第74話 風呂上がりにドギマギしよう!

「姉ちゃん、見てくれよ!」

「そんなに慌てて、何かありましたの?」


 ヴァンの部屋が完成して僕が一休みしていると、興奮した様子で先ほど出て行ったばかりのヴァンがエストリアを連れて帰ってきたようだ。


「いったい何がそんなに……」

「いいからいいから。姉ちゃんも見たらびっくりすると思うぜ」


 戸惑いながら湯上がりでしっとりした耳をふるふると震わせたエストリアが扉から部屋の中をうかがうように顔を覗かせる。

 バスローブを纏っただけのその姿に、僕は僅かに動揺してしまう。

 どうやら風呂から上がって髪を乾かす間もなく連れてこられたようで、僕は慌ててたちあがるとタオルをクラフトした。


「ありがとうございます」


 僕がタオルを手渡すと、彼女はそうお礼を口にして受け取ったタオルで軽く頭を拭いた後耳と髪を軽く包み込むように巻く。

 頭に犬耳が付いている以外は普通の女の子にしか見えないが、尻尾とかも生えているのだろうか。

 後でテリーヌにそれとなく尋ねてみよう。

 そんなことを考えていると髪をタオルで巻き終わったエストリアと目が合ってしまう。


「新しいタオルが必要なら作るけど?」

「後でまたお風呂できちんと乾かしますので、今はこれで大丈夫ですわ」


 応え微笑む彼女の顔はほんのりと赤い。

 照れているのか風呂上がりで火照っているだけなのか僕には判断は付かない。


「これ見てくれよ。この部屋の中のもの、全部レストがあっという間に作ったんだぜ! あれも、これも、それもだ」


 一方ヴァンは悪びれた様子も無く部屋の中に入ってくると、部屋中に僕がクリエイトして設置した家具を一つ一つ指さしながら説明を始めた。

 エストリアはヴァンに近寄るとその、彼の話をしょうが無いなといった表情で聞き続けた。


 あらかたヴァンが話し終えた所で僕は二人に声を掛ける。


「ヴァン、エストリアが風邪を引いてしまうかもしれないからその辺にして続きは明日にしたらどうだ?」

「私でしたらこの程度では風邪を引くことはありませんよ。こう見えて獣人族ですので」


 獣人族は風邪を引かない。

 と言うわけではないというのは後で詳しく聞いて知った。

 ただ僕らと違い、風邪や病気に対する耐性が高いと言うだけの話である。


 この島の気候は基本的に温暖であるため大丈夫だが、流石の獣人族でも寒い地方で水に濡れたままいれば風邪も引く。

 ただ彼女の言うとおり、この島ではそこまで心配することはないらしい。


「せっかくだから姉ちゃんの前で本棚とか作って見せてやってくんないか? きっと驚くと思うぜ」

「でも、とりあえず次はエストリアの部屋を用意するから、僕のスキルを見せるのはその時でも良いじゃ無いか?」

「うふふ。でもレスト様の力はもう何度も見させていただいておりますわよ。先ほどのタオルもですし、入り江から戻る時にも階段を作ったりしてらっしゃったでしょう?」

「それはそうだけどよ。なんつーかこういう場所で俺の望んだとおりのものをポンポンと目の前で作り出されるってのは、また違うんだよなぁ」


 エストリアは「そんなものなのですか?」と首を傾げて僕の方に目を向ける。


「ヴァンは入り江から戻る時、一人で先に登っていったから、僕が階段とかを『クリエイト』しているのをちゃんと見てなかったからかもな」

「そういえばそうですわね」


 そんな話をしていると、部屋の外からテリーヌがやってきた。

 その両手にはエストリアの着替えらしき服が抱えられている。


「エストリア様、ここにいらしたのですね」

「ごめんなさいテリーヌ。ヴァンがどうしても付いてきて欲しいって無理矢理連れてこられたの」


 話を聞くと風呂の後、テリーヌが用意していた着替えがあまりに奇抜だったため、洗濯物を取りに来たアグニに「……これじゃだめ」と言われ、フェイルを押しつけられて二人で着替えをえらんでいたらしい。

 その間アグニから無難なバスローブをエストリアは渡され、暫く脱衣所で体を乾かしていた所にヴァンが襲来したとのこと。


「どうしてテリーヌのセンスで服を選ばせたんだ……」

「そんな酷い。でも私も自覚はしているんです」


 テリーヌが自分のセンスの悪さを自覚していたということに驚く。

 だがそうか。

 自覚していなければ時々センスだけはあるフェイルに服を選んで貰うようなことをするわけがないのか。


「それじゃあエストリア。君の部屋はこの部屋の向かいにしようと思うんだけどいいかな?」

「はい。何処でもかまいませんわ」

「それじゃあ君が着替えてくるまでその部屋で待ってるよ」


 僕はそう告げるとヴァンの部屋を出て、向かいの部屋の扉を開ける。

 部屋の中はこちらもやはり家具も何もおかれていないさっぱりとしたものだった。


「わかりました。急いで着替えてきますね」

「慌てなくて良いからね」


 どうやら二階のフェイルの部屋を使って着替えることにしたらしく、二人はそのままフェイルの部屋に入っていった。


「ヴァン。君も風呂に行ってきたらどうだい?」

「そうだな」

「タオルと着替えは用意して置くよ」

「ありがとよ。じゃあ行ってくるぜ」


 ヴァンは部屋から飛び出すと、階段を飛び降りるように一階へ向かった。

 僕はそれを見送るとキエダに、僕の服からヴァンが着られそうなものを見繕って脱衣所に持って行くようにと頼む。


「たしかにレスト様とヴァン殿の背格好は近いですから大丈夫そうですな」

「そのうちエストリアとヴァンの服は新しくクリエイトするけど、サイズもわからないし今日の所は有りもので我慢して貰うさ」


 それだけ答えると僕はキエダに軽く手を振って、なにもない部屋に入って行くのだった。


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