第49話 宴の席で話を聞こう!

 その日、お昼過ぎから始まった僕たちの歓迎会は、テリーヌの釣り上げた巨きな魚が調理され、引き出されてきた頃に最高潮へ達する。

 村長やコリトコ、そして彼の父によって僕たちは百人ほどいるという村人たちに次々紹介される中、僕はあることを知った。


「調査団の生き残りが?」

「はい。数人ですが、当時この村の若い衆が森の中で倒れている所を保護しまして」


 そこの頃のウデラウ村は今と違い、まだ聖獣様の加護が今ほど強くなかったらしく、村からそれほど離れてない場所に魔物や危険な動物が住んでいたのだという。


「加護……ね」


 加護というか、魔物たちは聖獣様に一方的に喋り掛けられて迷惑だからこの地を離れていっただけだが、そのことは村人たちには言わない約束になっている。

 僕はチラリと村の娘たちから飼葉を食べさせて貰いながらだらしない表情を浮かべている姿を横目で見ながら話の続きを聞いた。


「見つかった時は植物魔物の毒で麻痺させられていたようで、まともに会話が出来るようになる迄にかなりの月日が掛かりまして」

「それでその人達は?」


 意思疎通が出来るようになった調査団員から調査団の話を聞いたレッサーエルフたちは、彼らの無事を伝えるために調査団の拠点に向かったのだという。

 しかし、そこにあったのはもぬけの殻となった拠点だけで、人の姿は既になかったらしい。


「王国からの撤退命令の後だったってわけか」

「でしょうな。王都に残された記録によれば調査団には確認された死者だけでなく行方不明者も十人ほど出ていたはずですぞ」


 その十人のうち何人かがこの村の住民たちに助けられたということなのだろう。

 しかし彼らが治療を受けている間に調査団は撤退し、そのまま置き去りにされたと。


「調査団が引き上げてしまえば、この島から出る手段はない。そして助けを呼ぶ手段もない……か」

「それで村長殿。その生き残りの皆さんはそのあとどうなされたのですかな?」


 キエダの問いかけに村長は答える。


「一部の人達を除いて、三人ほどがこの村で暮らすことになりました」

「一部の人達はどうしたの?」

「なんとか帰る手段を見つけようと、調査団の拠点に残ったようですが……その後どうなったかはわかりません」


 僕の頭に、あの荒れ果てた拠点の姿が浮かぶ。

 無事に島を出ることができていればと願うが、僕たちと違ってトンネルを掘る手段も力もなかっただろう彼らが脱出できたとは思えない。

 僕はその人たちのことは今は考えないことにして口を開く。


「それで残った人たちの方はどうなったんですか?」

「前に言ったように我々は多種族と交わって子をなすことが出来ます」

「ということは、まさか」

「ええ。この村の十人の内何人かは彼らの子孫となります。ただ、この環境は彼ら人種には過酷だったようで、皆若くして病に倒れてしまいましたが」


 レッサーエルフたちは一部の病気以外はほとんど受け付けることのない体質だからこの環境でも生きてこれた。

 だけど僕たちのような人種はそこまで強靭な体をしていない。

 薬も設備もないこの村では、一度何か病にかかればそれが即命に関わることになる。


 最初に調査団が受けた植物魔物による毒については時間を置くと徐々に代謝されるものだったから助かったものの、それとて解毒出来ないものであったならそこで命を落としていたはずだ。


「それでも彼らが生きている間、我々は外界のことを色々聞くことが出来ました。そしてこの島がエンハンスド王国という国の一部だということもその時に聞き及んではいたのです。ですが……」


 調査団の生き残りの話では、彼らの調査が終われば王国が本格的な開発を始めるかもしれないと聞いていたらしい。

 だが、レッサーエルフたちはこの地から何処へも行くことは出来ない。

 船を作って例の入り江から他の場所へ逃げることも考えたが、到底不可能だと結論づけた。


「最終的には、いつかやってくるであろう王国の使者と話し合い、この地に住むことを認めてもらおうという事になったのですが、それから何十年たっても誰もやって来ることはなく」

「そこに僕たちがやってきた、と」


 小さく頷くと村長は話を続けた。


「ですので我々はあなた達と正式に交渉させていただきたい」

「わかりました。というか、もともと僕たちはそれが目的でここにやってきたようなものです。そのために聖獣様に間を取り持ってもらおうと思ってたわけですしね。もちろんコリトコを無事にこの村に送り返すことも目的の一つではあったんだけど」

「コリトコには悪いことをしてしまいました……我々に病に打ち勝つだけの知識があればと、何度悔やんだかわかりません」


 つらそうに瞳を伏せる村長に僕は努めて明るい声を意識して喋りかける。


「あれは僕たちにとっても未知の病気でしたよ。テリーヌの『ギフト』がなければ僕でもどうしようもなかった」


 いくら僕が大抵のものを『クラフト』出来ると言っても、その設計図と材料がなければ作り出すことは出来ない。

 だから貴族家にいる間に出来得る限りのクラフトに使える知識を詰め込んだのだけど、それでも知らない事はこの世には一杯ある。

 僕一人ではすべてを作ることも救うことも出来ないのだと、コリトコの病は教えてくれた。


「おおっ、そういえばコリトコなのですが」


 村長が突然何かを思い出したかのように両手を打ち鳴らし、そして言った。


「あの子は例の調査団の子孫なのですよ」


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