第97話 水路を作ろう!

「ありがとうエストリア」


 拠点拡大のためにキエダが周辺の地質と、建物を建てられるかどうかの地盤調査を行っている間に僕は川から水を引くための水路作りを進めていた。


 メンバーはギルガスと三人の弟子、そしてヴァンとエストリアだ。

 ギルガスたちには主に水門の建設や水路の仕上げをしてもらい、ヴァンとエストリアはそのあいだコーカ鳥に乗って周囲の警戒を任せていた。

 獣人族ということもあるのだろうか、今では拠点で二人に敵うコーカ鳥使いはいないほどである。


「それでは私とヴァンはこのあたりを回って危険が無いか確かめてきますね」

「きをつけて」

「俺様とトビカゲがついているんだ。姉ちゃんに怪我なんてさせるわけがねぇよ」


 もともとコーカ鳥は臆病な魔物だ。

 なので魔物や危険にはかなり敏感で、エストリアたち獣人族の知覚でもわからない距離の魔物ですら察知することが出来る。

 本来であれば察知すると同時に逃げるというのがコーカ鳥の戦法なのだが、二人の――特にヴァンが操るトビカゲは主人に似たのかかなり好戦的な性格で、逆に魔物を追いかけて追い払うのを楽しむまでになってしまった。


「あらあら。私とクロアシだって負けませんよ?」

「じゃあ競争すっか?」

「ヴァン。今はレスト様たちが安全に作業出来る様にするのが私たちの役目ですよ」

「……わかってるよ。そんな怖い顔するとレストに引かれちまうぜ」

「えっ!? 私、そんな怖い顔してましたか?」


 慌てて自分の顔をペタペタと触り焦り出すエストリア。

 だけど別に彼女が引く様な怖い顔をしていた訳では無い。

 むしろぷっくりと頬を膨らませて弟を叱る彼女の顔は可愛らしいと言った方が正解だろう。


「ヴァンの嘘だよ」


 僕は笑いながら「とにかく二人を信じてるから」と言った。


『ぴきゅ!』

『ぴぴー』


 するとその言葉に抗議するかのようにコーカ鳥たちが鳴く。

 コリトコの様にお互い言葉がわかるわけじゃ無い。

 だけど付き合いが長くなるにつれ、何かしらコーカ鳥たちとも意思が通じるようになってきた。

 たぶん、勘違いじゃ無いと思う。


「もちろんクロアシとトビカゲも信じてるよ」


 苦笑しながら僕はそれぞれの体を撫でてやる。

 今の僕たちにとってコーカ鳥は既に家族のようなものだ。

 彼ら、彼女らがいなければ今の様に拠点の壁の外を自由に探索することは出来ていなかっただろう。


「ちょっとこっちに来てくれねぇかレスト様よぉ。取水口はこのあたりで良いんじゃねぇかと思うんだけどどうだ?」


 少し離れた川の近くで先に現地調査を始めていたギルガスが大きく手を振って僕を呼ぶ。

 彼らの横には少し縦長のドワーフたちが作った台車が二つ並んで駐まっている。

 片方には彼らの仕事道具。

 もう片方には座席が四つ備え付けられていて、クロアシとトビカゲがここまで曳いてやって来ていた。


「はーい。今行きます」


 僕はエストリアとヴァンに小さく手を振ってからドワーフたちの元へ向かった。


「このあたりに作れば川の流れも良い感じだし、それでいてゴミも入りにくいだろう」


 取水口は拠点から見て少し上流に作ることは決まっていた。

 そこから緩い下り坂の用水路で拠点に引くのである。


 もちろん急な川の増水などで拠点内の水路が溢れたり、川の魔物が流れ込んできたりしない様に所々貯水場と柵を挟んだりといった仕組みを組み合わせることになっている。

 最初は一直線に川の水を引けば良いと思っていたのだけど、ギルガスにその話をしたら鼻で笑われてしまったのを思い出す。


「そうですね。それじゃあ早速工事を始めましょうか」

「ん、そうだな。それじゃあ地面に線を引くから、その通り掘ってくれ」

「わかりました」


 今回の工事行程はこういうものだ。

 まずギルガスが水路を掘る位置を決め、そこを僕の素材化で掘る。

 そして掘った所にクラフトスキルで石を使った溝を作っていく。

 その後、ドワーフたちが仕上げる。

 あとはゴミや土が入らない様に蓋をクラフトして乗せていけば水路は完成だ。


「それじゃあこのあたりをこう言った感じで掘ってくれ。先に水門を作らせる。言っておいた資材は横にでも置いてくれ」


 ギルガスが指し示した場所は川から一歩ほど離れた場所だった。

 いきなり水が流れてきては水路の工事は出来ない。

 なので先に取水口に取り付ける水門を作ってから作業を始めるのだ。


「おいお前ら。いつまでも水遊びしてねぇで得物持ってこっちに来やがれ!」

「はいっ」

「すぐいくわよぉ」

「やっと出番か」


 ギルガスが弟子たちに指示している間に僕は素材収納からギルガスたちが事前に作っておいた水門の部品を取り出し地面に並べる。

 何十個もの部品はそれだけでは僕には何がどうなるのかわからないが、彼らにはその全てが何に使うのかわかっているのだろう。


「それじゃあ仮組みを始めるわよぉん」


 ジルリスを先頭に、ライガスとオルフェリオス三世が取り出した部品の山からいくつかの部品を手に取る。

 そして少し離れた所でそれを組み始めた。


「組み終わったら呼ぶんだぞ」


 ギルガスは弟子たちにそう指示を出すと、手にした鉄の棒で地面に線を引き始める。


「こんなもんか。それじゃあレスト様よ。さくっと掘ってくんな」

「深さはギルガス産の背丈くらいで良いんですよね」

「ああ、それでいい。微調整は後でやれば良いからな」

「わかりました、それじゃあ少し下がっててくださいね」


 僕は水門を建てる地面に向かって片手をかざす。

 そしてギルガスが十分離れたのを確認してから――


「素材化!」


 彼が引いた線と寸分の違いもない場所を一気に素材化して水路工事を開始したのだった。





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