第19話 鶏舎をクラフトしよう!

「特に邪魔なものも無さそうだし大丈夫そうだね」


 午前中に畑を作った僕は、種まきをアグニとフェイル、そしてキエダに任せ、畑からあまり離れていない場所を調べていた。

 今から僕が作ろうとしているのは『鶏舎』である。

 もちろん中で育てるのは鶏なんかじゃない。

 例のコカトリス亜種らしいコーカ鳥だ。


「これくらいの広さがあれば十分かと。それに必要になればこの拠点を更に広げれば良いだけでございましょう?」


 後ろにはテリーヌがコリトコと手を繋ぎながら、僕の作業を見てくれている。


「そうだね。僕のクラフトを使えば安全簡単に拠点を広げることも直ぐにできるもんね」

「領主様って何でもできちゃうんだ」

「なんでもって訳じゃ無いけど、作り方と材料さえあれば大体のものはクラフト出来るかな。コリトコも何か欲しいものがあったら言ってくれ」

「うーん、コーカ鳥たちのおうちの後でいいからファルシのおうちも作って欲しいかな」

「それなら後で立派なものを作って上げよう。どうせまだまだ土地は捨てるほどあるんだし、好きな場所を選んで良いぞ」

「わーい」


 元々かなりの人数の調査団が暮らすために作られた拠点は、僕らだけしか居ない今は無駄に広い。

 なので今はどこでも選び放題である。

 もちろん僕がこれから建物を作ろうとしている場所は除いてだけど。

 でもこれからこの場所に住む領民が増えていけば直ぐに手狭になるだろう。

 その時はその時でまた考えれば良いか。


「さて、それじゃあ鶏舎をパパッとクラフトしちゃいますか。まず素材を一旦加工してっと」


 僕は右手を鶏舎建築予定地の横の地面に向けると、領主館を作った時と同じように素材収納の中にある木を建築用にクラフトしなおして積み上げていく。

 頭の中に浮かんだ設計図に必要な分だけその作業を終えると、次は土台となる石。

 そして扉や柵も先にクラフトしておいた。

 なんせ魔物であるコーカ鳥を飼うための鶏舎なので、普通の木だけでは強度の面で心配がある。

 なので木材の中に石を埋め込んだ強度をます加工を施したのである。

 正直加工も面倒だったし重さもかなりのものになってしまったが、石のみだとコーカ鳥が嫌がって、卵を産まなくなることもあるらしいので仕方が無い


「あんな見た目でも結構繊細な魔物なんだなぁ」

「うん。だからあっちたちの村でもコーカ鳥の飼育係は特別だったんだ」

「コリトコのお父さんがその飼育係をやっていたのは、やっぱり魔物と言葉が通じるからかな」


 僕は鶏舎の資材をクラフトしながらコリトコと話をする。

 これから始める予定の畜産については、僕もキエダもメイドたちももちろん実体験はほとんど無い。

 あるのは本で手に入れた知識だけだ。

 なので実際に父親の手伝いでコーカ鳥の世話をしていたらしいコリトコの話は重要な情報源なのである。


「うん。だからお父さんは村で特別だったんだ。でも……」


 そんな重鎮のような立場の男の子供でも捨てられる。

 この島はそれほど厳しい場所なのだろう。

 だけど、それも全て僕が赴任する前までの話だ。

 これから全てが変わる。変えてみせる。

 そして、僕はこの島を楽園に変えて、皆で楽しく余生を過ごすんだ。


「領主様?」

「レスト様。目を覚まして下さい」

「はっ!」


 いかんいかん。

 未来の楽しい生活を妄想していたらそっちの方が楽しくなってしまった。


「心配しないで、ちょっと考え事をしてただけだよ」


 僕は少し垂れかけていたよだれをハンカチで拭くと、鶏舎を作るためにクラフトした資材の山を見上げる。

 どうしても鶏と違い巨体なコーカ鳥を飼育するには全てが大きくなってしまう。


「さて、準備完了! それじゃあ鶏舎のクラフトを始めるからそこでもう少しだけまっててくれよ」

「うん。領主様がんばれ!」

「おう! 頑張るぞ」


 コリトコの可愛らしい声援を背に、僕は左手の平を資材の山に向け、右手の平を建設予定地に向ける。

 そして意識を軽く集中させ頭の中で完成図をくみ上げると――


「いくぞ! クラフト!!」


 実際は叫ぶ必要は無いのだけど、気合いを入れる意味で大きく複雑なものを作る時はつい口に出てしまう。

 その声と同時に、左手に資材が次々と吸い込まれていく。

 そして反対側の手から今度はその資材が放出されると、僕の頭の中にある完成図に合わせて目の前でどんどん組み上がっていくのだ。


「凄い! 凄い!! ねぇテリーヌお姉さん、あれは一体どうなってるの?」

「さぁ、私にもレスト様のギフトの仕組みはわかりませんわ。でもギフトというのはそういう不思議な力なの」

「あっちにもあるのかな?」

「コリトコさんのギフトは魔物たちと話が出来る力でしょう? それは貴方とお父様、そして妹さんにしかないギフトだと思いますわ」

「そっか、他の村のみんなは魔物とお話なんて出来ないって言ってたもんね……これがあっちのギフト……」


 後ろからテリーヌとコリトコの会話が僕の耳に届く。

 ギフトというものは誰もが持つわけじゃない。

 父親がギフトを持っていたとしても、その子供はギフトを持たない。

 あくまでもギフトというのは神様からの授かり物であって、僕たち自身が得ようとして得られるものでは無い……はずだった。

 だけど、もしそれが継承出来るとしたら。


「ふぅ。二人とも完成したよ」


 僕は楽しそうに話す二人に振り返るとそう告げる。

 あれほど山のようになっていた資材がいつの間にか無くなっていることに気がついたコリトコは目を丸くして「全部なくなっちゃった」と呟いていた。

 多分途中からクラフト作業を見ることに飽きてテリーヌとの会話に夢中だったのだろう。

 まだまだ子供だから仕方が無い。


「領主様って、本当にコーカ鳥のおうちもあっという間に作れちゃうんだ」

「僕が何でも作れるって信じてくれた?」


 まぁ、何でもでは無いけれども。


「うん! そうやってあっちのために薬も作ってくれたんだよね」

「そうですよ。領主様が貴方のためにあの薬をあっという間に作って下さったんです」

「そんな恩着せがましく言うことじゃないよ。だって――」


 だって領主が領民のために力を尽くすのは当たり前のことじゃないか。


 そう口にしようとして僕は少し迷った。

 なぜならコリトコはこの島の原住民であって、正式に僕の領民になると決まったわけでは無いからだ。

 僕自身はこの島に住む人々は全て自分の領民だと思って接するつもりだけど、それは彼らからしてみれば侵略者の傲慢な押しつけにしかおもわれないかもしれない。

 だから僕はコリトコの前にしゃがんで彼と目を合わせながら言った。


「コリトコ。僕はこれからこの島をこの力を使って誰もが住みやすい場所に変えていこうと思っている。そして、この島の皆を束ね導く領主に成るつもりだ」

「領主……さま?」

「だから君に一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「……うん」


 僕は自分の心を落ち着かせるために少しだけ目を閉じ、もう一度開くと同時にその言葉を口にした。


「コリトコ。君を僕の初めての領民としてこの領地に迎え入れたいと思っている」

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