
「気を付けてな」
「はい。ギルガスさんも無茶しないでくださいね」
「はんっ、余計なお世話だ」
ギルガスはそれだけ言うとさっさと鍛冶場へ戻っていく。
僕はその背中に軽くお辞儀をすると、旅の準備を再開したのだった。
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