みんなでバカンス! 7

ようやく神殿に到着できた。

相変わらずシアとアクアは僕にくっついたまま。

リーシェンはなんとか復活したものの、鼻の穴に千切った布を補足して詰めているのがちょっと間抜けっぽくて可愛らしい。

ただ、カーナの視線は未だに獣のそれだった。


「カーナ、理性だよ」

「は、は、はい! 大丈夫です! こうして見てるだけですから!」


鼻息荒いカーナの表情を見て大丈夫とは思えないのは僕の心が狭いせいだろうか?

とにかく僕達は神殿の前までやって来たわけだけど・・・この魔力以外は特に変わった所は見当たらない・・・


「魔力はこの中から拡散しているのは確かだけど・・・・」

「リーシェン、カーナ」

「「はい」」

「神殿の中の様子はどうだった?」

「はい。それはもうカップルばっかりでした」

「そう・・・それ以外は?」

「そうですね。水神様の彫像がありましたね」


「ビクッ!」


ん? アクア?


「そこの美しい彼女達!」


突然、大きな男性の声が響いた。

誰かを呼んでいるみたいだ。

まあ、この祭りだからね。

男子の方から声を掛ける者も居るんだろうな・・・・


「君達だよ。き・み・た・ち。僕と話をしないかい!」


「あ、シア、それで一度にみんなで入ってしまうと・・」

「あ~! 僕の声が届かないんだね! なんてもったいない! さあ! 聞くんだ! 美しいお嬢さん達!!」


「あのう、レン様」


リーシェンが僕の耳元で囁くように聞いて来る。


「うん、分かってるよ。分かってるから無視してるんだけどね」

「そうでしたか。さすがレン様です」


さすがかはどうかは知らないけどね。

関わってはいけない人種の様な気がしただけなんだ。


「お嬢さん、僕の言葉が聞こえなかったみたいだね」

「うお!!」


いきなり僕の顔の間近でわけの分からん事をのたまう優男が詰め寄って来たので思わず仰け反ってしまったじゃないか。


「やっぱり返事をしてくれたね。そうだよね。僕みたいな良い男から呼びかけられて無視続けることなんてできないよね? うん! みなまで言うな。ちゃんと分かってるよ。恥ずかしかったんだね? こんな良い男に話しかけられたのは始めてだったんだよね。分かる、分かるよお嬢さん。大丈夫恥ずかしがる事なんてないんだ! さあ! 僕の胸の中に!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「えっと、リーシェン。もう一度報告を聞こうかな?」

「無視するな!!」


あ、泣き出した。

でも関わりたくないんだけどなぁ・・・・


「あ、あのう・・・僕に何かようですか?」

「おお! やはり僕の美貌には抗えないんだね!!」

「それで、カーナ・・・」

「うぉおお! どうして僕の話を誰も聞いてくれないんだ!!」


自分で分からないのだろうか?

原因はハッキリしてると思うけど、わざわざ言わなきゃわからないのだろうな。


「良いですか? その、あなたの態度に女の子は引いてしまうのですよ! 確かに普通よりはイケメンかもしれませんが、あなたには内から出る魅力がまったく無いんです! 身なりからするとかなりの金持ちだとは思いますけど、顔と金があればどんな女の子でも落とせるわけじゃないというのがわかりませんか?」

「そ、そんな・・・これは呪いじゃないのか?」


呪い?


「去年まではこんな事はなかったんだ。このランタン領を治めるランタン子爵の長子、クフェル・ランタンである僕が声を掛ければ女の子は喜んでついて来てくれるし、なんでも言う事を聞いてくれていたんだ。それこそどんな奉仕でもしてくれた。それが今年はどうだ! 僕の事を見るだけで逃げて行く! 僕の何が問題だって言うんだ!」


問題だらけだと思いますよ?

これがこの街を含めたランタン領の領主の息子。

こんなのが跡継ぎだとランタン子爵も大変だろうな。

この男、女の敵だな。

シア含め、みんなの顔が汚物でも見る様な視線を突き刺しているもの。


「もう少し女の子の気持ちを考えて誘って見てはどうです?」

「そんな事、当たり前にしている!」


本当だろうか?


「このイケメン金持ちで子爵家の僕が相手をしてやるんだ。それ以上の配慮はないだろ?」


配慮って・・・この男の頭はどうなっているんだ?


「その、傲慢な態度が鼻につくんですよ。分かりませんか?」

「ぼ、僕が傲慢? そんな・・・そんな事一度も言われたことなんてないぞ?」

「そりゃあ領主様の息子だからでしょ?」

「な、何?」

「良く考えてください。もしあなたから領主の息子という立ち位置が無くなったらどうです? あなたが使っているお金は誰から貰っているんです? あなたが事業でもしているなら別でしょうけど?」

「僕が働く? そんな面倒な事はしていない・・・・ん? まてよ。そんな事考えた事も無かったが・・・領主の息子でなくなったらお金も貰えない・・・・そ、そんな・・そんな事になったら・・」


お、少しは考える力が残ってるのかな?


「ぼ、僕にはこの美貌しか残らないじゃないか! そんな事になれば女の子が・・・・・あ、大丈夫か。お金をくれと言えばくれてたな・・・・・となるとやはりこの呪いを解かないと死活問題ではないか!」


こいつやっぱりアホだ。

でも・・・確かに顔は悪くはないし、実際に領主の息子で金はある訳だし、誰もなびかないと言うのは少し変だな。


「アクアどう思う?」

「・・・・・その変な魔力が関係しているかも」


何だろう? いつもと変わらない抑揚の無い喋り方なんだけど、何か歯切れが悪いというか・・・考え過ぎかな?


「アクア体の具合でも悪い?」

「そんな事はない」

「そう?」

「うん・・・それより呪いと言うのは間違いじゃないかもしれない」

「やっぱりそうか・・・」


まあ、この男がもてなくなるのはどうでも良いけど、他にも影響が出ないとも限らないし少し調べてみるか・・・


「みんな、取り敢えず神殿に行ってみよう。呪いかどうかは分からないけど調べてみる必要はありそうだ」

「はい、私もこの国の者としてこのランタンに変な噂が蔓延るのは看過できませんから」

「そうだね。じゃあ最初の予定通り取り敢えず行ってみよう」

「「「はい」」」


「おお!! このクフェル・ランタンの美貌をもってすれば呪いなど関係なく世の女性は言う事をきいてくれるのだな!」

「違います!!」


なんだこの変態自信家は!!


「照れるでない。美少女よ。そう言えば名を聞いてなかったな? なんと申す?」


これ以上関わらない方が良いな。

僕は何も答えず歩きだす。

当然みんなも僕について来るのだけど・・・


「おい、待て。名前を教えてくれ! 待てというのに!」


こいつまでついて来やがった。

ま、無視し続ければ諦めるだろ。

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