第100話 畑作りを始めよう!
拠点の拡張計画。
その前段階とも言える調査と水路の建設は順調に進んでいた。
キエダの地盤調査で拠点を街と呼べる程度まで拡大しても問題ないことも確認出来た。
といってもそちらに手を着けるのはまだ先の話である。
今は現在の拠点の中を自給自足が出来る様に設備を整えるのに集中しなければいけない。
特に食糧のための畑作りは急務だ。
島に着く前に買った食料も無限では無い。
十分な量が倉庫に保管されているが、その殆どは保存食で、生野菜と言えるものはウデラウ村からの貢ぎ物や一番近くにある王国の港町オミナで買い入れたものしかない。
しかもオミナには島から最低でもギルガスの船を使っても片道二日はかかる。
人員も少ない今、その往復に掛かる時間はかなり痛い。
それに資金にも限界がある。
最初は島にある
なにせこの島のものは外の世界ではかなりの稀少物ばかりである。
そんなものを大量に売りさばけば必ずその出所を探る者が出てくるはずだ。
今までこの島が手つかずだったのには理由がある。
もちろん島に上陸するのが困難だというのが一番大きな理由だが、それでも開発しようとすればいくらでも出来たはずだ。
だがそれを誰もしなかったのは、この島に稀少な鉱物があることを誰も知らなかったからである。
それが十分に開発費用の元が取れるどころかそれ以上のものが埋まっていると知られれば既にエンハンスド王国の領地でも無くなっているこの島を手に入れようと様々な国が先を争って上陸しようとやってくるはずだ。
そうなってしまえばまだ国としての体をなしていないカイエル共和国は一瞬にして飲み込まれてしまうだろう。
今はまだエンハンスド王国にも、他の国々にもこの島の財産を知られたくない。
というわけでオミナからの輸入に頼るのを今はまだ極力控えたいと思っている。
次にウデラウ村からの貢ぎ物だが、元々村では農作自体はしている者の漁は多くなく。
基本的に村の周りで採れる果物や山菜、自生している作物を採取して食料にしている。
たぶん彼らが元々エルフだからというのも有るのかも知れない。
というのも純エルフは自然を切り開いて農作物を作るということをしないからである。
その代わり彼らは自然の力を増幅させ、自生している植物などから採取できる量を増やすことが出来るとかで。
彼らは農耕などしなくても十分な食料を手に入れられるということらしい。
そういった狩猟採集生活は今はまだこの島の人口が少ないから成り立っている。
だけどこの先国民が増えることを考えればそれだけでは足りなくなるだろう。
幸い僕らはこの島に来る時にいくつかの作物の種を持って来ている。
季節的にもその種を植えて育てるためにはそろそろ種を蒔かないと間に合わない。
この島の気候は、島の外の海流の荒さと違って比較的暖かく穏やかだと聞いてはいる。
だけど冬になれば雪が降る日もあるとトアリウトたちから聞いていた。
そうなれば森の恵みも採れなくなるだろう。
なので今のうちに畑作りをして秋に収穫。
そして冬を乗り切る準備をしておかねばならない。
「というわけで今日は本格的に畑を拡張しようと思う」
「そういえば色々忙しくしていてすっかり畑のことを忘れてましたね」
朝食の後、僕がそう切り出すとテリーヌが思い出したとばかりにそんなことを言った。
彼女の言うとおり前に僕たちは畑を作りかけていた。
皆に協力してもらい邪魔になる廃材などを片付けクラフトスキルを使って栄養豊富な畑の土を作り四つの畑を完成させた。
そう、完成させたまではよかったのだが。
「今じゃ立派な雑草畑ですぅ」
フェイルの言うとおり、今じゃすっかり一メルほどの高さの草に畑は完全に覆い尽くされていた。
「あそこって畑だったんですか!」
「どーりてあの一角だけアホみたいに草が生えてるなって思ったらそういうことだったのかよ」
エストリアが驚き、ヴァンが呆れた様に鼻で笑うのも仕方が無い。
「鶏舎を作ったり塔を建てたりウデラウ村に出かけたりしてる内にすっかりね……」
僕は苦笑いを浮かべそう応えながら机の上に三つ、こぶし大の袋を置いた。
「これは?」
「僕らが島の外から持って来た種だよ」
僕は一つ一つの袋を指さしながら説明する。
「右からキャロリア、ジャ芋、小麦。ジャ芋は種じゃなくて種芋だけど、ある程度水と栄養がある土地であれば比較的栽培が簡単なものばかりを選んだつもりだ」
他にも何種類かの野菜や果物を素材化を使って種にして素材収納に収納している。
だけど一度に何種類も作物を作るのは拠点内に作れる畑の大きさ的に今は難しい。
なので最初はこの三種類に絞って栽培を始めることにしたのである。
幸い肥料についてはコーカ鳥たちの糞というちょうど良いものがある。
ウデラウ村の数少ない農地でもコーカ鳥の糞を使っていると聞いたので問題無いはずだ。
「畑作りは僕とキエダ――あとトアリウトさんにも手伝って貰おうかな」
「わかった。手伝おう」
最後に仲間の内で唯一畑仕事を経験しているトアリウトにそう声をかけて、僕は朝の会議を解散した。
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