第51話 村人たちと協議をしよう!

 宴の翌日。

 僕たちはさっそく村の代表と協議を行った。


 突然『この地の領主だ』とやって来た僕の話は、きっとかなりの反発を受けるだろうと思っていたのだが。

 話し合いはそんな僕たちの思惑を余所に、拍子抜けするほど順調に進んでいった。


「わかりました。我々ウデラウ村の民は、これから先は貴方様の領民となりましょう。皆もそれで良いな?」


 僕たちだけと話す時とは違った、威厳のある口調でそう告げた村長の言葉に、その場に集まった者たちから賛同の声が上がる。

 その中にはコリトコの父であるトアリウトも居た。


「そんなに簡単に決めて良いんですか?」


 僕は予想外の展開についそう問いかけてしまう。

 この日のために何十と説き伏せるための言葉を用意して、予行演習までしてきたのである。

 なのにこんなにあっさりと彼らは領民になってくれるという。


「簡単も何も、今回のことについては我々は既に話し合いを終えておりましたゆえ」

「そんなことをいつの間に……」


 呆然とする僕に村長は口元に笑いを浮かべながら答える。


「言いませんでしたかな? 我々はこの島が既にエンハンスド王国の領地だということを助けた調査団の人々から聞いておったと」

「確かにそう聞いたけど――」

「ですからその時に既に我々は決めていたのです。もしこの地を治める者がやってきたならばどうするかを」


 その中には、この地を捨てて何処か移住先を捜す旅に出るという案もあったらしい。

 元々彼らの先祖はそうやってこの島に流れ着いたわけで。


「しかし我々に当時乗ってきたような船を作る技術を持った者はおらず。最終的には、いつか訪れるその人物に全て委ねるしか無いということになったわけです」

「でも、それじゃあもしこの地に派遣された領主が暴君だったら――」

「我々にはもう何処にもゆく場所はありません。それに一国と戦えるだけの力も無いのです」


 村長の言葉に、その場の一同が頷く。

 確かに彼の言うとおりなのかもしれない。

 だけど、なんだか僕には納得がいかなくて。

 彼らのその判断は、僕にとってはとても都合が良いことだと言うのに。

 だから僕の口は止まらなかった。


「それじゃあもし王国から派遣された者たちが君たちを純エルフに差し出すと言ったらどうするつもりだったのさ」

「……それは……」

「純エルフ族はレッサーエルフ族を捕まえるために世界中に手を回しているんだろ? 僕も王都で純エルフを見たことがあるから、王国にも純エルフの手が回っているのは間違いないはずだ」

「……」


 村長は僕の言葉に黙り込む。


 もちろん僕は、例え国からの命令があろうとも彼らを差し出すつもりは無いけれど。

 もし王国にこの島のレッサーエルフの存在を知られたとしても、僕の力なら彼らを逃がすことも隠すことも簡単だと思っているからだ。

 だから村人たちの判断は間違いでは無い。

 けれどそれはこの地にやって来たのが僕だったからで、運命に流されるままの彼らの考えがどうしても引っかかってしまったのだ。


「その辺にしておいてあげてくれないか」


 黙り込んだ村長の代わりに、そう声を上げたのはコリトコの父であるトアリウトだった。


「本当はもし君が……領主様が我々の『敵』であったなら、我々は全力で戦うつもりだった」

「トアリウト!」

「村長。彼には本当のことを話すべきです」


 本当のこととは何なのか。

 僕は次の言葉を待つことにした。


「はぁ……わかった。トアリウトの言うとおりだ」


 村長はそう嘆息すると立ち上がって言った。


「それではレスト様、皆さん。私に着いてきて下さい」

「何処へ行くんだい?」

「着いてきて貰えばわかります……と言うのも無作法ですな。例のあの穴の中までご足労願いたく」


 例の穴と言うと、彼らが漂着した秘密の入り江へ続く洞穴のことだろう。

 結局まだあの穴の中に僕たちは入っていない。


「あの穴に何か? それとも――」

「来て貰えればわかります」


 村長はそう答えると集会場となっていた村長の家から出て行く。

 そしてその後をトアリウトが追う様に続いた。


「レスト様」

「ああ、とりあえずついて行ってみよう」

「私もいきますわ」


 そうして僕たち三人は顔を見合わせ頷き合うと彼らの後を追うように出口に向かったのだった。

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