僕の神対応は最強らしい? 全ての神様に愛されて
ユウヒ シンジ
転生 1
「何か騒がしい・・なんだろう?」
僕は、何か歌声の様なものに気づき目を覚ます。
頭がボーとする中、その歌の様な音を求めて半開きの眼を手で擦りながら周囲を見渡す。
目に映ったのは黒い服を着た人の群集だった。
すすり泣く声があちらこちらから聞こえるその場所は、数人のお坊さんがお経を唱え木魚を鳴らす。
「ここは・・・お寺? なんで??」
僕は、自分のいる状況が判らず困惑する。
しかも、今、自分が立っている場所が混乱に拍車をかける。
自分の目の前にお経を唱える和尚さんが座っている。
和尚さんの後ろには自分が小さい頃からお世話になっている養護施設の先生や友人が黒い服を着て並んで座っているのが見えた。
その後ろにも見知った顔が並び、俺はその一団を見下ろしている感じなのだ。
「あの~、すみません」
「・・・・・・・・・・」
「すみません!!」
「・・・・・・・・・・」
「聞こえないのですか!!」
「・・・・・・・・・・」
俺は目の前にいる和尚さんに声をかけるが、反応する様子もなく、ただお経を詠み続けている。
困った俺は、事情を聞こうと見知った顔の方に歩きだそうとした瞬間、体がフワッと浮く感覚にビックリする。
体はそのまま、お寺の天井付近まで浮くと自然と止まり、部屋全体を眺めることが出来た。
俺は今まで自分が立っていた方を振り向くと、和尚さんの座る目の前には祭壇に沢山の花に囲まれて自分の写真が飾られているのが見えた。
「これって、幽体離脱? それに、あれって・・・葬式だよな? ・・・俺の葬式なのか!?」
自分の写真を前に和尚さんがお経をを詠み、その後ろに沢山の人が俯きながら、すすり泣く。
「なんの冗談だ? これは夢なのか?」
夢落ち定番の頬を抓ってみる。
「・・・痛くない。やっぱり夢だ」
俺は痛くないのだから夢だと思った。いや、思いたかった。でも抓った指の感触もなく、頬自体を触る事が出来なかった。
「これは、現実なのか? 夢なのか? 夢だとしたらやけにリアルだよな。俺ってお寺の内部なんて殆ど見た事ないのに、この細かいディテール、知っていても夢でここまでリアルに思い出す事なんて出来ない・・よな?」
俺は考えた、考えに考えて・・・
「うん、これ現実っぽい気がしてきた・・・」
自分の葬式を上空から見ている。
「普通なら驚いてパニックになっていて当然なんだが・・・」
特に取り乱すことも無く思ったより冷静でいる自分に驚いていた。
「もう一度考えよう。あれはやっぱり俺の葬式だよな? という事は、やっぱり俺死んだのか? でも、どうやって死んだんだ?」
ならばと、どうしてこうなったか思い出そうと腕を組み考え込む。
「たしか、大学の講義が終わって、バイトに向かっていたはず。・・・・え~っとそこで、交差点に差し掛かって、信号待ちをしていて・・・ああそっか! 女の子が飛び出して車にひかれそうになって、助けた俺がひかれたんだ。」
青年は思い出した。あれは確かに現実にあった事だ。つまり俺は死んだのだ。
自分の葬式を眺める。
結構参列者がいる。
報道関係の様な人もいるようだ。
「女の子を助けたヒーロー、なんて書かれていたりして・・・」
俺は冗談を言ってみたが、次には溜息しかでなかった。
「はあ、俺、死んだんだ・・・・・・だけど、人一人の命を直接守れたんだから、決して悪い事じゃないような? うん! 良いことをしたんだ! 自分を誇れ! これで天国確定?」
晴れやかな顔で天を仰ぎながら自分に言い聞かせるように呟く。が、直後眉間に、しわが寄る。
「で、これから俺は、どうすれば良いんだ?!」
状況は判ったものの、このままフワフワ浮きっぱなしでいる自分はこれからどうなるのかいきなり不安に襲われる。
「ま、まさかこのまま浮遊霊に・・・」
頭を抱え唸りながら悩みだすと、不意に体が上空へ引っ張られる感覚に襲われる。
「?!?!!」
その力は徐々に強くなり、目を開けていられなくなり、次の瞬間、周囲が黒一色に染まり気が遠くなっていく。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あなたの次の生まれる世界を選択させてあげましょう。」
唐突に、綺麗な女性の声が聞こえて来た。
「次の世界? 生まれる?」
「はい、あなたの来世の事です。」
ピンとこないぞ?
