第69話 再会、そして紹介しよう!
「……レスト様、お迎えに上がりました」
コーカ鳥の背中からスカートをふわりとさせながら優雅に降り立ったのは間違いなくアグニだった。
その彼女の横にはどう見てもコーカ鳥にしか見えない魔獣が寄り添っている。
いや、間違いなくコーカ鳥なのだが、拠点を出た時に見た親鳥よりは体が小さいように思える。
「本当にアグニなのか?」
「……?」
「レスト様、疑いたくなる気持ちはわかりますが、間違いなくアグニですぞ」
あれほどコーカ鳥に嫌われていた……というより避けられていたアグニ。
彼女がそのコーカ鳥の背中に乗って現れたことがどうしても信じられない。
「キエダが言うなら間違いないんだろうけど、そのコーカ鳥はどうしたんだ?」
「……アレクトールですか?」
「アレク――なんだって?」
「……アレクトール。この子の名前です。私が付けた」
名前まで付けているとは。
『コケェ』
「……アレクトール、領主様に挨拶」
『コケコケッ』
アグニに促されたコーカ鳥が、僕に向けてまん丸な体を動かし挨拶らしき動きをした。
そしてそのままアグニに擦り寄ると、彼女に「……よくできました」と頭を撫でられご満悦の模様。
「アグニ、いったいいつの間にコーカ鳥――アレクトールと仲良くなったのですかな?」
「そうだよ。僕たちが出る前はあんなに嫌われて……」
「……アグニは嫌われてなんていない……ただ皆、恥ずかしがってただけ」
いや、それは絶対嘘だ。
現にコリトコもコーカ鳥の雛たちは隙あらば抱きつこうとしてくるアグニを怖がっていると聞いている。
とは言っても目の前でアグニにコーカ鳥が懐いていることも確かだ。
「いったい僕が留守の間に何があったんだ……」
「わかりませんが、このコーカ鳥とアグニの間に何かがあったことは確かでしょうな。しかしアグニから詳しく聞き出すのは難しそうですぞ」
「だな。帰ってフェイルにでも聞くしかないな」
僕とキエダがこそこそと話をしていると――
「あっ、アグニ姉ちゃんだぁ」
「やっぱりアグニの声でしたか」
馬車からコリトコとテリーヌが様子を見るために顔を出した。
二人の顔は少しまだ寝ぼけているようで、声も間延びしている。
テリーヌは昨晩は夜の監視役をしていたせいで馬車の中で眠っていたから仕方が無い。
そして二人はファルシの背にまたがって馬車の外へ飛び降りた。
続いてヴァンとエストリアが同じように馬車を出る。
一応馬車には乗降するための梯子があるのだけど、彼らには必要ないらしい。
「君、アレクトールって名前を付けて貰ったんだ」
『コケー』
「よかったね。やっぱりみんなあの場所が気に入ったんだ」
コリトコはファルシの背から降りて僕の横を通り過ぎると、そのままコーカ鳥に抱きついて話出す。
その一人と一匹の会話を聞いて思い出した。
コーカ鳥は安心出来る住処を手に入れると一気に成長するとコリトコは言っていた。
つまり、やはりこのコーカ鳥はあの小さな雛が短期間で成長した姿なのだろう。
「かわいらしい鳥さんですね」
「そうですね。コーカ鳥という魔獣らしいのです」
「コーカ鳥ですか。初めて聞く名前ですわ」
テリーヌはファルシの背から降りると、不思議そうな顔でコーカ鳥を見つめるエストリアとヴァンに説明をする。
「丸々太って美味そうだな」
それを聞きながら、ヴァンが不穏なことを口にする。
もしかして食べるつもりなのだろうか。
コリトコの話によれば昔はハーフエルフたちも食肉としてコーカ鳥を狩って食べていたらしい。
しかしコーカ鳥はコカトリスの亜種だ。
一見弱そうに見えてもかなりの強さの魔獣であって、一羽狩るだけでも多大な労力と被害が出た。
やがてその卵を得るために飼育した方が良いことに気が付いた彼らは、コーカ鳥の肉を食べることを止めた。
たしかにファルシと戦っていた母鳥はかなり強力な攻撃を放っていたし、僕のクリエイトでもなければ簡単に捕まえることは出来なかっただろう。
「ヴァン、あれは食用じゃないから襲いかからないでくれよ」
「そうなのか? あんなに美味そうなのに」
残念そうに髭をしならせたヴァンに、テリーヌは微笑みを浮かべ――
「その代わり拠点に戻ったら美味いものを用意いたしますわ」
と言った。
「うふふ。ヴァン、レスト様を困らせちゃいけませんよ」
「困らせるつもりは無かったんだけどな。まぁ、エルフの所で喰った料理も美味かったし期待しておくよ」
料理というほどのものでは無かったとは思うが、空腹で倒れたヴァンにはご馳走だったのだろう。
というか実はあの時テリーヌが作ったものはアグニがある程度下準備しておいたもので、テリーヌはそれを煮ただけだと言うことは今は言わないでおこう。
まぁ、どうせ拠点に戻ればバレることではあるのだけど。
「はい。コーカ鳥の卵を使った卵料理をご馳走させていただきますね」
「あの鳥の卵か。美味いのか?」
「ええ、とても。レスト様にも大変好評でした」
「へー、それは楽しみだな」
テリーヌは唯一誰にも負けない卵料理の話だけをして誤魔化している。
たしかにテリーヌの卵料理は美味かった。
何故かそれ以外の料理は微妙なのに。
「レスト様、そろそろそちらの方を紹介していただけますでしょうか?」
テリーヌの卵料理の味を思い出していると、エストリアがそう言った。
すっかりアグニのことを客人に紹介するのを忘れていたことに気が付いた僕は、アグニを呼ぶとヴァンとエストリアに紹介する。
「彼女の名前はアグニ。僕の臣下の一人で主に料理や家事を担当してくれている」
「……アグニです。レスト様の元で働かせていただいております」
アグニが深く頭を下げると、エストリアは優雅にカーテシーをしながら自己紹介で返す。
「私の名前はエストリア・イオルフと申します。こちらは弟のヴァン。ヴァン、挨拶を」
「おぅ。俺はヴァンだ。よろしく」
「……エストリア様にヴァン様……よろしくおねがいいたします」
お互いの自己紹介が終わった所で僕は全員を呼び集めた。
「こんな所で長話をしていてもしょうが無いし、続きは拠点に帰ってからにしようと思う」
「そうですな」
「わかりました。それでは私たちは馬車に戻りますわ。ヴァン、行きますわよ」
「はいよ。卵料理楽しみだなぁ」
「うふふ。ヴァン様ったら」
「……卵料理?」
馬車に戻る三人の会話を耳にして首をひねるアグニ。
そんな彼女にいつの間にかファルシの背にまたがったコリトコが近寄る。
「あっちはファルシに乗ってアグニ姉ちゃんと一緒に行くよ!」
『わうっ』
「……そうですか。では自分とアレクトールで先導します」
『コケケ』
アグニはそう応えるとアレクトールの背に軽く飛び乗ると、拠点の方向へ頭を向けさせた。
「それじゃあ頼んだよ」
「後に付いていきますぞ」
僕とキエダはアグニとコリトコにそう告げると御者席へ乗り込む。
アグニはそれを確認するとゆっくりとコーカ鳥を進ませ始めたのだった。
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