第53話 レア鉱石を見つけよう!

 洞窟の中でレッサーエルフの『本気』を見せてもらった僕たちは、その後元の家まで戻った。

 そこでテリーヌに簡単に中であったことを話した後、もう一度村の集会場である村長の家へ向かう。


 道すがら聖獣様は『どのような者が襲ってこようとも、我の角で突き刺してやるというのに』などと物騒なことを言っていたが無視をする。

 実際聖獣様の力はどれほどのものかはわからないが、この村の周辺から危険生物を追い払うことが出来ているのは事実だ。

 なのでレッサーエルフたちが心配していたような領主がやってきたとしても、彼の力でしばらくは持ちこたえることは出来たろう。

 かといってたったの一頭では限界もある。

 もし本気で王国がこの島のレッサーエルフたちを排除し捕らえようとしたならば、聖獣様は倒されてしまうだろう。


 それに、王国軍よりももっとやっかいなのが純エルフだ。

 純エルフ族の魔法は、王国軍ですら手出しをしないほど強力だと聞いている。

 そんな奴らが攻め込んできたら、とてもではないが撃退できるとは思えない。


「まぁ、それでも今の僕ならなんとかできそうだけどね」


 僕はそうつぶやきながら手のひらの上に一つの銀色に輝くインゴットをクラフトする。

 それは先ほどの部屋で見つけたレア金属だった。

 その金属の名前は――


「レスト様。それは一体なんなのです? 銀の固まりでしょうか?」


 ニヤニヤとインゴットを僕が眺めているのを不思議に思ったテリーヌがそう問いかける。

 僕は手にしたインゴットを彼女に「持ってみるかい?と投げ渡す。


「わわわっ」


 突然、小さめとはいえ金属の塊を放り投げられて、慌ててテリーヌは両手でそれを受け取る。

 だが受け取った彼女の顔は最初こそ慌てていたものの、直ぐに驚きへ変わった。


「えっ……軽い……」

「だろ」

「銀じゃないのですか?」


 僕は彼女の顔を見返しながらその鉱物の名前を口にした。


「それはね――」

『ほほう。それはミスリルではないか』


 自慢げに僕がテリーヌに正解を告げようとした瞬間、横から聖獣様が馬首を伸ばしてテリーヌの手の中の金属を見てそう言った。


「これがミスリルですか。噂には聞いていましたが、こんなに軽いものなのですね」


 興味深げにミスリルのインゴットを両手で持ちながら眺めているテリーヌに、僕は一つ咳払いをしてから声を掛ける。


「ああ、それは本物のミスリルだよ。王都だと時々魔道具や魔法装備に加工されたものが出回るけど、インゴット素材の状態では産地でもないかぎり見ることは無いとおもう」

「そんなものをどうしてレスト様が?」

「さっき穴の中にあった部屋の話をしたろ。あそこで見つけたんだ」


 あの後僕らは村長とトアリウトに部屋の中の品々について説明を受けた。

 そしてその中に、部屋を作る時に土魔法では取り除けなかったために手作業で掘り出したまま部屋の隅に放置されていた鉱石の山があったのである。

 彼らもその鉱石がミスリルであるということは知っていたらしいが、ミスリルは魔力を吸い取るという不思議な特性を持つ。

 なので通常の魔法では破壊することも加工することも出来ない厄介な金属なのだ。


「この村に腕の良い鍛冶師でもいたならよかったんだけどね」

「ミスリルの加工はかなり大変だと聞いたことがあります」

「一流の鍛冶師でなければミスリルは扱えませんからな。人族でそこまでの技術を持つ者は殆ど知りませんぞ」

「人族でも鍛冶のギフト持ちなら可能だけどね。あとはドワーフ族には結構加工技術を持つ者も多いらしいけど」


 ミスリルは魔力を吸収する性質を持っている。

 だが逆にそれを利用してミスリルの中に魔法を閉じ込め、その効果を魔力が失われるまで永続的に発動させることも出来てしまう。

 それが魔法装備や魔道具というものである。

 ただし、そこまでの加工が可能になるにはかなりの熟練が必要で、そのせいもあってミスリル製の装備や道具はかなり高額で取引されていた。


「加工の仕方自体は簡単なんだよ。でもその加工のために温度管理とか、魔力を流すタイミングとかが難しくて――」


 そう言いながらテリーヌの手からミスリルのインゴットを取り上げる。

 そしてそのインゴットに向けて僕はギフトを発動させた。


「えっ!」

『ほほう』


 テリーヌと聖獣様が、僕の手の上を見てそれぞれ驚きと感嘆の声を上げる。


「まさかミスリルナイフですか?」


 一般的にはかなり加工が困難と言われているミスリル。

 だけど、僕のクラフトスキルは素材と作り方・・・・・・さえ用意し、知っていればその煩雑で難しい工程を全て無視出来るのだ。

 つまり熟練の技が無ければ出来ない加工も、僕に掛かれば一瞬で出来てしまうわけで。


「ちょっと待ってね」


 僕はクラフトスキルでミスリルナイフ用のケースを皮で作るとその中にナイフを収納する。

 そして、それをテリーヌに差し出した。


「これはテリーヌに上げるよ」

「よ、良いのですか? こんな高級品を」


 確かにミスリルのナイフは王都で買えば四人家族が一年暮らせるほどの金額になる。

 テリーヌが困惑するのも無理は無い。

 だけど。


「この島にはミスリルの大鉱脈があるみたいなんだよ。それに僕は素材さえあればこんなものならどれだけでも作れるしね」

「ですが」

「護身用のお守りだと思って持っててよ」


 そう言って無理やり彼女の手にミスリルナイフを押しつけると、僕は集会所に向けて歩き出す。

 魔力を吸収する素材『ミスリル』。

 あとはこの島にどれだけミスリルが埋蔵されているかだ。

 とりあえずあの部屋に積まれていた分と、周りに埋まっていたミスリルは既に素材化してある。

 これだけでも王都で売ればとんでもない金額で売れるだろうが、純エルフを相手取るにはまだまだ足りない。


「って、どうして戦うこと前提で考えてるんだろう。そもそも僕はこの島にゆっくりと暮らすためにやって来たはずなんだけどなぁ……」


 どうして世界でも屈指の力を持つ純エルフ族と戦うことを考えなければいけなくなったのか。

 貴族の世界のあれやこれやから逃げ出すために、自らの力を隠して道化を演じてまでやっとたどり着いた地だというのに。


 結局僕は貴族のしがらみから逃げたつもりだったのに、貴族として領民を守ることを真っ先に考えてしまっている。

 それは長年の貴族家で受けた教育のせいなのか、それとも……。


 そんな答えの出ない問いを僕は集会所にたどり着くまで何度も心の中で繰り返したのだった。 

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