第13話 特効薬をクラフトしよう!
※本日二話目の投稿となりますのでご注意下さい。
「そんな凄いギフトを持っていたのに、どうして今まで隠してたんだい?」
「それは……私はこの力のせいで家族を……失ったからです」
テリーヌは全てを教えてはくれなかったが、出来る範囲で教えてくれた。
彼女は小さい頃に死に神と呼ばれていたのだという。
なぜなら彼女はもうすぐ死ぬ人を何人も言い当てていたのだ。
「まだ幼かった私は、自分の力のこともよくわからず。ただ頭に浮かんだことをそのまま口にしてしまったのです」
やがて気味悪がられ、村を追い出された彼女を救ったのがキエダだったのだという。
そしてキエダが連れてきた身元もしれぬ少女を貴族家のメイド見習いとして受け入れたのが僕の母であるらしい。
僕がまだ一歳の頃の話らしい。
「私はキエダ様と奥様に相談した上で、この力のことは秘密にすることにしました」
「どうして? そんな素晴らしい力があるなら、もしかしたら王国のお抱え医師にでもなれたかもしれないのに」
僕がそう口にすると彼女は頭を振って「私の力はそんなに万能ではありませんレスト様」と呟くように答え、涙を一粒落とした。
いったいどうしたんだと、僕は彼女の側に近寄ろうとする。
だけどその肩をキエダの大きな手が掴んで押しとどめられてしまう。
「レスト様。様々な病がわかっても、その力で救えなかった命もあるのです……」
「救えなかった……命?」
「はい。レスト様のお母上様でございます」
母は、僕が二歳の時に病で亡くなったと聞いている。
それが一体どんな病だったのかはわからないが、王国でも有数の貴族家の力を持ってしても直すことが出来ないほどのもので。
「私が初めて奥様と会った日。力のことを相談したあの朝に知ってしまったのです。奥様がもう手の尽くしようが無いほど病にむしばまれていると」
それから一年。
テリーヌはその事を知りながら母の側について、母のためになろうと必死に一年を過ごした。
大事な人が死ぬとわかっているのに何も出来ないという事実は、彼女にはとても辛いもので。
だけど母はそんな彼女を優しく見守り、自らの命が消える最後のその日まで育ててくれたのだという。
「なので私はこの力を使うことを辞めたのです……ですが」
「ありがとう」
「えっ」
僕はキエダの手が離れるのを感じてテリーヌに歩み寄る。
そして彼女の手を両手で包み込むと感謝の言葉を告げた。
「きっと母はテリーヌのおかげで、最後まで優しく穏やかに過ごすことが出来たんだと思うよ」
「そう……なのでしょうか。私が奥様に死期を教えてしまって、苦しませてしまったのではないでしょうか」
「そんなわけ無いだろ。だったら最後まで君を近くにおいて面倒を見続けるわけがない」
僕はそうきっぱり言い切る。
そしてテリーヌの目を見つめ返しながら言う。
「その君の力を、これからは僕に……いや、この領地の人々のために使って欲しい」
「……」
「だから、まず最初にこの子の命を助けよう! テリーヌがまだ助かるというなら確実にこの子は助かる」
「……わかりました。私の力が役に立つのなら……でも先ほど言ったように危険かもしれません」
「大丈夫さ。ここに居る皆と僕を信じて欲しい」
僕がそう言うと、テリーヌは少し表情を緩め、スレイダ病の特効薬について教えてくれた。
「――以上の薬草を煎じて混ぜ合わせることで特効薬が作れるはずです。ですが、私も実際に見たことも無い薬草も混じっていて、ここにあるだけでは足りないのです」
「それって、この島にしか自生してない薬草ってこと?」
「多分ですが。なので、その薬草を探しに危険なあの森の奥まで行かないと……」
「うん、ちょっと待って。たりない薬草の名前ってエノダキ草だっけ?」
「はい。三角形を二つ並べたような形の薬草らしいのですが」
僕はテリーヌのその言葉を聞いて頭の中の素材収納を検索する。
「あ、あったあった」
「えっ」
テリーヌから必要な薬草の名前を聞いていて、どこかで見たような名前だと思っていた。
どこで見たのかと考えていたら、僕の素材収納にその名前があったのを思いだしたのである。
「ここに来るまでに道を作ったり、この拠点の草とか素材化して綺麗にしたじゃない。その時に素材化した中にそのエノダキ草が混じってたみたい」
「「「「ええええええ」」ですぅ」
その場で話を聞いていた一同が驚きの声を上げる中、僕は手のひらの上にその草を取りだしてテリーヌに見せる。
彼女はさっきまでの悲しそうな顔はどこへやらといった驚きの表情で、僕の手のひらから草をつまみ取ると、しげしげとそれを確認した。
そして、一つだけ大きく溜息のような息を吐き出すと、僕の手に草を戻してから言った。
「間違いありません。それはエノダキ草です」
「いやぁ、偶然って恐ろしいね。これで特効薬が作れるんだよね?」
「はい。レシピは……」
「うん、それはさっき聞いたから大丈夫」
「それではアグニ。機材を準備してくれるかしら」
テリーヌはそう言うと椅子から立ち上がり腕まくりをする。
だけど僕はそんな彼女に向けて手を差し出すと、その手のひらに一本の薬瓶をクラフトで作り出した。
「はい、スレイダ病の特効薬」
「えっ」
「いや、材料と作り方がわかってれば僕のクラフトで作れば良いだけだからさ」
何故だろう。
医務室の中になんだか不思議な沈黙が訪れて。
「な、なんだよみんな。ここは喜ぶ所じゃ無いの?」
その空気にいたたまれなくなってきて僕は叫ぶ。
だけどそれに対する返答は――
「はぁ……レスト様ってば、空気が読めないというか何というか、色々台無しなのですぅ」
という、いつも一番空気が読めないフェイルの呆れたような言葉だけだった。
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