来世って、前世とか来世とかの来世なのか?
「はい、そうですよ?」
「え?あの、今、声に出していませんでしたけど?」
「あ、あまり気にしないで下さい。一応、管理神ですので、人の魂が考えている事くらい分かりますよ。」
「そ、そうなんですか。え?魂ですか?」
「はい、あなたは今、魂の状態です。魂って分かりますか?」
「え?ええ、まあ、あ?でも良く分かってないかもしれません。」
「まあ、大体あなたが考えているイメージで合っていますよ。で、申し訳ないんですが後がつかえていますので、手短に説明しますね。」
えらく事務的だな。
神様ってこんなもんなのかな?
「こんなもんです。」
「あ、ごめんなさい!」
「いえ、別に構いませんよ。本当は新しい旅立ちをする魂一人ずつに丁寧に説明してあげたいんですが、何せ今、転生ブームで日本人の魂が、各世界から引っ張りだこなんですよ。」
「そうなんですか?」
そういえば、そんな小説や漫画がたくさん出ていたな。
あんまり読んだことなかったけど。
「そうなんです。日本人の方って、そういう物語をよく読んでいて、それを転生先で実践するものですから、その世界が急激に成長したり、魔王を討伐したりと縦横無尽の活躍をするんです。おかげで日本世界の担当管理神の私に転生出来る魂が欲しいと依頼が山ほど来るんですよ! 一人で、処理する量じゃないんです! だから、チャッチャと終わらせます!」
管理神さん、ストレス溜まってそうだな?
だんだん、言葉が早口になってきているし、よく見ると眼にクマが出来ているよ。
「なんかブラック企業にこき使われている中間管理職の方みたいで大変そうですね」
「本当ですよ! 神といっても管理神なんて、中間管理職ですから、上からは他世界からの要望に迅速に応えよ! とか簡単に言ってくるんですよ? 下からはこちらに昇ってくる魂の選別作業が滞るから、早く転生処理して欲しいと突き上げられますし、職場の仲間なんていっても、惑星間でも数百光年離れていますし、異界ともなれば、簡単に行き来できないし、個人的な通信をすると懲罰が待っていますし、なので愚痴る相手もいません。はあ、なんで私、こんな仕事しているのかしら・・・・」
ああ! なんだか物凄く落ち込んで崩れ落ちてしまったぞ。頭の上に黒い縦線が一杯見える気がする。
「そ、そのですね、上司に改善要求出来ないのですか?」
「改善要求ねえ、結構しているんだけど、一度も返答が無いのよ」
「そうですか。それなら、他世界の神に頼ってみられたらどうです?」
「他世界ですの?」
「そうですよ。これだけ他世界から人気のある地球を管理している、あなたの頼みなら聞いてくれる他世界の神様も結構いるんじゃないですか?」
「・・・・・それもそうね。ちょっとお願いしてみようかしら?」
「そうですよ。それで少しでも聞き入れてくれるチャンスが増えれば、改善要求も考えてくれるかもしれませんよ?」
「うん、そうね。解ったわ! 頑張ってみる!」
「はい! 頑張って下さい!」
僕と管理神さんは、ギュウっと握手を交わしているような気がした。
だって、魂だけで手なんかないんだもん。
「・・・・・・・えっと、ありがとう」
管理神さんが何故かお礼を言ってきた。
どうしたんだろう?
「何か、愚痴言ったら少しすっきりしたの。まさか人に慰められるとは思って無かったわ」
少し俯き加減に顔を赤くしている管理神さん。
こうして改めて見るとやっぱり女神様だけのことはある。
もの凄く綺麗だ。
「その綺麗な顔にクマが出ているとだいなしですし、やれる事はやって見てください」
「優しいわね、あなた・・・そうだ、何かお礼をしてあげる!」
「お礼ですか?」
「そうよ、今度、あなたが行く世界の管理神に、あなたのこと目に掛けてもらうよう頼んであげるわ。神の愚痴を聞いてもらったお礼よ」
ウインクしながら、僕に微笑んでくれる神様。
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