第127話 二人の夜_
エストリアと二人きりの星見会は僕の話から始まった。
オミナで出会ったディアールのこと。
母のふるさとである旧カイエル領から移住してきたアリシアとその家族のこと。
ギルガスが「ギルおじさん」と呼ばれていること。
アリシアの経営する食堂で食べた素晴らしい料理のこと。
「ふふっ、レスト様ったら今すぐにでもまたオミナに行きたいって顔をしてますよ」
「そうかもね。あの店の料理はどれもこれも新鮮で美味しかったから。今度行くときはエストリアも一緒にどうだい?」
「本当ですか。ぜひ行ってみたいです。でもあの街には獣人族もかなりいますよね?」
たしかにオミナでは獣人族もけっこう見かける。
その殆どはガウラウ帝国からやって来た商人たちだ。
彼らは王国での商売を終えた後に南下し、西大陸南端の半島を回って大陸南西の農業国であるデレシア公国に向かう。
その途中にあるオミナは補給地としても休憩地としても使われるのだ。
といってもオミナより北側に一日ほど戻ればもっと大きな港町があるので大抵の商人はそちらを利用するのだが。
「変装とかすればバレないんじゃ無いか?」
「他の種族ならそれでごまかせると思いますけど、獣人族の場合は匂いでわかってしまうので、私たちを探してる人がいたらすぐにバレてしまうとおもいます」
エストリアは少し寂しそうに「ですので帝国とのことが片付くまでは残念ですけどお預けですね」と笑った。
「帝国……か。僕にもう少し力があればすぐにでも話を付けに行ってあげれたんだけど」
僕はそう呟きながら空を見上げる。
最近はめっきり魔素の霧が出ることも少なくなった澄んだ空に星が輝いて見える。
「今はまだ手が届かないけど、いつかきっと」
右手を挙げ星に手を伸ばし、そしてそれをつかみ取る様にぐっと握り混む。
強く。
強く。
「はい。信じて待っています」
握りしめた拳をエストリアの両手が優しく包み込んだ。
季節がアキへ向かい少しばかり肌寒くなってきた塔の上で、その暖かさはとても心地よく。
その暖かさに引き寄せられる様に僕は空いている方の手で彼女の手を包み込む様に握る。
そして彼女の瞳を見つめながら僕は告げた。
「そんなに長く待たせるつもりは無いよ」
「はい」
小さく頷くエストリアの瞳の中。
僕の顔が段々と大きくなって行き。
そのまま僕たち二人の夜はゆっくりと暮れていくのだった。
****おしらせ****
本日9月9日夕方よりコミックNOVA及びニコニコ漫画にてコミカライズが始まります。
ぜひブックマークやコメントなどで応援していただけますと今後の作品展開の力になりますのでよろしくお願いいたします。
あと3巻につきましてはもう少ししたら色々告知出来るかも知れませんのでお楽しみに!
コミックNOVA
https://123hon.com/nova/web-comic/craftskill/
ニコニコ漫画
https://seiga.nicovideo.jp/comic/59900
※ニコニコの方は1話目配信後でないとスマホからは表示されないという話も聞きましたので表示されない場合は配信前だと思ってください。
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