第18話 仲魔も卵も手に入れよう!
話は少し前に戻る。
「本当にあのフォレストウルフ――いやエヴォルウルフだっけ、それがあの子の相棒だったなんてな」
コリトコの病気を僕のクリエイトで作った特効薬で治してから二日後。
なんとか自らの足で歩けるようになったコリトコを連れて、僕らは魔物たちを閉じ込めている檻までやって来ていた。
なお、正気を失う可能性があったアグニだけは、領主館でお留守番である。
「ファルシ! ファルシ」
『ばうわう、ばうわう』
ファルシという名前らしいエヴォルウルフの入れられた檻に近寄っていくコリトコがその名を連呼すると、あれだけ凶暴そうに見えた魔物が思いっきり尻尾を振って甘えた鳴き声を上げで飛び跳ねだした。
その姿は魔物というより普通の大型犬にしかみえず、その喜んで舌をだしながら尻尾を振る姿からは野生も一切感じられない。
「あっちのためにごめんよぉ」
『くぅーん』
その不思議な風景を見ながら僕は、コリトコと昨日話した内容を思い出していた。
話によると、エヴォルウルフのファルシは、彼が幼い頃から共に過ごしてきた兄弟のようなものらしい。
実際コリトコには少し下の妹が居るらしいのだが、それとは別にファルシはコリトコにとっては大事な弟だと思っていたようだ。
体の大きさからコリトコよりも年上かと思っていたが、ファルシはまだ十歳の若い個体なのだそうで、森で怪我をして親から捨てられていたところをコリトコの父親が拾ってコリトコの相棒となるようにと共に育てたのだとか。
「あっちの父さんは凄いんだよ。どんな魔物や動物だってお話しして友達になっちゃうんだ」
その話を聞いた僕らが頭に浮かべたのは『ギフト』のことだった。
もしかしたら彼の父親は【テイマースキル】のギフトを持っているのではなかろうか。
なので僕はコリトコにもう一つ尋ねてみることにした。
「君のお父さん以外に同じように魔物とお話出来る人は村にいたかい?」
その答えを僕たちは「いない」だと思っていた。
だけどコリトコが告げた答えは意外なもので。
「お父さん以外だとあっちと妹だけだと思う。でも僕たちじゃあまだちょっとしかお話出来ないけど」
それは、もしかすると彼の父のギフトと同じものをコリトコとその妹は受け継いでいると言うことになる。
人間の場合、親のギフトを子供が継ぐという前例はほぼなく、あったとしても似たようなギフトを授かったという程度のものだ。
だけど、コリトコたちは父親の力をそのまま受け継いでいるという可能性が高い。
「それでもあっち、十歳になってからファルシの言葉だけはわかるようになったんだ。あと他の魔物の言葉も少し」
コリトコの年齢をこの時初めて知ったが、まだ十歳になってそれほど日が経ってないらしく。
そんな子供が一人で村から追い出されたのだと思うと胸が苦しくなる。
しかも彼自身それが当たり前のことだと納得している節があるのが切ない。
「村を出る時にお父さんがファルシを連れて行けって言ってくれたんだ。僕はファルシまで病気にしちゃだめだと思っておいていくつもりだったんだけど」
当のファルシ自身が最後までコリトコから離れなかったそうだ。
それで彼はファルシの背にまたがって村を出てなるべく遠くを目指したのだという。
しかし病はどんどん進行し、持ってきた食べ物も全て食べ尽くしてしまった彼は、遂にほとんど動けなくなった。
「食べるものもなくなっちゃって、もうこのまま死んじゃうんだなって思った時にちょうどあのコーカ鳥の巣をみつけたの」
最後の力を振り絞って、その巣に産み落とされた卵に手を伸ばそうとした時、コーカ鳥の親子が帰ってきてしまったらしい。
「先に生まれた子供と一緒に餌を捕りに行ってたみたいで……」
「それで襲いかかってきたコーカ鳥とファルシが戦うことになったわけか」
「うん。ファルシは僕を守ろうとして怪我をしちゃって……」
結局ファルシもコーカ鳥も自分の大切なものを守るために戦っていたと言うことがそれでわかった。
その話を聞いてから僕は檻の中の魔物たちに餌をやって様子を見てみたが、特段暴れることもなくそれぞれ干し草と干し肉を美味しそうに食べてくれた。
その姿を見る限り危険性はなさそうだと判断した僕は、今日こうしてコリトコを連れてきたわけである。
「しかし、魔物たちを殺さずに捕縛するだけで済まして良かったですな」
キエダがファルシの頭を撫でているコリトコを見ながらそう告げる。
たしかにあの時とっさに魔物を退治するではなく捕縛することを選んだ僕の判断は結果的に正しかったといえよう。
僕のクラフトなら、あの時の魔物たちを一網打尽に倒すことも実は可能だった。
だけど、僕は何故か彼らを殺したくないととっさに思ってしまったのである。
「そうだね。もしあの時慌ててファルシを殺してしまっていたら、今頃僕はコリトコに合わす顔が無かったよ」
コリトコとファルシ。
兄弟のように育った二人の再会を見つめる僕たちだったが、それは後ろからかけられた少女の声によって中断させられた。
「レスト様、レスト様ぁ」
「なんだよフェイル。今良いところなんだから静かにしてなよ」
「でもでもぉ、あそこ見てくださいですぅ」
何度か無視をきめこんだが、それでもしつこく背中を突くフェイルに、僕は仕方なく振り返って尋ねた。
「ああもう、しつこいな。どこだよ」
「あのコーカ鳥の親の檻の中ですぅ」
フェイルが指さしていたのはコーカ鳥の親が捕獲されている檻から少し離れた場所だった。
ちょうど僕らの位置からは親鳥の姿で影になって見えていなかった場所で。
「ん? どこ?」
「あそこですよぅ。こっち来て下さいです」
フェイルに引っ張られ少しだけ場所を移動すると、彼女が僕に見せたかったものの正体がわかった。
それは僕の頭くらいはありそうな、大きな大きな卵で、それを産んだと思われる親鳥は既にまったくその卵に興味を示していないどころか、それを檻の外へ放り出したところを見ると……。
「無精卵かな?」
「かもしれませんな。たしかコカトリスも同じように有精卵は大事に扱い、無精卵は巣から捨てるとか聞きますぞ」
だとするとこれは朗報だ。
この地に来て初めて、持ってきた保存食以外のものが手に入る可能性を偶然手に入れたのだ。
「あたし、あの卵取ってきますです」
「大丈夫だと思うけど気をつけてな」
そう言い残して卵に向かって飛び出していったフェイルを見送った僕は、この領地に来て始めて手に入れた【新鮮な食材】の可能性と、その増産計画を頭の中に描き始めたのだった。
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