第96話 拠点拡張計画を立てよう! 2

「つまり今の拠点を広げるとすると、ちょうど星見の塔を中心にした形にするのが良いってことですね」

「そうだな。その当たりは高低差も少ない上に地盤も安定しているだろうし丁度良いのではないか?」


 キエダが描いたスケッチを元に、ギルガスが大きく丸を描く。

 その円は星見の塔を中心として面積は今の拠点の四倍ほどになるだろうか。


「拡張計画としては、まず周囲の地質と地盤を調べる所からですか」

「無論、せっかく街を広げても建物が沈んでは意味が無い」

「地盤調査か……そっちの方はいつも通りキエダに任せて良いかな?」


 この島に来てから領主館とかを建てるときにキエダの地質学の知識は大いに役立ってくれた。

 冒険者だったころに、ダンジョンの奥地での採掘や崩落に巻き込まれないために覚えたらしい。


「お任せください。立派な橋脚を建てても沈まないかどうかを調べるのは得意ですぞ」

「いや、別に橋を建てるわけじゃないから」


 もしかして地質学を趣味の橋造りのために勉強したのでは無いだろうか。

 そんな疑問が僅かに頭をよぎる。


「とりあえず任せたからね」

「腕が鳴りますな」


 でも今はどちらでも構わない。

 必要なのは確かな知識と経験である。

 僕はもう一人の経験豊富なドワーフに向けて話の続きを切り出した。


「次に建物を建てても大丈夫だと判断出来たら、今の拠点に隣接している所から時計回りに壁を広げていけばいいですか?」

「まずは壁で囲まないと魔物やら獣やらが侵入してくるだろうからな」


 キエダやドワーフ衆のような猛者たちなら、このあたりの魔物くらいは簡単に倒せるだろう。

 だけど建築中に不意打ちを喰らう可能性もある。

 コーカ鳥たちやファルシに警戒をして貰うという手もあるが、彼らにあまり負担をかけるわけにも行かないだろう。

 特にコーカ鳥たちは意外にストレスに弱いとコリトコから聞いている。


「とりあえず侵入が防げる程度のものを仮にクラフトでつくりましょうか。幸いまだ材料は山ほどありますしね」


 島に上陸するときに素材化で手に入れた石素材はまだまだ潤沢に素材収納に入っている。

 それにこれからも上陸通路や港をきちんと整備し直すためにもっと多くの石素材は手に入る予定である。


「このあたりの魔物であればお主のスキルで作った簡易的な壁でも突破は出来んだろうしな」

「そうですね。今の拠点の壁も同じように作ったんですが、今のところ壊されることも無いですし」


 開発がある程度落ち着いたらギルガスたちに全て立て替えて貰いたい。

 ついでに壁作りの知識も手ほどきして貰えば、途中からはクラフトスキルで一気に作業を進める事も可能だろう。


「大まかな範囲を決めたところで、次は街としての施設をどう配置するかですが」


 領主館は今の位置で問題ないとして今ある住宅や鶏舎も、それぞれ住宅街や牧畜場などにまとめたい。

 例の川から水を引き町中に水路を引くとすると、そうせざるをえない。


 それにこれから外からいくつかの家畜を買い入れるつもりだ。

 となると住宅街と鶏舎や牧場が近すぎると臭いや騒音の問題も出てくる。

 なので街作りは最初の計画が大事だ。


「いずれは畑とか牧場は街の外に作りたいですが、今はそんな余裕も人員もいないのでこのあたりで」

「となると住宅街や商店などは少し離れたこちらがよろしいでしょうな」

「ふむ。ならば水路はこういう風に引くとするか」


 そうして僕らは街の簡易的な計画図を作り始めた。

 キエダの知識とギルガスの経験、そして僕のクラフトスキル。

 それぞれがそれぞれの知恵を出し合う話し合いについ夢中になるあまり、気がつけば日は頭の上にまで登っていて。


「レスト様、昼食のお時間ですよ。続きはその後でおねがいしますね」


 昼になっても帰ってこない僕を探しに来たテリーヌに呼びかけられるまで、僕らの会議は続いたのだった。

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