みんなでバカンス! 9
「レン様、ほっといてよろしいのですか?」
リーシェンが僕の耳元で聞いてきた。
「仕方ないよ。たぶん何を言っても無駄。思い込みが激しいから自分の都合の良い様に全て解釈するタイプだよ。案外それが加護かもしれないね」
「どういった加護なのでしょうね?」
「そうだね・・・鉄壁な勘違い、とか?」
「ありそうですけど、でもああやって先頭に立っていられるとちょっと剣を抜きそうになるのですが」
「リーシェン、自重しようね?」
「レン様がそう仰るなら・・・しかしシア様を差し置いての振舞いは見るにみかねます」
「すだね。それはこの国の一貴族としては問題があるけど、シアが何も言わないのだから取り敢えずこのままで良いよ」
「はい」
シアがまだ我慢してるのだから僕が処分を下すのもどうかと思うからね。
一方シアの方は・・・
『レン様に対しての数々の言動・・・許しません。さすがに神殿の中ですから手は出しませんが、この件が終りましたら覚悟してくださいね・・・フフフフフフフ』
い、今一瞬! 何か物凄い殺気を感じた気がしたんだけど・・・・
僕はシアの方を何故か見た。
相変わらず可愛らしく微笑んでいる。
勘違いだったかな?
「こちらでございます」
案内役の巫女さんが、一つの扉の前で立ち止まり、僕達の方に向き直ってから深々と頭を下げた。
「うむ、ご苦労だったな。良ければ褒美に僕と一夜を過ごす事を許すぞ」
クフェル君、巫女さんから物凄い殺気を感じるんだけど分からないかな?
「何を震えている? おお、そうかそんなに嬉しいのだな」
「・・・・神官長様、ファルシア様、ブロスフォード様をお連れいたしました」
あ、完全に無視された。
「そんなに照れる出ない」
ハハ・・・ある意味凄いな。
「お入り下さい」
部屋の中から渋い男性の声が聞こえて来た。
たぶん神官長だろう。
その声を合図に巫女さんが部屋の重厚な扉を重そうに開けてくれた。
「では巫女殿、今晩使いの者を・・」
「クフェル殿、行きますよ」
「え、いや私はこの巫女殿に・・」
「行きますよ!」
「お、おおそうか嫉妬だな? 本当に僕は罪作りな男だ。レンさん大丈夫ですよ。君への愛は他の女性とは比べものにならないほど本気だから安心してほしい」
無視しよう。
僕はクフェル君を無視して部屋の中へと入る事にした。
最初にシアが入りそれを見届けてから僕が続く。
その横をアクアが引っ付くように並んで入ると、リーシェンとカーナがそれに続いた。
「こ、こら! 僕を差し置いて入るとわけしからん・・・お!?」
部屋に先に入ったのが気にくわないのか、クフェル君がリーシェンの肩に手を掛けようとした瞬間だった。
「私に触るな」
とうとうリーシェンの剣が瞬時に抜かれクフェル君の喉元にピタッと当てられてしまった。
「? な?!」
「動くと刺さりますよ?」
シアがその様子に何も驚く事なくクフェル君に注意する。
頷きたくても首に爪の先程の隙間なく当てられた剣先があったので、視線で分かったと訴えるしかないクフェル君。
その様子に満足し、改めて神殿長に向き直るシア。
「ファルシア姫様、ご無沙汰しております」
そのシアに神官長と思われる初老の男性が話しかけてきた。
「はい、お久しぶりです。レフェル神殿長様」
「それにしても何故クフェル殿と一緒なのですかな?」
「たまたまです。けれどこの方、私の事もレンティエンス様の事も知らない様で、ほとほと困っておりましたの」
心底嫌そうな顔で答えるシアを見て神官長様が情けなさそうな顔をされた。
「クフェル様」
「ひ、久しぶりだな神官長」
「はい、お久しぶりでございます。それにしても何をなさったのですかな?」
神官長も剣を突き付けられているクフェル君を特に不思議に思う訳でもなく、普通に訊ねているあたり、こういう事が起こる事は予想の範囲内なのかも?
「べ、別に僕は何もしておらん!」
「本当ですかな?」
「ほ、本当だ!! ぼ僕から女の子が急に寄って来なくなった呪いの原因を調べてもらう為に同行してもらっただけだ。こ、この美貌と権力とお金を持っている僕の事を心配しての事だ!」
申し訳ないが心配なんかしたこと無いよ?
ほら、シアを含めてみんなの顔が鬼みたいに目が吊り上がってクフェル君の事を睨みだしてる。
しかしこの状況でまだそんな事が言えるとは、かなりの自信家?
そんなに良い男には見えないんだけどね。
「ファルシア様、そうなのですか?」
「どうも思い込みの激しいお方のようですね?」
「そうですか・・・その事についてはランタン子爵様もお困りのようです」
やっぱりそうだろうね。
「クフェル様」
「何だ、レフェル神官長?」
「この方は、ファルシア・バーレ・フォレスタール様でいらっしゃいます」
「・・・ふむ、それがどうかしたのか? まあ綺麗な名前ではあるが」
「はぁ~、クフェル様、この王国の名前をお忘れですか?」
「はは! 馬鹿なことを言うものだな。忘れる訳がないだろう?」
「・・・・・では何んと言いますかな?」
「この僕を馬鹿にするのか?!」
「はい、ある意味そうかもしれません」
「な、な、なんだと!! 神官長!! 誰に向かっての言葉か分かっているのだろうな!?」
「その言葉、そっくりかえさせてもらいます。本当にこの国の名前を忘れていませんでしょうな?」
「馬鹿にするのもいい加減にしろ!! この国はバーレフォレスタール王国だ!」
さすがクフェル君、ここまで言っても気付かないの?
「はぁ~もう一度聞きます。このお方の名前は憶えておられますか?」
「馬鹿にするな! ファルシアだろう?!」
「ファーストネームではなくファミリーネームの方です」
「ふん! フォレスタールだろ?」
「・・・・・・・・それで分かりませんか?」
「? 何がだ?!」
この人大丈夫か?
リーシェンもカーナもアクアでさえ可哀想な顔をしてクフェルを見つめている。
「もう良いです。はっきり申しましょう。こちらファルシア・バーレ・フォレスタール姫様、この国バーレフォレスタール王国の第一王女にして次期女王となられるお方ですぞ? そしてこちらの御方はレンティエンス・ブロスフォード様、かの剣聖システィーナ・ブロスフォード様のお子様でありますぞ?」
神官長様が丁寧にクフェル君に言い聞かせる。
「そして私の旦那様です・・・・・・・」
シア、そこで顔を真っ赤にして恥ずかしがらないで!
僕まで恥ずかしくなるからね。
「・・・姫様? 剣聖? ブロスフォード家・・・・ファルシア王女様・・・・・」
「そこまで言って分らなければ、この剣があなたの喉元を通過しますよ?」
リーシェンがとどめの言葉を放つ。
「え? あ、ああ? あああ・・・ひっ!!」
あ、クフェル君気絶した。
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