第46話 幻の鉱物を見つけよう!
僕とキエダ、そして聖獣様は聖なる泉に新しく架けられた木製の綺麗な赤い橋を見ながら話をしていた。
『良い出来ではないか』
「そう言って貰えると苦労した甲斐がありますよ」
実際にこの橋を造るのにはかなり苦労をした。
最初は石橋を造ろうと思っていたのだけど、聖獣様が『この泉に橋を架けるなら木製の橋が良い』と言い出したのだ。
しかも『色は鮮やかな赤がいい』と、色の指定までする始末。
木製の橋を造るための設計はキエダが出来るというので任せることが出来たが、問題は染料だ。
何故かというと、僕の持つ素材の中には『鮮やかな赤色』を出せるものがなかったから。
なので僕は最初色については断るつもりでいた。
だけど『赤い色の材料が足りない? それなら我が知っておるぞ』と聖獣様に言われては断る理由が無くなってしまった。
染料の素材があるという場所は例の聖獣様の住処から更に奥に行った所にある洞窟らしく。
さすがにそんな所にテリーヌを連れていくのは気が引けたので、彼女には村の人たちと宴の準備をしてもらい、僕とキエダと案内役の聖獣様で向かうことにしたのである。
「この洞窟は安全なんですか?」
岩壁にぽっかりと空いた洞窟の入り口から中を覗き込みながら僕は聖獣様に尋ねる。
『安全だから我も寝床にしておるのだ』
「寝床? まさか聖獣様はここに住んでいるんですか?」
『うむ。我の真なる住処はここだ』
村人たちが聖獣様の住処と呼んでいる例の花溢れる広場と違い、目の前の洞窟は今にも中から魔物が飛び出してきそうな不気味さだ。
とても聖なる獣が住む場所とは思えない。
『お主だから教えたのだからな。決して他の者たちに教えるでないぞ。そんなことをしたら乙女たちの夢を奪うことになるのだからな』
「わかってますよ」
『もしバラしでもしたら、我のこの角でお主の尻を貫くからな』
「ひえっ」
そう言って頭を下げ、角を見せつけてくる聖獣様から僕は自らのお尻を押さえながら飛び退る。
聖獣様の目が本気だ。
「それで聖獣様。この洞窟の中に例のものがあるのですな?」
そんな僕たちのやり取りを余所に、キエダが洞窟の中を覗き込みながら問いかけた。
この場所がバレたら尻を突かれるのは僕だけじゃ無いんだぞと言いそうになるが、キエダはあまり気にしてない様で。
「キエダ……もしかしてもう経験が?」
僕の頭にそんなあり得ない想像が浮かんで、慌てて頭を振ってそれを振りはらう。
キエダは確かに執事になる前は世界中を飛び回る冒険者だったが、そういう冒険はしてないはずだと信じたい。
『洞窟の中もだが、まずはレストよ』
「何です?」
『お主の力でこの洞窟の岩に水をかけてくれ』
「水ですか?」
聖獣様の寝所に入るための儀式か何かだろうか?
僕は訝しみながらも手持ちの素材から普通の水を選択するとそれを目の前の洞窟の周りにかかるように取り出した。
全体に掛かる様に少し多めに僕が水をかけた途端だった。
「えっ」
「ほう……」
水が掛かった場所を中心として、今までただの岩だと思っていたその壁が一瞬で真っ赤に色づいたのである。
一体どういうことなのかと戸惑っている僕の横を、キエダが「まさか、こんな所に……」と呟きながら岩壁に近づいていく。
『どうだ。見事なものだろう』
自慢げに胸を張る聖獣様だったが、確かに目の前の美しい赤を見ればその言葉に同意するしかない。
「聖獣様、少し削ってもよろしいですかな?」
『うむかまわんぞ』
「では失礼して」
キエダは聖獣様に許可を取ると、愛用のナイフを取り出し、その柄の部分を岩に叩きつける。
何度かそれを繰り返したキエダは、手の中に数個の真っ赤なかけらを持って僕たちの元へ戻って来た。
その顔は何やら興奮を隠しきれない様であり。
僕は彼がこんな表情を浮かべたのを今まで見たことが無かった。
「レスト様、ご覧くださいこの『鮮やかな赤』を!」
キエダが差し出した手のひらの上に乗っている岩のかけらは、その全体が鮮やかな赤に彩られている。
水がかかっただけでこんな色になるとは、なんと不思議な岩なのだろう。
僕はこんなに鮮やかな色の岩なんて見たことが無かった。
だけどキエダは先ほど「まさか、こんな所に」と口にしていたはず。
つまりキエダはこの岩のことを知っているということになる。
「キエダはこの岩のことを知ってるの?」
嬉しそうに手のひらの上の岩を見つめるキエダにぼくはそう尋ねた。
「これは
「
「でしょうな。私も若かりし頃、西の国で一時だけパーティを組んだベテラン冒険者から見せて貰っただけですので」
キエダの話によれば、そのベテラン冒険者が持っていた
冒険者曰く、特に美しい赤に変わる
『そんなに貴重なものでは無いぞ。雨の日になるとここら辺一体の岩が全て真っ赤になるくらいあるからな』
「この岩壁全てが……」
「一体どれくらいの価値になるのでしょうな」
僕たちはその岩壁を見上げながら、しばらくの間動けずにいたのだった。
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