みんなでバカンス! 8

「先程、お頼み申しました、ブロスフォード家の者です。神官長様にお目通りお願いいたします」


リーシェンが先頭に立ち、神殿の正面にある正門前に立つ衛兵の一人に話かけている。

僕達より先にこのランタンの水神様を祀る神殿に行ってもらって神官長とのアポを取って貰うようお願いしていたんだ。


「はて? ブロスフォード? どこかで聞いた様な?」

「失礼ですが、クフェル様何故ここに居られるのですか?」


カーナが、何食わぬ顔で僕らと一緒にいるクフェルに丁寧に訊ねた。


「は? 君達は僕の為に呪いの原因を探ってくれるのだろう? まあ、さすがに女の子ばかりの君達だけに探させるのは男としてどうかと思うのでな。こうして助力する事にしたのだよ。ふふ、気配りの出来る男は違うだろ?」


あ、カーナの眉間に青過ぎが浮き出てないか?


「別について来ていただかなくても大丈夫です。どうかお引き取りを」


丁寧に頭を下げるカーナ。

うんうん、護衛騎士としても人としても成長したなあ。

少し前のカーナなら即刻、拳の一撃でも飛んでいそうなものなのに。


「ふ、そう遠慮せずとも良い。領主の息子である僕が、あの麗しき彼女の為に力を貸そうというのだ。光栄に思うが良い。そして呪いを解いた暁には褒美として僕お愛人になる事を許そうではないか。女性としてこれ以上ない褒美だろう?」


うわ! 物凄い殺気が溢れ出した。

この殺気、カーナだけじゃない、リーシェンもシアもアクアまでがクフェルに向かって放たれている!

まずい、このままじゃクフェル、肉片も残らずこの世から消え去ってしまう!


「お待たせしました。神官長様がお会いさせていただくとの事ですので、ご案内いたします」


そこへタイミング良く、神殿の巫女の一人が出てきてくれた。


「おお、さすが神官長殿だ。この僕が訊ねて来て直ぐに対応してくれるとは、今度お父様にちゃんと報告しておいてやるからな」


大いばりだな。

巫女さんが不思議そうな顔しているぞ。

しかしそんな事はまったく気にせず優越感に浸っているクフェル君。

殺気のカーナ達の殺気もまったく気付かなかったみたいだし、本当に騎士の称号を持っているのだろうか?


「あ、いえ別にあなた様の事は関係ございませんが」

「はは! 照れる出ない。まあ仕方がないか。これだけの良い男を前にして緊張するなと言う方が酷なことだとは思うがな」


巫女さんの頭の上に?マークが飛び交っているのが見える気がする。


「水神様の巫女殿、気になさらないでください」


そこに怪訝な顔をしている巫女さんにシアが微笑みながら話しかけると、その巫女さんの態度が一変した。


「こ、これは失礼いたしました! ファルシア様」

「いえ気になさらずに願います」

「はい、ありがとうございます。では早速こちらへ。皆様もどうぞ」


そう言って巫女さんは神殿の扉を大きく開き中に入るよう促してくれた。

僕達はその招きに合わせ神殿に入ろうとしたのだが・・・


「はは、大儀であるな。では早速神官長に会うとしよう・・・しかしどうして僕の呪いの事を調べるのに神殿に行く必要があるのだ?」


シアが入ろうとする前を塞ぎ、ズンズンと先に神殿に入るクフェル君。

その態度に巫女さんの顔が青ざめて行くのが見えた。

巫女さんはちゃんと分かっているのにクフェル君は未だに判らない様だ。

それにしてもこれだけ自己中に物事を考えられるとは、返って清々しいかも・・・・・

まあ、どの道君の未来は暗黒の中なのは間違いないのは確かだけどね。


「巫女殿、案内をお願いしますね」


そんなクフェル君を無視してシアが巫女さんを促すと、我に返った巫女さんはそそくさとファルシアの前に出て大きく一礼すると神殿の奥へと向かって歩きだした。


「うむ、ご苦労。では皆の者行くとするぞ」


でも何故かクフェル君がシアの前に出て巫女さんの後を追って歩き出した。

そのクフェル君を見て、一層青ざめる巫女さんだったが、シアが無言で首を縦に振り合図をしたおかげて巫女さんはそれ以上取り乱す事無く案内を続ける事ができた。

ただ、カーナやリーシェン、アクアの殺気は先程の比ではないくらい高まってしまっていた。


クフェル君、君の死は確実に近づいている事に早く気づいて下さい。

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