第81話 相棒
「……了解しました」
アグニは頷くと早速行動を起こす。
まず目の前のアレクトールに近づいてその羽毛の中に腕を突っ込む。
すると――
『ぴきゅぅい』
アレクトールは突然おかしな鳴き声を上げたかと思うとその場にへなへなと座り込んだでは無いか。
「……次、クロアシ」
続けて乱入してきたもう一羽のコーカ鳥も同じように無力化させる。
その手際の良に感心しつつ、乱入してきたコーカ鳥の片足が黒いのを見て、先ほどコリトコが言っていた気性の荒い子はこいつのことだと知った。
「黒い足だからクロアシか。単純な名前だな」
「……アレクトール以外は仮称です」
「か、仮称?」
「一応名前を付けて区別しておかないと困るってアグ姉が言うから、とりあえずあっちが全部名前を付けたんだ」
『わふっ』
今の騒ぎを聞きつけてかコリトコがファルシの背中に乗ってやって来て、アグニの言葉を補足してくれた。
「そうなのか。僕はてっきりアグニが勝手に名付けたのかと思ったよ」
しかし仮称か。
ということはいつか正式な名前が付けられるのだろうか。
そのことを僕はコリトコに尋ねると、どうやらアグニとアレクトールの関係を見て、他のコーカ鳥たちが自分たちも同じように『相棒』に名前を付けて貰うのだと言っているらしい。
「相棒?」
「アグ姉はアレクトールの相棒って扱いらしいんだ」
「そうなのか。相棒ねぇ」
僕はへたり込んだままのアレクトールを撫でているアグニを見ながら納得して頷く。
甘えるように『ぴぴぃ』と鳴いてアグニの手が撫でやすいように頭を動かすアレクトールの姿からは、相棒というより甘えん坊と母親のように思えてしまう。
「あ、あのぅ」
アグニに甘えるアレクトールの姿を見ていると、下の方から僅かに震えるような小さな声が聞こえた。
「そろそろ離していただいてもかまいませんか?」
「嫌だって言ったら?」
声の主は、先ほどから抱きしめたままだったエストリアだった。
僕はつい意地悪をしたくなってそんなことを口にしてしまう。
「その時は無理矢理にでも抜け出すかも知れませんよ?」
僕は慌てて彼女を抱きしめていた両手を離すと一歩後ろに下がる。
見かけは華奢な普通の女の子だけれど、彼女は獣人族だ。
その力の強さは既に見せて貰っている。
彼女が本気になれば僕の腕をへし折ることも簡単なはずだ。
もちろんエストリアがそんなことはしない優しい娘だとは信じているけれども。
「ごめんごめん」
「助けてくれたのは嬉しかったですけど、別に私は自分の力で抜け出せましたよ?」
「言われて見ればそうなんだけど、さっきは君が羽に埋もれて窒息しちゃうんじゃないかって焦ってしまったんだ」
「ふふっ。それでも少し嬉しかったので許してあげます」
少し頬を染めたエストリアはそれだけ言い残すと「アグニさんに櫛を返してきますね」といって去っていく。
それを見送ってから僕は、ふと思いついたことをコリトコに相談するために、彼に声をかけたのだった。
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