第89話 鍛冶場をクラフトしよう!
「それじゃあ最後に鍛冶場を作ろうか。でも僕には鍛冶の知識が無いから君たちの力を借りないと作れないから協力してくれよな」
その言葉にあからさまにオルフェリオス三世だけが目を輝かせる。
ようやく自分たちの力が見せられると思ったのだろう。
それともジルリスに良いところを見せたいのか?
僕は三人から作りたい鍛冶場の姿形と、必要なもの、その配置などを聞きながら建築予定地に移動する。
といってもドワーフたちの家から10メルほどしか離れていない場所である。
鍛冶は高熱の炎を扱うため、周囲10メルに何も無い場所に作ることにした。
壁沿いなので壁は真後ろにあるのだが、石造りの壁は燃えることは無いだろう。
「さてと、やりますか」
僕は何も無いその場所に向けて右手を差し出して、鍛冶場の建設を開始した。
鍛冶場の広さは四方が10メルほどの四角形。
屋根は高く、換気用の窓が上と下に付いている。
上の窓はガラスだと熱で割れてしまうので金属製にし、つっかえ棒で開ける方式にした。
そして部屋の中には二個の炉が右隅と左隅に備え付けられていて、同時に作業が可能になる。
最初一個だけあれば十分だと思ったのだが、扱う鉱石や作るものによって炉の温度は違うらしく、一つだとその切り替えだけでかなり無駄な時間が出来てしまうのだという。
「とりあえず指示通りに作って見たけどどうかな?」
僕は鍛冶場を細かくチェックして回る三人に向けてそう尋ねる。
しかし先ほど家を作った時と違って、今度は三人が三人とも不満そうな表情を僕に向けた。
「うーん、たしかにぃ言った通りに出来てるようにみえるけどぉ。ちょっとこれじゃあ使えないわねぇ」
「俺もジルリスと同意見です。すみません」
「やはり素人が作るものはこの程度であったな。全くなっておらぬ」
そうして三人は次々と僕の作った鍛冶場の悪いところを指摘していく。
結果、指摘された内容で理解できた部分はクラフトし直すことが出来たが、流石に専門的すぎる部分は僕には直すことは出来ず。
特に炉に関しては一切の妥協が許されないことがわかった。
「流石にこれ以上は僕には無理だよ」
「そうですか……」
「だから素材を色々ここに置いていくから三人で納得いくまで作り直すってのはどうかな?」
「生半可な粗大では俺様……いや、師匠が満足できるような炉は作れはせぬぞ」
「でもドワーフ国にあるのと同じような炉を作ろうとするならぁミスリルとかぁ必要だしぃ」
「さすがにミスリルは俺たちでもそうそう手に入らないです」
ミスリル。
俗に魔法金属と呼ばれているそれは、魔力をよく通し、さらに増幅する力を持つと言われている。
軽くて丈夫、しかも加工しやすいということで人気の金属なのだがその採掘量はそれほど多くないために希少で、一般に目に出来るのは魔道具などにごく僅か使われるているものだけである。
だが、僕はその希少金属をそれなりの数手に入れていた。
そう、あのウデラウ村の地下でだ。
「ミスリルなら持っているよ」
「「「えっ」」」
僕の言葉に三人が同時に目を丸くして僕の顔を見る。
そんなに驚くことなのだろうか。
「それでどれくらい必要なんだい?」
「ど、どれくらいって」
「えっとぉ、炉二つ分だからぁこれくらい?」
ジルリスは両手で空中に四角を描きながら答えた。
「ジルリス。そんなにこやつがミスリルを持っているわけが無かろう」
「そんなことはわかってるわよぉ。行ってみただけぇ」
「そのくらいで良いのか。じゃあ」
僕は左手を部屋の端に向けると素材収納からミスリルを取り出して見せた。
「……うそ……」
「……まじでぇ?」
「偽物だろう? 確かてみようではないか」
三人は恐る恐るといった風にミスリルの塊に近寄っていくと、その表面に手を当てたり持ち上げようとしたり、どこからか取り出した工具で表面を叩いたりし始めた。
そして三人の顔が最初は驚きの色にかわり、それが徐々に喜悦に満ちたものになっていくのを見て僕は「それじゃあ後は任せたよ」と言い残し、返事を待たず鍛冶場を後にする。
それから、そのまま鶏舎に足を向けた。
キエダたちが帰ってくるまでに例の川から拠点まで引く予定の水路の事前調査をしておかないといけない。
そのために足代わりと護衛代わりに先ほど戻したばかりのクロアシを迎えに来たのである。
後すっかりクロアシの相棒となったエストリアも一緒に誘うつもりだ。
まぁ、今では僕も一人でクロアシに乗ることは出来るようになったが、やはりエストリアが居ると居ないとではクロアシの機嫌がかなり変わってくる。
そう。
あくまでクロアシのためにエストリアが必要なのであって、僕が個人的にエストリアと二人で拠点の外に出かけたいと思ったわけではない。
心の中でそんな言い訳を呟きながら鶏舎の近くまでやってくると――
「ひゃっはあああーっ!!」
『ぴぃぃっ』
そんな僕の耳にヴァンの奇声が飛び込んできたのだった。
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