第102話 正しい道を進み続けよう!

「冒険者時代に聞いた話なのですが」


 キエダがまだ冒険者をしていた頃。

 エルフの森のある東大陸から来た旅人から伝え聞いた所によると、エルフ族には植物の成長を助ける能力スキルがあるらしい。


「血が薄まったとは言えウデラウ村の人々にもその能力スキルが受け継がれていてもおかしくないのではと」

「植物の成長を助ける能力スキル……か。それならトアリウトさんが言っていたことも説明できるね」


 エルフ族といえば森や自然と共に生きる種族だ。

 そんな種族に神様が与えたギフトが『植物の成長を助ける能力スキル』なのだろう。


「でもギフトって、人それぞれ違うんじゃ無いの?」


 同じ人間同士でも神様から与えられるギフト――能力スキルは違う。

 そしてそれは望んだからと言って選べるものでは無いはずだ。


「それがそうでも無いのです」

「そうなの?」

「王国にずっと住んでいるとなかなか知る事もないでしょうし仕方ないこととは思いますが」


 エンハンスド王国は主に人間族が支配する王国である。

 一応他にも国交のあるガウラウ帝国などからやってきた獣人族なども住んでは居るものの圧倒的に人間族が多い。


 その獣人族も得意な力仕事を主な職業にしているせいで貴族である僕たちとは余り接点がなく。

 おかげで僕の他種族に関する認識はかなり曖昧だった。


 そもそも元々は王国の辺境でのんびりと領主生活を送るつもりだったし。

 王国の辺境などに他種族がやってくることもないだろう。

 そう考えて国際的なことを勉強するための授業はサボってクラフトスキルの練習に当てていたのが裏目に出てしまった。


「ギフトに関しては我々など想像も出来ない神々の領域でございますので想像するしかございませんが」


 キエダはそう前置きしてから。


「俗説では他の種族に比べて魔力も力も弱い人間族を慮って神は多種多様なギフトを授けてくれているのだと言われておりますな」


 そんな話があることを教えてくれた。


 素直に言えばよくわからない。

 だけど多分神様は僕たち力の無い人間族に様々な可能性を与えてくれたということなのだろう。


「あまり理解出来たとは言えないけど、そのおかげで僕はこの力を手に入れることが出来たわけだから文句は無いよ」

「これも一部の者たちの意見でしかありませんが、与えられるギフトはその人の人生にとって必要なものが与えられるのだと」

「人生に必要なもの……か」


 確かに僕にはクラフトスキルが必要だった。

 この能力スキルが無ければ今でも僕を邪魔者だと妬む継母の元で肩身の狭い思いをしながら、やりたくも無い貴族教育を受け、作り笑いばかりの晩餐会に顔つなぎのために出かける日々だっただろう。


「はい。ただその能力スキルを生かすも殺すもその人次第。間違った使い方をすれば間違った方向へ、正しい使い方をすれば正しい方向へ向かうことが出来ると」


 自分の能力スキルを過信して。

 それが神様から授かっただけの借り物の力だということも忘れ、自分の欲望のために使い破滅した人の話は幾つも聞いたことがある。


 もしかして自分があの家から逃げ出すために力を使ったことは、その人たちと同じなのではないだろうか。

 そんな不安が心の中で首をもたげる。


「僕は正しい方向へ向かっているのかな?」

「レスト様はいつも正しい方向へ向かっております。そのことは私たちが保証しますぞ」

「ウデラウ村の一同も同じ思いだ」


 それまで僕とキエダの話をじっと聞いていたトアリウトが声を上げる。

 

「レスト様の行いが間違いだというのなら、コリトコを――我々レッサーエルフを救ってくれたことも間違いになる」

「ははっ……そうだね。僕は君たちを助けたことを間違いだなんて思ってない」


 そうだ。

 僕はきっと正しい方向へ進んでいるはずだ。


 そうじゃなきゃ僕を信じて着いてきてくれたキエダたちにも、僕の領民となってくれると言ってくれたレッサーエルフやドワーフの皆も全て間違っていることになるじゃないか。

 僕は自分が正しい方向へ進んでいると信じてこれからも進むしか無い。


「もしかして神様はここまで見越して僕にこのギフトをくれたのかも知れないね」


 そう口にしながら僕は目の前に自分の背丈ほどの建物をクラフトする。


「レスト様。これはエンハンスド王国の王城ですな」

「実は学園を卒業するときに今までの訓練の総仕上げとしてこれと同じものをクラフトして置いてきたんだよ」


 父に連れられて何度か訪れたことのある王城を細部まで精密にクラフトした模型。

 もちろん実際には中に入ることの出来なかった部屋については想像だけど。


 それを僕はあの日、卒業の記念としてクレイジア学園の旧校舎の前にあった今は使われていない噴水の跡地に設置してきたのである。

 あの学園の敷地内には今も僕が練習のためにクラフトしたものが沢山残っているが、この王城の模型は当時の僕の全てが詰まった最高傑作だと言えよう。


「あっ」

「勿体ないですな」


 無言で王城の模型を素材に戻すと、残念そうな声を上げる二人に向かって笑いかける。


「ここはもうエンハンスド王国じゃなんだから王国の城はもういらないよね」


 そして僕は二人とに。

 いや、僕の進む道が正しいと信じてくれた皆にむかって――


「いつかきっとこの場所にみんなで新しい城を建てよう」


 そう宣言したのだった。

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