第52話 村人たちの秘密を知ろう!
「思ったより整備されてるな」
「ええ、しっかりと手が入ってますな」
今僕たちは村長とトアリウトに先導され、例の穴の中に入り込んでいた。
最初トアリウトがどこからか縄梯子を持ってきてそれで降りる予定だったが、どうせならと僕のクラフトスキルで階段を作りながら下に向かうことにした。
穴の中に入ったのは村長とトアリウト、そして僕とキエダの四人。
あり得ないが、もし何かしらの罠だったときに危険だとテリーヌは聖獣様に任せておいてくることになった。
いや、正しくは聖獣様とコリトコ兄妹にだが。
コリトコを読んだ理由は、単純に聖獣様とテリーヌを二人っきりにさせたら危険だと思ったからである。
「この洞窟は我々の先祖がこの地にやって来た時に整備したらしいのです」
レッサーエルフは魔法が使える故に、この手のことも可能なのだという。
彼らは『初級魔法しか使えない』と卑下するが、僕から見れば十分な力を持っている用にしか思えない。
なんせ人族でもあれだけ見事に魔法を制御し使いこなせるのはそのギフトを持った者くらいだからだ。
一応小さな火を灯したり、コップ一杯の水を出したり程度の魔法はギフトなしでも使える人はいるが、その程度である。
多分だが彼らの始祖であり、今や敵となっている純エルフの魔力があまりに強大なため、それと比べて仕舞っているのだろう。
「ここです」
「行き止まり?」
洞窟は途中数カ所ほど枝分かれしていて、今僕は自分の居る場所が何処なのかわかっていない。
もちろん枝道に入る時に壁の一部を『クラフト』で変化させて目印を付けて来ているために、元の場所へ戻ることは容易だが。
しかし僕はてっきり例の秘密の入り江に案内されるのだと思っていたが、まさか行き止まりとは。
少し警戒心を見せた僕に気がついたのか、村長が口を開く。
「行き止まりに見せかけた隠し部屋といった物です」
「隠し部屋ですか。タダの壁にしか見えないここが?」
「まぁ見ていて下さい。トアリウト、頼む」
村長の言葉に小さく頷き返すと、トアリウトは正面の壁面に片手を当てた。
すると彼の手を中心として突然ぽっかりと壁に人二人分ほどの四角い穴が開いたでは無いか。
「おおっ」
「土魔法ですか」
「ええ、その通りです」
僕は壁に開いた穴に目を向けた。
どうやらまだ少しだけ通路が続いているようで、その奥は真っ暗で何も見えない。
「ではまいりましょう」
「あ、はい」
先に村長が魔法の光と共に進む。
おかげで真っ暗だった通路の少し先に鉄扉があるのが見えた。
「こういうのワクワクするな。還ったらうちの拠点にもこういう隠し部屋作ろうか」
「ほどほどにお願いしますよレスト様。どうせ作ったは良いけれど直ぐに飽きて忘れるでしょうから、そんな隠し部屋を大量に作られては我々家臣団としても管理しきれませんぞ」
キエダのそんな言葉に僕は「わかってるよ」とだけ答えた。
そんな話をしている間にも、村長とトアリウトは鍵を外して扉を開く。
一体この扉の向こうに何があるのか。
僕は唾を一度飲み込むと彼らの後に続いて部屋の中に入っていった。
「これは……」
「ほほう」
扉の向こうに作られた部屋は、僕が思っていた以上に広かった。
多分、穴の上に僕が建てた家の倍ほどはあるに違いない。
高さも大人三人分はあろうかというほど高く、そしてその天井近くまで――
「もしかしてここは武器庫なのか?」
かなりの数の武器や防具が山積みされていたのである。
しかも剣や盾だけで無く、ボウガンや見ただけではどう使うのかわからないようなものまで多種多様に。
「武器庫というより戦のための倉庫と言ったところでしょう。あちらには食料らしきものも、衣服や寝具のようなものも揃っておりますぞ」
「本当だ……凄いねこれは」
僕は部屋の中を見回しながら感嘆の声を上げる。
だが、感心してばかりは居られない。
今まで僕はレッサーエルフたちは純エルフに追われ、全てを諦めた種族だと思っていた。
だけどその考えは間違っていたと言わざるを得ない。
「もしかして貴方たちは、本当は王国と戦うつもりだったのか?」
無言のまま控えていた二人に振り返り、僕はそう尋ねる。
目の前の物品の山は、明らかに戦うために用意されたものだ。
しかし聖獣様のおかげと彼ら自身の魔法によって、この村の周りは殆ど危険というものは無い。
つまり、この武器防具を使って戦う相手は本来なら居ないはずである。
だけど現実にここにはそれがある。
だとすれば、この武器防具を使ってまで戦わなければならない相手といのは一つしか無いだろう。
「ええ、そのつもりでした」
「もちろん王国との話し合いがこじれた時の備えでしか無いし、出来るとしても籠城戦が精一杯であろうことは理解している」
もし王国が彼らを領民と認めず、純エルフへその身を差し出すとなれば、彼らはこの洞窟に逃げ込み徹底抗戦をするつもりだったというのだろうか。
だけどそんなことは長くは続かないはずだ。
いくら備蓄はあると言っても限界はやがて訪れる。
それまでに王国が損害を無視できないと引き下がるなり譲歩するなりすればいいが、それはあくまで希望的観測に過ぎない。
「いつまで」
「はい?」
「いつまで戦えると思っていましたか?」
僕は素直に彼らにそう問いかける。
「二十日ほど……ですかね」
「長くて三十日が限界だと思っておりました」
「それを過ぎたら降伏すると?」
僕の言葉に彼らは首を振る。
「限界を迎える前に我々は入り江が開くタイミングに合わせて夜陰に紛れ逃げ出す算段でした」
「でも船は無いって」
「ええ、船はありません。我々が準備出来たものは筏が数隻です」
「筏で脱出なんて無茶だ」
「それでも、他に選択肢は無いと思っていましたから」
僕は彼らのその返答に盛大に溜息をつく。
そうだった。
彼らはずっとこの島の中で生まれ育ってきたから、この島の外を知らないのだ。
大海へ目印も航海技術も無いまま筏で漕ぎ出すと言うことがどういうことかを。
準備を万端に、貴族家が所有していた最新鋭に近い船でやって来た僕でさえこの島にたどり着くまでに何度も命の危険を感じた。
もちろん沈むことは無かったが、それは強烈な体験だった。
王都に住んでいた頃は、内海のクルーズ程度しか経験の無かった僕は、このまま海の藻屑になるのではないかと心配したほどである。
多分彼らの言う『筏』では、数日も持たないに違いない。
「本当に僕がこの島の領主に任命されて良かったと思ったよ」
「それは我々も同じ気持ちです」
「ううん。多分ちょっと僕が今感じてる思いとは違うんじゃないかな……」
僕は苦笑いを浮かべながらそう答えたのだった。
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