【閑話】バーグスへの手紙 前編
★★★ まえがき ★★★
クラフトスキルこと『追放領主の孤島開拓記』の2巻が12月15日に発売されます。
その記念として閑話を書きましたのでお楽しみください。
そしてよろしければ2巻を予約していただけますと幸いです。
あと現在開催中のカクヨムコンテストに以下の作品で参加しておりますので、こちらの方も応援よろしくお願いいたします。
貴族家を放逐されたので冒険者として仲間を育てることにしました~過労死で転生した平凡な男は地獄の辺境へ追放され最高の師匠たちに鍛えられ万能になる~
https://kakuyomu.jp/works/16816700429154573066
★★★★★★★★★★★★
僕の兄は、一言で言えばよくわからない人だった。
特にクレイジア学園へ通うようになってからは、学園近くに家を借りて殆ど屋敷に帰ってこなくなった。
たまに父の呼び出しで帰ってきたと思ったら、用事が済めばすぐ学園へ戻ってしまう。
それでも時々僕の所に母の目を盗んでやってくることがあった。
どうして母の目を盗んでやってくるのかを一度尋ねたことがある。
その問いかけに、母が兄を嫌っているからだと兄は笑って応えてくれた。
僕と兄は、父は同じだけれど母は違う異母兄弟だ。
ただ兄の母は早くに亡くなって、それ以降僕の母が子の家の全てを取り仕切るようになったらしい。
国の政治の一端を担う父は、貴族同士の政治にばかりかまけて家のことはないがしろ。
なのでダイン家のあれやこれやは母が一人で切り盛りするしかなく、僕も母と会えるのは一日でも僅かの間でしかない。
といっても僕は僕で母が僕のために集めてくれた家庭教師の先生たちによる勉強が一日の大半を占める。
どうやら僕はかなり筋が良いらしく、剣術も算術も貴族としての所作やその他諸々について、いつも先生方は褒めてくれた。
もちろん褒められるのは嬉しい。
そしてそのことを聞いた母から褒められるのはもっと嬉しい。
だけど一つだけ嫌なことがある。
それは先生たちも母も僕を褒めるときに必ず兄を引き合いに出すことだ。
口々に僕は兄に比べて優秀だと皆は言うけれど、僕にはどうしてもそうは思えない。
確かに兄の学園での成績は中の上くらいでとりわけ優秀ではないと聞いている。
貴族としての礼儀作法や交渉術なども最低限のことが出来るだけで、国の政治の一端を担う大貴族のダイン家を継ぐには物足りないという声も聞く。
僕が後を継いだ方がダイン家のためになるといろいろな人たちが陰に日向に話しているのを聞いたのも一度や二度ではない。
特に母は僕に会うたびに兄を酷く罵り、貴方が跡継ぎになるのですと抱きしめてくれた。
僕はそれが母が僕を愛してくれているからの言葉だと理解はしていた。
だから嬉しくもあったけど、兄のことを悪く言われるのは辛かった。
一度そのことを母に訴えたこともあったけど、そのときの母の顔は二度と僕がそのことを口に出来なくなるほどの表情で。
それ以来僕は口を塞ぐしかなかった。
でもどうしてだろう。僕は兄のことをよくわからない。
周りの人たちは兄を悪く言う人たちばかりなのに兄のことが嫌いになれないのだ。
それはまだ僕が小さかった頃に後妻の子として生まれた僕を兄はなんのわだかまりもなく受け入れてくれたからだろうか。
それとも母の目をかいくぐっては時々僕の部屋にやってきて、屋敷からこっそりと町へ抜け出して見つけた面白いものと話をお土産に持って来てくれたからだろうか。
この屋敷は今は母が支配している。
だから兄の味方は今は亡き兄の母に仕えていたごく一部の家臣だけ。
そんな状況でも兄はいつも飄々としていて。
兄に冷たい視線を送る家の人たちに対しても分け隔て無く接する姿を見て僕はいつしか兄には敵わないと思ってしまったのかもしれない。
兄と僕の時間はいつも母の目の届かない僅かな時間だけで、その時間も月日が流れて行くにつれどんどん少なくなっていった。
なぜならダイン家における母の権力が誰の目にも明らかなほど強くなって行ったからである。
常に数人の護衛が付き、部屋にいるときは部屋の前だけでなく兄がよく忍び込んできた窓の外にも誰かしらが目を光らせ。
兄がクレイジア学園を卒業する頃には僕と兄の接点は殆ど無くなってしまっていた。
母は決して兄を僕に近づけさせない。
卒業おめでとうと言うことすら出来ない。
どうすれば兄に会えるだろうかと考えていた頃、僕は突然父に呼び出され。
「お前をダイン家の跡取りとして正式に発表する」
父にそう告げられたのだった。
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